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兄さんの治療と俺の姿

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「魔道具でねぇ……」

 顎に手を当てながらネイトさんがそう呟いた。俺はあの後、ネイトさんの家を訪ねて事情を話し、魔道具でどうにかならないか相談してみた。何か突破口になる魔道具があるかもしれないと思ったからだ。だけど……

「ルーク、魔道具ですべてが解決出来るなんて思うなよ」
「そうは言うけど、魔道具で出来ないことはないって言ってたの、ネイトさんだろうが」
「そ、それは……」

 酒の席での発言を真に受けたわけじゃないけれど、魔道具の可能性は無限だ! と何度も言っていたのはネイトさんだ。デルだってそれに賛同していた。帝国では魔道具はここほど進化していなかったのもあって、俺はその可能性に素直に感心していたのだ。なのに、ここに来てトーンダウンはちょっとどうかと思う。

「あ~わかったよ。だけど、お前さんの兄さんの怪我が治ったとして、記憶まで戻るもんなのか?」
「それは……正直言ってわからない。けど、身体の傷がなくなれば、気持ち的にも余裕は出来るだろうし。そうなれば断片的な記憶でも何とかなるんじゃないかなぁ」
「なぁって、随分適当だな」
「だって、どうなるかわからねぇし」

 兄さんの記憶に関しては、俺もどうなるかわからない。それでも俺のことは覚えていてくれたんだから、少しずつ話していけばわかってくれるんじゃないかと思っている。今だって、ちゃんと俺を弟だと認めてくれているのだ。

「まぁ、手っ取り早いのはお前の兄さんと会う時だけ、姿を変える魔道具を身に付けてもらうことかな。お前さんがそうしている様に」
「ああ、これか」

 俺自身、自分で姿を蹴る魔術を使っているけれど、保険的に魔道具も持っている。これで気を抜いた時も元の姿に戻らないようになっているけど、確かに問題がガルアだけだ。彼に兄さんの治療に行く時だけこの魔道具を持たせるのが手っ取り早いかもしれない。

「ガルアはドラゴンだからな。ドラゴンは執着心が強いから、リューンが奪われないかと不安でしょうがないんだろう」
「心配し過ぎなんだよ。リューンはガルアしか見ていないのに」

 相思相愛でリューンだってガルアに執着しているように見える。あの二人はある意味似た者同士だろう。まぁ、『不自由で危険な生活でも二人でいられれば問題なし』を地でやっていた二人だ。ちょっかいを掛ける奴が出たからと言って、簡単に誘惑されることはないだろう。

「そういうことなら、これを持って行け」
「これは?」
「お前さんが持っているのと同じ、姿を変える魔道具だ。お前の兄さんと会う時だけ持たせればいいだろう。そいつは髪は薄茶、目は茶に変えてくれる。それだけでも印象は変わる筈だ」



 それから兄さんの治療の際はガルアに髪と目の色を変えて貰った。元より髪を伸ばしていたガルアだ。いつもは適当に結んでいたが、治療の時だけは下ろして貰うことにした。これだけでも印象が随分変わる。その上で俺は姿を変える魔道具を外して元の姿をとった。髪を短く切ったから姿が入れ替わっていることに気付かなかった。
 治癒魔法を三回かけた頃には、兄さんの怪我は殆ど治り、歩けるようになっていた。栄養状態が悪いのは変わらないので長い時間動くことは出来ないが、少しずつ体を慣らしていけばいいだろう。
 ただ、記憶は完全には戻らず、精神的に不安定なところも変わらなかった。こればかりはもう兄さんが自力で克服していくしかない。幸いなのはザビーアが支えてくれていることだろうか。一人にしてパニックになったりしたら危険だ。彼女は鬱々としていたがそれでも兄のことは親身になってくれて、その点だけでもありがたかった。


 治療が終わった頃には、兄さんたちが住むための小屋が出来上がった。小屋だけど家としての機能を持たせたそれは、こじんまりとしていたがまだ十分に動けない兄さんには十分そうだった。街の外れで静かな場所だが、近くには畑などもあって少しは人の行き来もある。怪我が治ったから魘されたり奇声を上げて暴れたりすることも減るだろうから問題ないだろう。
 そんな兄さんは怪我が治ると散歩に出るようになった。体力をつけて僅かなりと働きたいと思っているらしい。ザビーア一人に働かせていることを心苦しく思っているのは明白で、それは俺が知っている兄さんと変わりなかった。ザビーアもここに来てからはリューンやステラと付き合うようになって、以前よりも表情が明るくなった。兄さんが元気になったことで彼女も気持ちに余裕が出来たのかもしれない。



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