上 下
200 / 238

今ここで婚姻?

しおりを挟む
(リ、リシャール様との婚姻を、今、ここで…?)

 陛下の言葉に私は、まじまじと陛下を見つめてしまいました。目が合うと陛下は少しだけ表情を和らげて、その眼に悪戯っぽい光を浮かべたようにも見えます。で、でも…

「陛下、さすがにそれは先走り過ぎではありませんか?」

 すかさずお父様が止めに入ってしまい、私はわずかに落胆を感じてしまいました。リシャール様に視線を向けると、リシャール様も驚きの表情を浮かべていましたが、私の視線に気が付くと僅かに目を瞠った後に微笑んで下さいました。その笑みは…どう受け止めたらいいのでしょうか。

「だが侯爵。エストレ国の王太子の要求を突っぱねるにはこれが一番だぞ?」
「それはそうですが…」

 お父様としても、エストレ国の王太子殿下の態度に思うところがおありなのでしょうか。完全に否定されないという事は、それだけしつこい…と思った方がよさそうですのね。

「…レティはどうしたい?リシャールも」

 不意にお父様がそうお尋ねになりました。これって…

「エストレ国の王太子はあの王女の兄だけはあるぞ」
「それって…」

 もうこうなると、悪い予感は確定なのですわね。王太子まで奇天烈だなんて…あの国の未来が心配ですわ。そして、そんなところに嫁いだ自分の未来も…
 でも、ここで是と答えていいのでしょうか。急すぎる話ですし、リシャール様だって心の準備と言いますか、ご都合がおありでしょう。元より私のごり押しで結んだ婚約なのです。そしてリシャール様は強引な女性が苦手だと伺っていますわ…

(私としては今すぐでも構いませんわ。むしろウエルカムですけれど…)

 そうは思いますが、身分も立場も上の私が答えるのは、ある意味命令です。それはさすがに…そう思って答えられなかった私でしたが…

「私は、謹んでお受けいたします」
「ええっ?!」

 な、何とリシャール様が先にお受けすると仰いました。ちょ…待ってください、リシャール様!一生の事をこんなにあっさり了承しちゃっていいのですか?そりゃあ、私としては嬉しい限りですし、もう土下座してでもお願いしたい案件ではありますが…
 私だけでなく、お父様達も驚きの表情でリシャール様を見ていますわ。ああでも、お兄様だけは何だかにやけた表情ですわね。これ、絶対に面白がっていますわ。

「どうしました、レティ?もしかして…お嫌でしたか?」

 私が答えなかったせいか、リシャール様が不安そうに瞳を揺らしてそう尋ねられました。そ、そんな表情は反則ですわ…!胸に強矢が刺さったような衝撃を感じたのは…気のせいでしょうか…

「と…、とんでもありませんわ!嫌だなんて、そんな事は永遠にあり得ません!むしろ大歓迎です!お願いしたいのは私の方ですもの!」

 思わず立ち上がってそう力説してしまいました。し、失敗しましたわ、陛下と殿下がいる前で立ち上がってしまうなんて…恥ずかしさに逃げ出したくなる想いで座り直しましたが…皆さん、視線が生暖かくて却って居た堪れないのですが…

「ほほう、レティシア嬢は素直で情熱的じゃのう」
「私の娘ですから」
「ああ、まさにラフォンじゃのう。よいよい、二人がそう言うのであればそうしようではないか」

 そう言うと陛下は、侍従に何やらお命じになり、暫くするとトレイに書類を乗せて現れました。テーブルに示されたそれは…婚姻の書類、ですわね…見るのは初めてですが…

「さぁ、レティシア嬢、サインを」

 そう言って陛下に促されるままサインしました。その後でリシャール様とお父様、そして陛下のサインが淀みなく記されていきます。そして…あっという間に婚姻を承認する書類が出来上がってしまいました。

「ここにラフォン侯爵令嬢レティシアと、ファリエール伯爵令息リシャールの婚姻を認める」

 陛下が重々しくそう宣言し、私達は深々と頭を下げたのでした。




しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...