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古代文字の術式

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「これは…」

 私の問いかけに、リートミュラー様が微かに狼狽えたような気がしました。いえ、パンパンのお顔の表情は変わったようには見えないので、そんな気がするだけですが…

「そのお身体に掛けられている術式は、普通のモノもありますわね」
「ええ」
「普通のモノと古代文字のモノ、どちらもかなりの量ですし…ぱっと見ただけではもう、何が何だか訳が分からない状態ですわ」
「…さすがは優秀と誉れ高いゲルスター公爵令嬢でいらっしゃる」

 あら、ちゃんと人と真っ当な会話がお出来になるのですね。全く話をされなかったのでクラウス王子とは別の類の困った方かと思っていましたわ。

「それで、私に解除を望まれるのは…古代文字の方、でよろしいのかしら?」
「はい、仰る通りです」

 はっきりとそう告げるお姿は、これまでの態度とは別人のようですわ。やはりこれまでの姿は仮のもの、と思っていいのでしょうか。

「普通の術式は貴方が掛けましたの?」
「はい」
「そう…でしたら、それらを解除したお姿を見せて頂けます?古代文字の術式を見せて頂いてからお答えさせて頂きますわ」

 こんな危険を伴う事、無条件で受けるなんて出来ませんわ。まずは中身を見せて頂いて、私の力量で出来るのならお受けする事も考えます。出来ない事を出来ると安請け合いをするのは不誠実ですからね。

「…誰にも他言しないと、お約束頂けますか」
「ええ。ゲルスターの名に懸けて」

 私がそうお答えすると、リートミュラー様は暫し考え込まれてしまいました。そんな彼の行動に少し不安になってきましたわ。そんなに大変な事なのでしょうか…

「……わかりました。ですがこの術を解くと、私の見た目がかなり変わります。驚いて気を失った者もおりますが…」
「…事前にわかっていれば、問題ありませんわ」

 彼の言葉にちょっぴり不安になりましたが、ここまで来て引くのも敵前逃亡のようで私の矜持が許しません。それに、不安よりもあの古代文字の術式への興味の方が上回るのですよね。私がそう答えると、彼も心が決まったようです。



「それでは、こちらで」

 その後私達は、建物の外にある魔術鍛錬場に移動しました。ここは新しく覚えた魔術の実験や練習をするための場所で、それなりの広さがありますし、魔術が暴走しても外に影響を及ぼさないよう結界を幾重にも張ってあります。リートミュラー様が念のためにと仰ったからですが、ここなら万が一の事があっても問題はないでしょう。

「それでは失礼します」

 そう言うと彼は、静かに術式を唱え始めました。それは彼が自分自身に掛けた術式なのでしょうが…そのお声は見た目に反して朗々と通り、中々の美声ですわね。それにしても…

(凄いわ…なんて合理的で無駄がないのかしら…)

 術式は一定のルールが決まっていますが、人によって色や形が様々で、術式を見れば誰が掛けたのかがわかる事もあります。目の前で次々と解除されていく彼の術式は、金色で複雑ですが一定のルールがあり、とても綺麗で洗練されています。こんなに綺麗な術式を描けるなんて…それだけでも彼の能力の高さが伝わってきます。そうしている間にも、次々と術式が消えていき、最後のそれが解除される寸前、彼の周りを白い光が包み込みました。そしてそこにいたのは…

「あら?」

 目の前に現れたのは…先ほどのリートミュラー様と同じ服を身に付け、金色の髪を持つ、寸分違わないリートミュラー様です。これまであった普通の術式は綺麗に消えていますが…どこが変わったと言うのでしょうか…

「あの…リートミュラー様?」
「ああ、服を着ている分にはわからないかもしれませんね。では、これならどうでしょうか?」

 そう言ってリートミュラー様はシャツをまくり上げて、腕をお出しになりましたが…

「え…え?……えぇええっ?!」

 目の前に現れたその姿に、私は淑女らしくない声を上げてしまいました。




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