183 / 238
舞踏会の後
しおりを挟む
あの舞踏会から三日経ちました。散々な結果に終わった舞踏会の後、お父様は王宮に伺候したっきりお戻りになりません。アドリエンヌ様絡みの事で相当に揉めているのでしょう。あの方の発言は両国どころかリスナール国にまで影響を及ぼし、王宮内ではこの後始末をどうするのかで意見が分かれていると影の報告にもありました。
そして…この件の渦中にあるアドリエンヌ様ですが、さすがに彼女を我が国でどうこうする事も出来ません。少なくとも彼の国の王族、それも国王陛下の代理人たる方でなければ、この件について話し合いもままならないのです。それもあって今は、エストレ国に火急の使者を送り、あちらの返事を待っているところなのです。
「あれからどうなったのかしら?お母様はどう思われます?」
「さぁ…さっぱり見当もつかないわ」
外出するのも憚れる状態のため、私はお母様と一緒に過ごしていました。リシャール様もお父様の秘書として一緒に王宮に行ったっきりです。新年は家族水入らずが恒例の我が家、今年はリシャール様も一緒にと思っていましたのに、もう三日もお顔を見ていません。
お父様とリシャール様がお戻りになったのは、四日目のお昼前でした。王宮には居住用の部屋を賜っているとはいえ、今回は内容が内容です。お父様もリシャール様も、随分お疲れの表情でお戻りになりました。
「全く、馬鹿共が後先考えずに動きよって…」
家族の、特にお母様の前ではいつも穏やかな表情を崩さないお父様ですが、今回は珍しくも苛立ちをお隠しになりませんでした。お母様があらまぁ、と面白そうな笑みを浮かべています。他の方だったら恐ろしくて震え上がりそうなお父様ですが、その怒りの元はわかっているので私も苦笑するだけでした。リシャール様は初めて目にするからでしょうか、少し青褪めているようにも見えます。
「リシャール様、大丈夫ですわ。お父様は家族には大甘なんです。勿論リシャール様も家族の一人ですわ」
「そうですか」
そう言うとリシャール様はホッとした表情を浮かべられました。
「それであなた、どうなりましたの?」
お母様の問いかけに、お父様ははぁと一つため息をつくと、ソファに座ってその後の事を教えて下しました。
あの後、予想通り王宮は大混乱に陥ったそうです。それもそうでしょう、アドリエンヌ様の言葉は両国の関係を損ない、戦争になり兼ねないほどの内容だったのです。しかもアドリエンヌ様は死ぬおつもりで、後の事など欠片も考慮しない捨て身のものだったのですから尚更でしょう。
「まだ何ともいえん。エストレ国の出方にもよるだろう。あの夜の件もあちらが勝手にやった事だが、如何せん国王があの王女を溺愛している。となれば、何と言ってくるか見当もつかん」
「そうですか」
「これでエルネスト殿下とあの王女の婚約話はなくなるだろう。さすがに継続しては我が国の沽券に関わる」
「そうなりますわね。では、あの王女は国に?」
「ああ、話し合いの後、いや、あの王女だけでも先に帰ってくれた方がいいかもしれん。また余計な事をされてはかなわんからな」
確かに行動が予測できず、王族としての義務など何も考えていないアドリエンヌ様です。この国にいらっしゃるというだけでも不安になりますわね。
「幸いなのは、リスナールのセレスティーヌ王太子殿下の存在だ。殿下は春になるまで我が国に滞在される事になった」
「セレスティーヌ様が?」
「ああ。これから国境は雪が積もって危険が増す。今後の事も話し合いたいと仰っている。有難い事だ。王太子殿下がいらっしゃれば、エストレ側も無茶な事は言えんだろう。あの国はリスナールの援助が頼りだからな」
それではお兄様も春までこちらにいらっしゃるのですね。もうお別れかと思っていましたが、暫くは家族で過ごす時間が持てそうですわね。
そして…この件の渦中にあるアドリエンヌ様ですが、さすがに彼女を我が国でどうこうする事も出来ません。少なくとも彼の国の王族、それも国王陛下の代理人たる方でなければ、この件について話し合いもままならないのです。それもあって今は、エストレ国に火急の使者を送り、あちらの返事を待っているところなのです。
「あれからどうなったのかしら?お母様はどう思われます?」
「さぁ…さっぱり見当もつかないわ」
外出するのも憚れる状態のため、私はお母様と一緒に過ごしていました。リシャール様もお父様の秘書として一緒に王宮に行ったっきりです。新年は家族水入らずが恒例の我が家、今年はリシャール様も一緒にと思っていましたのに、もう三日もお顔を見ていません。
お父様とリシャール様がお戻りになったのは、四日目のお昼前でした。王宮には居住用の部屋を賜っているとはいえ、今回は内容が内容です。お父様もリシャール様も、随分お疲れの表情でお戻りになりました。
「全く、馬鹿共が後先考えずに動きよって…」
家族の、特にお母様の前ではいつも穏やかな表情を崩さないお父様ですが、今回は珍しくも苛立ちをお隠しになりませんでした。お母様があらまぁ、と面白そうな笑みを浮かべています。他の方だったら恐ろしくて震え上がりそうなお父様ですが、その怒りの元はわかっているので私も苦笑するだけでした。リシャール様は初めて目にするからでしょうか、少し青褪めているようにも見えます。
「リシャール様、大丈夫ですわ。お父様は家族には大甘なんです。勿論リシャール様も家族の一人ですわ」
「そうですか」
そう言うとリシャール様はホッとした表情を浮かべられました。
「それであなた、どうなりましたの?」
お母様の問いかけに、お父様ははぁと一つため息をつくと、ソファに座ってその後の事を教えて下しました。
あの後、予想通り王宮は大混乱に陥ったそうです。それもそうでしょう、アドリエンヌ様の言葉は両国の関係を損ない、戦争になり兼ねないほどの内容だったのです。しかもアドリエンヌ様は死ぬおつもりで、後の事など欠片も考慮しない捨て身のものだったのですから尚更でしょう。
「まだ何ともいえん。エストレ国の出方にもよるだろう。あの夜の件もあちらが勝手にやった事だが、如何せん国王があの王女を溺愛している。となれば、何と言ってくるか見当もつかん」
「そうですか」
「これでエルネスト殿下とあの王女の婚約話はなくなるだろう。さすがに継続しては我が国の沽券に関わる」
「そうなりますわね。では、あの王女は国に?」
「ああ、話し合いの後、いや、あの王女だけでも先に帰ってくれた方がいいかもしれん。また余計な事をされてはかなわんからな」
確かに行動が予測できず、王族としての義務など何も考えていないアドリエンヌ様です。この国にいらっしゃるというだけでも不安になりますわね。
「幸いなのは、リスナールのセレスティーヌ王太子殿下の存在だ。殿下は春になるまで我が国に滞在される事になった」
「セレスティーヌ様が?」
「ああ。これから国境は雪が積もって危険が増す。今後の事も話し合いたいと仰っている。有難い事だ。王太子殿下がいらっしゃれば、エストレ側も無茶な事は言えんだろう。あの国はリスナールの援助が頼りだからな」
それではお兄様も春までこちらにいらっしゃるのですね。もうお別れかと思っていましたが、暫くは家族で過ごす時間が持てそうですわね。
46
お気に入りに追加
3,521
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私は、あいつから逃げられるの?
神桜
恋愛
5月21日に表示画面変えました
乙女ゲームの悪役令嬢役に転生してしまったことに、小さい頃あいつにあった時に気づいた。あいつのことは、ゲームをしていた時からあまり好きではなかった。しかも、あいつと一緒にいるといつかは家がどん底に落ちてしまう。だから、私は、あいつに関わらないために乙女ゲームの悪役令嬢役とは違うようにやろう!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる