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帰ったら……なかった!

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 あれからネイトさんの下を辞して、俺はレーレ川の近くの拠点に向かった。帰り際にはネイトさんの家の前で移動魔道具の登録の仕方を教わったりもした。思ったより簡単だし、登録は三十件程度までは可能らしい。今ならそれだけあれば十分だ。

(思ったよりも収穫があったな)

 追放者向けの魔道具の解除の仕方もわかったし、便利な魔道具も貰った。これ、買ったら金貨千枚でも効かないだろうという話だ。そんな立派なものを……と思ったんだけど、持って行った魔石と交換でよかったらしい。あの魔石も、それだけの価値があるんだそうだ。




(あれ?)

 異変に気付いたのは、家の近くまで来た時だった。レーレ川がいつも以上に濁って茶色いし、いつも緑に覆われている川岸まで茶色くなっていた。ところどころ流木やら何やらでゴミだらけだ。

(何だ? これって……洪水、か?)

 そう言えば帝国でも水害があった後はこんな感じだったかもしれない。俺は急いで家に向かった。

「ガルア! どうした! ……って、なんだぁ?!」
「ルークか?!」

 結界を超えて中に入って、驚いた。中には……物凄い人数の人がいたからだ。百人はいるだろうか……

「ルーク! やっと戻って来たか!」
「無事だったんだね! ルーク! よかったよ!」

 出迎えてくれたのはガルアとマイラさんだった。何が起きているのかわからない俺に、二人が目の前の状況について教えてくれた。



「水蛇竜?!」

 目の前に広がる光景の原因は、レーレ川に住む水蛇竜だった。奴が暴れてこの辺一帯を水没させてしまったのだという。
水蛇竜と言えば俺が追放された時、川に落ちた一因を作った魔獣だ。普通の水蛇竜の三倍はあるかと思われるほどに成長しているのは、魔素の濃さゆえ、だろう。

「酷いもんさ。ギギラの街も破壊尽くされた。もう終わりだよ……」

 マイラさんが力なく笑った。もう笑うしかないと言わんばかりの笑い方だ。

「それじゃ……」
「ここにいるのはギギラの街から逃げて来た人たちだ。あとは、あの集落にいた何人かも」
「そうか。怪我人とかは?」
「それはリューンが家で治療してくれた。ただ、何人かは流されて行方不明だ。見つかるかどうか……」
「そんな……」

 水蛇竜は肉食だ。人間を食うかは分からないけど、特に食べる物を選ぶと聞いたことはない。となれば、食われたか、流されたか……

「ああなってはもう街にも戻れん」
「そうね。あれは何度も街を襲ったけど、こんなに酷いのは初めてだわ。一体どうしたのか……」

 アンザさんもマイラさんも項垂れて、いつもの溌溂さは欠片も残っていなかった。でも仕方ない。長年かけて作り上げてきた街も、宿屋もなくなってしまったのだから。



 それから俺はガルアとリューン、ステラ、アンザさん達に手伝って貰って、人数の確認や必要なものを調べて貰った。とにかく家は俺たちの家一軒しかないから、そこは管理用の拠点にして、皆には外で過ごしてもらうことになった。幸い結界で雨風は防げるし、温度も多少なら調整できる。
 後は食料やら服やらの調達だ。と言っても、ここには最低必要な分しかものを置いていなかったから、何もないんだよな。仕方なく俺は、ネイトさんの下にもう一度行く事にした。他に頼りになる相手もいないし、直ぐに行ける場所もないからだ。



「ネイトさん! 助けてくれ!」

 魔道具に魔力を流すと、一瞬でネイトさんの家の庭に着いた。すげぇ、本当に移転した、と勘当に浸りたいが今は後だ。

「あぁ? ル、ルーク? もう戻って来たのか?」
「ネイトさん、頼む! 助けてくれ!」

 必死な俺にネイトさんがとりあえず入れと言って家に案内してくれた。デルは昨日帰ったらしく、今日はもう姿がなかった。残念だ。デルもいてくれるとよかったんだけど。

「はぁ? 街が襲われたぁ?!!」
「そうなんだよ。お陰で俺たちが住んでいたとこに百人くらい詰め込まれてる」
「百人って……」
「家は一軒しかないし、食料もないんだ。どこかに百人分の食料が買えるとこ、知らないか?」
「はぁあ?!! い、いきなり百人って言ったってなぁ……」
「そこを何とか!!!」

 ガルアたちの話じゃ、もう一日以上何も食っていないっていうんだ。このままじゃ暴動でも起きそうだ。とにかく食べれるものなら何でもいい。俺は藁にも縋る思いだった。



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