233 / 238
番外編~リシャール③
しおりを挟む
俺が立ち上げたアルベール商会と店は、今はダニエルやマリア、そしてファリエール伯爵家から派遣した者達に委ねていた。
あれから程なくしてダニエルとマリアは結婚し、今では仲のいい夫婦だ。聞けばダニエルはすっかりマリアの尻に敷かれ、職場でも家でもマリアに頭が上がらないと聞く。
マリアは女性が喜びそうな接客方法を提案して、それが功を奏して店は益々繁盛していた。時間を掛けて育てていた職人やデザイナー達も、ようやく満足のいく品を納められるようになった。
リスナール国の王太子殿下とレアンドル様の婚姻も半年後に迫り、我が国は今リスナールブームだ。その影響もあってうちのデザインも大人気で、商品によっては半年待ちだという。第二王子殿下が度々夜会や舞踏会でうちの商品を身に付けて下さり、第二王子殿下ご用達とまで言われている。
「リシャール様!」
「ラフォン侯爵令嬢様!ようこそ」
久しぶりに商会に顔を出すと、ダニエルとマリアが出迎えてくれた。ダニエルも最近は店に出ず、新製品の開発や材料の入手先の手配など商人としての仕事がメインになっていた。
「マリアの接客方法が評判ですが、さすがに手狭になってきました」
「そうか。確かに売上も倍増しているしな…」
「それに馬車を置く場所も問題で…」
顧客は馬車で来るし商談に時間がかかるから、馬車を置く場所は以前から問題になっていた。離れすぎても不便だし、だからと言って道に止めておけば周りの迷惑にもなる。
「だったら、移転してはどうかしら?」
「レティ?」
「ここから三つほど離れた区画に、小さな別邸がありますの。長い間誰も住んでいないけど立地もいいし、広いから馬車を置く場もあるわ」
レティの言う小さな別邸は、決して小さくはなかった。二階建てで裕福な商家が住むような屋敷だ。しかし…
「フレデリク殿下御用達と言われているのですもの。あれくらいの建物でもいいと思うわ。もし広くて持てあますなら…そこでカフェをしたらどうかしら?」
「カフェ?」
「ええ。令嬢や婦人が安心して利用できるようなカフェですわ。リスナール国では貴族向けのカフェがあるってお兄様が話していたわ」
「なるほど…」
そう言えばレアンドル様は、ソフィアとして王太子殿下のお忍びに同行していたと言っていた。その時に利用していたのがカフェだったのかもしれない。確かに我が国にはないし、リスナールブームの今なら受け入れやすいかもしれない。
「ありがとう、レティ。早速調べてみるよ」
「ふふっ、カフェが出来たらベルティーユ様を誘って来ますわ」
「それは光栄だね」
レティとシュマン侯爵家の若夫人が利用したとなれば、これ以上ない宣伝効果になるだろう。手狭になっているのは間違いないし、出来れば工房も同じ敷地内にあると助かる。今は連絡するにも手間がかかっているからだ。
「レティのお陰で色んな事が一気に片付くよ」
「リシャール様のお役に立てるなら私も嬉しいです」
全開の笑顔が眩しかった。その笑顔がどれくらい俺の心を揺さぶるか、彼女は気付いているだろうか…いや、きっと気づいていないだろう。自分から求婚してきたのに、彼女は色恋沙汰には滅法疎くて免疫がない。今だってキス一つでも真っ赤になって暫く固まってしまうのだ。お陰で気軽にキスも出来ないのだが…
「そう言えばセリアですが…先日の王子殿下誕生の恩赦で釈放されたそうです」
「そうか。それで今は?」
「さすがに商会で働かせるわけにもいきませんし、王都では顔が知れています。それで…マルロー子爵領の邸で下働きの侍女に」
「そうか…」
実家が没落して娼館に売られそうになった彼女を引き取り、身元引受人になったのは債権者だった父だからそうなるだろう。下働きの侍女は掃除や洗濯、料理などが仕事で、立場も給金も格段に低くなる。王都育ちの彼女には田舎の生活はきついだろう。それでも…
「娼館に売られるよりはマシでしょう。罪人となればその先は知れていますから」
「そうだな」
「バルト公爵と息子よりはマシですしね」
あの父子もまた、半年前に毒杯を賜って処刑された。才能もなく努力もせず、ただ血筋だけで身に余る野心を持った彼らには相応しい最期だったと思う。
あれから程なくしてダニエルとマリアは結婚し、今では仲のいい夫婦だ。聞けばダニエルはすっかりマリアの尻に敷かれ、職場でも家でもマリアに頭が上がらないと聞く。
マリアは女性が喜びそうな接客方法を提案して、それが功を奏して店は益々繁盛していた。時間を掛けて育てていた職人やデザイナー達も、ようやく満足のいく品を納められるようになった。
リスナール国の王太子殿下とレアンドル様の婚姻も半年後に迫り、我が国は今リスナールブームだ。その影響もあってうちのデザインも大人気で、商品によっては半年待ちだという。第二王子殿下が度々夜会や舞踏会でうちの商品を身に付けて下さり、第二王子殿下ご用達とまで言われている。
「リシャール様!」
「ラフォン侯爵令嬢様!ようこそ」
久しぶりに商会に顔を出すと、ダニエルとマリアが出迎えてくれた。ダニエルも最近は店に出ず、新製品の開発や材料の入手先の手配など商人としての仕事がメインになっていた。
「マリアの接客方法が評判ですが、さすがに手狭になってきました」
「そうか。確かに売上も倍増しているしな…」
「それに馬車を置く場所も問題で…」
顧客は馬車で来るし商談に時間がかかるから、馬車を置く場所は以前から問題になっていた。離れすぎても不便だし、だからと言って道に止めておけば周りの迷惑にもなる。
「だったら、移転してはどうかしら?」
「レティ?」
「ここから三つほど離れた区画に、小さな別邸がありますの。長い間誰も住んでいないけど立地もいいし、広いから馬車を置く場もあるわ」
レティの言う小さな別邸は、決して小さくはなかった。二階建てで裕福な商家が住むような屋敷だ。しかし…
「フレデリク殿下御用達と言われているのですもの。あれくらいの建物でもいいと思うわ。もし広くて持てあますなら…そこでカフェをしたらどうかしら?」
「カフェ?」
「ええ。令嬢や婦人が安心して利用できるようなカフェですわ。リスナール国では貴族向けのカフェがあるってお兄様が話していたわ」
「なるほど…」
そう言えばレアンドル様は、ソフィアとして王太子殿下のお忍びに同行していたと言っていた。その時に利用していたのがカフェだったのかもしれない。確かに我が国にはないし、リスナールブームの今なら受け入れやすいかもしれない。
「ありがとう、レティ。早速調べてみるよ」
「ふふっ、カフェが出来たらベルティーユ様を誘って来ますわ」
「それは光栄だね」
レティとシュマン侯爵家の若夫人が利用したとなれば、これ以上ない宣伝効果になるだろう。手狭になっているのは間違いないし、出来れば工房も同じ敷地内にあると助かる。今は連絡するにも手間がかかっているからだ。
「レティのお陰で色んな事が一気に片付くよ」
「リシャール様のお役に立てるなら私も嬉しいです」
全開の笑顔が眩しかった。その笑顔がどれくらい俺の心を揺さぶるか、彼女は気付いているだろうか…いや、きっと気づいていないだろう。自分から求婚してきたのに、彼女は色恋沙汰には滅法疎くて免疫がない。今だってキス一つでも真っ赤になって暫く固まってしまうのだ。お陰で気軽にキスも出来ないのだが…
「そう言えばセリアですが…先日の王子殿下誕生の恩赦で釈放されたそうです」
「そうか。それで今は?」
「さすがに商会で働かせるわけにもいきませんし、王都では顔が知れています。それで…マルロー子爵領の邸で下働きの侍女に」
「そうか…」
実家が没落して娼館に売られそうになった彼女を引き取り、身元引受人になったのは債権者だった父だからそうなるだろう。下働きの侍女は掃除や洗濯、料理などが仕事で、立場も給金も格段に低くなる。王都育ちの彼女には田舎の生活はきついだろう。それでも…
「娼館に売られるよりはマシでしょう。罪人となればその先は知れていますから」
「そうだな」
「バルト公爵と息子よりはマシですしね」
あの父子もまた、半年前に毒杯を賜って処刑された。才能もなく努力もせず、ただ血筋だけで身に余る野心を持った彼らには相応しい最期だったと思う。
43
お気に入りに追加
3,530
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる