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番外編~リシャール③

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 俺が立ち上げたアルベール商会と店は、今はダニエルやマリア、そしてファリエール伯爵家から派遣した者達に委ねていた。
 あれから程なくしてダニエルとマリアは結婚し、今では仲のいい夫婦だ。聞けばダニエルはすっかりマリアの尻に敷かれ、職場でも家でもマリアに頭が上がらないと聞く。
 マリアは女性が喜びそうな接客方法を提案して、それが功を奏して店は益々繁盛していた。時間を掛けて育てていた職人やデザイナー達も、ようやく満足のいく品を納められるようになった。
 リスナール国の王太子殿下とレアンドル様の婚姻も半年後に迫り、我が国は今リスナールブームだ。その影響もあってうちのデザインも大人気で、商品によっては半年待ちだという。第二王子殿下が度々夜会や舞踏会でうちの商品を身に付けて下さり、第二王子殿下ご用達とまで言われている。

「リシャール様!」
「ラフォン侯爵令嬢様!ようこそ」

 久しぶりに商会に顔を出すと、ダニエルとマリアが出迎えてくれた。ダニエルも最近は店に出ず、新製品の開発や材料の入手先の手配など商人としての仕事がメインになっていた。

「マリアの接客方法が評判ですが、さすがに手狭になってきました」
「そうか。確かに売上も倍増しているしな…」
「それに馬車を置く場所も問題で…」

 顧客は馬車で来るし商談に時間がかかるから、馬車を置く場所は以前から問題になっていた。離れすぎても不便だし、だからと言って道に止めておけば周りの迷惑にもなる。

「だったら、移転してはどうかしら?」
「レティ?」
「ここから三つほど離れた区画に、小さな別邸がありますの。長い間誰も住んでいないけど立地もいいし、広いから馬車を置く場もあるわ」

 レティの言う小さな別邸は、決して小さくはなかった。二階建てで裕福な商家が住むような屋敷だ。しかし…

「フレデリク殿下御用達と言われているのですもの。あれくらいの建物でもいいと思うわ。もし広くて持てあますなら…そこでカフェをしたらどうかしら?」
「カフェ?」
「ええ。令嬢や婦人が安心して利用できるようなカフェですわ。リスナール国では貴族向けのカフェがあるってお兄様が話していたわ」
「なるほど…」

 そう言えばレアンドル様は、ソフィアとして王太子殿下のお忍びに同行していたと言っていた。その時に利用していたのがカフェだったのかもしれない。確かに我が国にはないし、リスナールブームの今なら受け入れやすいかもしれない。

「ありがとう、レティ。早速調べてみるよ」
「ふふっ、カフェが出来たらベルティーユ様を誘って来ますわ」
「それは光栄だね」

 レティとシュマン侯爵家の若夫人が利用したとなれば、これ以上ない宣伝効果になるだろう。手狭になっているのは間違いないし、出来れば工房も同じ敷地内にあると助かる。今は連絡するにも手間がかかっているからだ。

「レティのお陰で色んな事が一気に片付くよ」
「リシャール様のお役に立てるなら私も嬉しいです」

 全開の笑顔が眩しかった。その笑顔がどれくらい俺の心を揺さぶるか、彼女は気付いているだろうか…いや、きっと気づいていないだろう。自分から求婚してきたのに、彼女は色恋沙汰には滅法疎くて免疫がない。今だってキス一つでも真っ赤になって暫く固まってしまうのだ。お陰で気軽にキスも出来ないのだが…

「そう言えばセリアですが…先日の王子殿下誕生の恩赦で釈放されたそうです」
「そうか。それで今は?」
「さすがに商会で働かせるわけにもいきませんし、王都では顔が知れています。それで…マルロー子爵領の邸で下働きの侍女に」
「そうか…」

 実家が没落して娼館に売られそうになった彼女を引き取り、身元引受人になったのは債権者だった父だからそうなるだろう。下働きの侍女は掃除や洗濯、料理などが仕事で、立場も給金も格段に低くなる。王都育ちの彼女には田舎の生活はきついだろう。それでも…

「娼館に売られるよりはマシでしょう。罪人となればその先は知れていますから」
「そうだな」
「バルト公爵と息子よりはマシですしね」

 あの父子もまた、半年前に毒杯を賜って処刑された。才能もなく努力もせず、ただ血筋だけで身に余る野心を持った彼らには相応しい最期だったと思う。



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