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彼らの変化と婚約の行方
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翌日、ミリセント嬢絡みで婚約破棄した令息たちのその後が報告された。今のところ婚約破棄に至った者は五人いて、三人は領地に、残りの二人は騎士団に放り込まれて平から鍛え直されているという。
「でも、誰もミリセント嬢とどうにかなろうと言う者はいなかったんだ」
「誰も、ですか?」
「ああ。不思議なことに婚約破棄した後は目が覚めたのか、どうしてあんな事をしたのかと後悔しているらしい」
「後悔って……」
ディアークたちの様子からして、二人か三人はミリセント嬢と関わりたいと願っているのだろうと思っていたのに、誰もがすっかり興味を失っていた。どうしてあんな事をしたのかと悔やみ、復縁を願う者もいるらしい。さすがに一度婚約破棄しては復縁など叶うはずもないのだが。
「何だか気味が悪いわ。ディアーク様たちも日が経つと正気に戻られたようだし」
「何だか魅了にかかっているみたいですね」
「魅了?」
そう言えば最近、そんな言葉を聞いたなと思った。
「魅了など、現実的ではないだろう。この世界には魔法なんていうものは存在しないし」
「そりゃあそうなのですけど。でも、いかにもそんな感じじゃありませんか?」
「まぁ、確かに。だが……」
どこで魅了なんて言葉を……と思ったが、ローズを見て思い至った。彼女が貸してくれた恋愛小説の中にそんな記述があった。荒唐無稽過ぎるが、確かにディアークたちの様子はそれに近いだろう。だからと言ってそんなものを信じるほど子どもではないが。
「さすがに小説のような展開はあり得ませんか」
「残念ながら、現実的に考えると不可能だろうな」
王族の食事は厳しく管理されている。仮に媚薬入りの食事が出されても直ぐに発見されて口には届かないだろう。そうしないと国の存続にも関わりかねないのだから。
「う~ん、そうなると謎ですよねぇ……」
「そうね。でも、そうなるとディアーク様たちもミリセント様から引き離せば、正気に戻るのかしら?」
レイニーの口調が僅かに重く聞こえた。
「その可能性はあるだろうな」
「え? だったら婚約破棄はなしに?」
心底嫌そうな声を出したのはローゼだったが、レイニーも同感だったようだ。
「そうなられると、さすがに困るな」
「「……」」
さすがに憚って二人とも返事はなかったが、それが本音だろう。私としてもこうなった以上、レイニーにはフォンゼルと結ばれて欲しいと思うし、今更彼らの行動がなかったことになるのは腹立たしい。国のためには元の鞘に収まるのが一番なのかもしれないが……二人とその婚約者の間に出来た溝は、既に修復が難しく思えた。
「二人とも、どうしたい?」
「それは……」
さすがに本音を言うのは憚られるのだろう、レイニーはそれ以上何も言えなかった。それはローゼも同じで、でもその顔には元鞘は遠慮したいと書かれているように見えた。彼女たちが受けている扱いを思えば当然だろう。
その翌々日、事態は動いた。学園に戻ったディアークたちに付けていた影からの報告書に、私たちは初心に戻る羽目になったのだ。
「どうやら卒業後の夜会で、大々的に婚約破棄をする計画を立てているそうだ」
母上に謝罪があったから少しは目が覚めたかと思ったが、それは思い過ごしだったらしい。彼らは夜会で婚約を破棄し、冤罪を被せる予定は健在だった。
「しかも私たちには新たな婚約者まで用意してくれているそうだ」
報告書には、私には女遊びが派手なブランゲの次男を、レイニーには高齢で好色なバーデン侯爵を、ローゼには親と同世代のケリカー侯爵を宛がおうとしているらしい。バーデン侯爵は息子たちと妻を共有しているとの噂がある変人だし、ケリカー侯爵には既にローゼよりも年上の息子がいる。こちらはローゼの商才を狙ってのことだろう。どっちにしてもお断り一択な相手だ。
「やはり、当初の予定通り、あれらは痛い目に遭わなければ自分の立場が理解出来ないらしい」
「ふふふ……そのようですわね」
「少しは正気に戻ったかと思いましたが、無駄でしたね」
レイニーの笑顔もローゼの座った目も怖かった。この二人を見たら彼らもこのような計画を考えなかっただろうに、と思う。この二人は怒らせてはいけない存在なのだ。
だが、こうなったら仕方がない。降りかかる火の粉は払うまでだ。いや、払うだけでは物足りない。簡単に消すことなど出来ぬよう、大火にして渡してやるべきだろう。
「でも、誰もミリセント嬢とどうにかなろうと言う者はいなかったんだ」
「誰も、ですか?」
「ああ。不思議なことに婚約破棄した後は目が覚めたのか、どうしてあんな事をしたのかと後悔しているらしい」
「後悔って……」
ディアークたちの様子からして、二人か三人はミリセント嬢と関わりたいと願っているのだろうと思っていたのに、誰もがすっかり興味を失っていた。どうしてあんな事をしたのかと悔やみ、復縁を願う者もいるらしい。さすがに一度婚約破棄しては復縁など叶うはずもないのだが。
「何だか気味が悪いわ。ディアーク様たちも日が経つと正気に戻られたようだし」
「何だか魅了にかかっているみたいですね」
「魅了?」
そう言えば最近、そんな言葉を聞いたなと思った。
「魅了など、現実的ではないだろう。この世界には魔法なんていうものは存在しないし」
「そりゃあそうなのですけど。でも、いかにもそんな感じじゃありませんか?」
「まぁ、確かに。だが……」
どこで魅了なんて言葉を……と思ったが、ローズを見て思い至った。彼女が貸してくれた恋愛小説の中にそんな記述があった。荒唐無稽過ぎるが、確かにディアークたちの様子はそれに近いだろう。だからと言ってそんなものを信じるほど子どもではないが。
「さすがに小説のような展開はあり得ませんか」
「残念ながら、現実的に考えると不可能だろうな」
王族の食事は厳しく管理されている。仮に媚薬入りの食事が出されても直ぐに発見されて口には届かないだろう。そうしないと国の存続にも関わりかねないのだから。
「う~ん、そうなると謎ですよねぇ……」
「そうね。でも、そうなるとディアーク様たちもミリセント様から引き離せば、正気に戻るのかしら?」
レイニーの口調が僅かに重く聞こえた。
「その可能性はあるだろうな」
「え? だったら婚約破棄はなしに?」
心底嫌そうな声を出したのはローゼだったが、レイニーも同感だったようだ。
「そうなられると、さすがに困るな」
「「……」」
さすがに憚って二人とも返事はなかったが、それが本音だろう。私としてもこうなった以上、レイニーにはフォンゼルと結ばれて欲しいと思うし、今更彼らの行動がなかったことになるのは腹立たしい。国のためには元の鞘に収まるのが一番なのかもしれないが……二人とその婚約者の間に出来た溝は、既に修復が難しく思えた。
「二人とも、どうしたい?」
「それは……」
さすがに本音を言うのは憚られるのだろう、レイニーはそれ以上何も言えなかった。それはローゼも同じで、でもその顔には元鞘は遠慮したいと書かれているように見えた。彼女たちが受けている扱いを思えば当然だろう。
その翌々日、事態は動いた。学園に戻ったディアークたちに付けていた影からの報告書に、私たちは初心に戻る羽目になったのだ。
「どうやら卒業後の夜会で、大々的に婚約破棄をする計画を立てているそうだ」
母上に謝罪があったから少しは目が覚めたかと思ったが、それは思い過ごしだったらしい。彼らは夜会で婚約を破棄し、冤罪を被せる予定は健在だった。
「しかも私たちには新たな婚約者まで用意してくれているそうだ」
報告書には、私には女遊びが派手なブランゲの次男を、レイニーには高齢で好色なバーデン侯爵を、ローゼには親と同世代のケリカー侯爵を宛がおうとしているらしい。バーデン侯爵は息子たちと妻を共有しているとの噂がある変人だし、ケリカー侯爵には既にローゼよりも年上の息子がいる。こちらはローゼの商才を狙ってのことだろう。どっちにしてもお断り一択な相手だ。
「やはり、当初の予定通り、あれらは痛い目に遭わなければ自分の立場が理解出来ないらしい」
「ふふふ……そのようですわね」
「少しは正気に戻ったかと思いましたが、無駄でしたね」
レイニーの笑顔もローゼの座った目も怖かった。この二人を見たら彼らもこのような計画を考えなかっただろうに、と思う。この二人は怒らせてはいけない存在なのだ。
だが、こうなったら仕方がない。降りかかる火の粉は払うまでだ。いや、払うだけでは物足りない。簡単に消すことなど出来ぬよう、大火にして渡してやるべきだろう。
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