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夢のような一夜は…
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そして夜会の日、私達は計画通りに事を進めたはずだった。レアンドル様と王太子の控室の水差しに媚薬を盛り、そこに私とエルネスト様が向かう手筈だった。
レアンドル様と王太子に媚薬を盛るのは王妃が引き受けてくれた。どうするのかと聞いたけれど、そこはいい駒があると言って教えてくれなかったのが不安だった。そうは言っても、私や王妃が自ら薬を仕込む事など出来ない。きっと王妃に忠実な侍女を使ったのだろうと、それ以上は気に留めなかった。
後の懸念はエルネスト様だった。彼は王太子との面識がないし、媚薬で盛った彼が王太子をちゃんと篭絡できるのかわからなかったからだ。彼はああ見えて女性に慣れていない。それに思った以上に酔っていたのも心配のタネだった。あんなぼんくらにあの王太子をあてがったのは…失敗だったかもしれない。それでも、今更引き返すことは出来ない。王太子と同じ部屋で一晩過ごせばいいだけだから問題ないだろう。
レアンドル様の控室には、わざと側近や護衛騎士の目につくようにして入った。ここに王太子が来ても、彼に呼び出されたと言えば何とかなるだろう。今は媚薬が効いているころだから、私が求めればきっと受け入れて下さる筈。
中に入ると室内には照明がなくて真っ暗だった。
(もう、こんなに暗かったらわからないじゃないの!)
そりゃあ、暗くしないとレアンドル様に気付かれてしまうと言われたから仕方ないけれど…でも、まっすぐに歩くのも難儀だった。
寝室に入ると、既に眠っている人影が窓からの月明かりで伺えた。
(ああ、レアンドル様が、いらっしゃる…)
こんなに近づいたのは何年ぶりだろう。残念ながら暗すぎてお顔も見えないけれど…愛しい方が手の届くところにいるのだと思うと、思わず涙が零れた。
と、その次の瞬間、突然レアンドル様が手を引いたため、私は彼と抱き合う形でベッドに崩れ落ちてしまった。
(え?うそ?レアンドル様が…?)
急性に抱きしめられて唇を奪われた私は、混乱の極みだったけれど…
(ああ、やっとレアンドル様と…)
今まで感じた事のない多幸感に包まれて、私はそっと目を閉じた。
その夜、私はようやく思いを遂げた。それが媚薬のせいだと思うと少し胸が痛んだけれど…こうして既成事実が出来てしまえば私と結婚するしかないわ。であれば、これからゆっくり私も想いを知って頂けばいいのよ。そうすればレアンドル様も私を愛するようになって下さる筈。
この時の事は一生の思い出に残る素敵な夜になる筈だった。なのに…目の前にいたのは、茫然とした表情の金髪の見知った男だった。
「な?ど、どうしてあんたがここにいるのよっ!」
「ま、待てっ!静かにしろ」
彼は慌てて私の口を閉じようとしたが…遅かった。私の悲鳴を聞きつけて、侍女や護衛騎士たちが押しかけてきたのだ。お陰で裸のままエルネスト様とベッドの上にいるところを見られてしまった。
「もうっ!何とかしなさいよ!」
部屋から出ないようにと国王に命じられ、何がどうなっているのかを知る事も出来ずにいた私は、側近にその不安と怒りをぶつけるしかなかった。
「そうは仰いますが、今動くのは悪手ですので」
「それを何とかするのがあんたたちの仕事でしょう?」
「ですが…アレの存在があちらにありますれば」
「…な!」
すっかり失念していたけれど、私が王妃に預けた媚薬の存在があるため、今は下手に動けないのだと側近が言った。一歩間違えればアレを王族であるエルネスト様に盛ったと言われて糾弾されると。確かにエルネスト様は王族で、王族には例えそれが眠り薬でも同意なく盛ったと知れれば死罪は免れない。それは他国の王族であってもだ。
「そ、そんな…でも、あれはエルネスト様にじゃないわ!」
「この国がどう受け取るかは別問題です」
「そん、な…」
夢のような一夜は、絶望の一夜になってしまった。
レアンドル様と王太子に媚薬を盛るのは王妃が引き受けてくれた。どうするのかと聞いたけれど、そこはいい駒があると言って教えてくれなかったのが不安だった。そうは言っても、私や王妃が自ら薬を仕込む事など出来ない。きっと王妃に忠実な侍女を使ったのだろうと、それ以上は気に留めなかった。
後の懸念はエルネスト様だった。彼は王太子との面識がないし、媚薬で盛った彼が王太子をちゃんと篭絡できるのかわからなかったからだ。彼はああ見えて女性に慣れていない。それに思った以上に酔っていたのも心配のタネだった。あんなぼんくらにあの王太子をあてがったのは…失敗だったかもしれない。それでも、今更引き返すことは出来ない。王太子と同じ部屋で一晩過ごせばいいだけだから問題ないだろう。
レアンドル様の控室には、わざと側近や護衛騎士の目につくようにして入った。ここに王太子が来ても、彼に呼び出されたと言えば何とかなるだろう。今は媚薬が効いているころだから、私が求めればきっと受け入れて下さる筈。
中に入ると室内には照明がなくて真っ暗だった。
(もう、こんなに暗かったらわからないじゃないの!)
そりゃあ、暗くしないとレアンドル様に気付かれてしまうと言われたから仕方ないけれど…でも、まっすぐに歩くのも難儀だった。
寝室に入ると、既に眠っている人影が窓からの月明かりで伺えた。
(ああ、レアンドル様が、いらっしゃる…)
こんなに近づいたのは何年ぶりだろう。残念ながら暗すぎてお顔も見えないけれど…愛しい方が手の届くところにいるのだと思うと、思わず涙が零れた。
と、その次の瞬間、突然レアンドル様が手を引いたため、私は彼と抱き合う形でベッドに崩れ落ちてしまった。
(え?うそ?レアンドル様が…?)
急性に抱きしめられて唇を奪われた私は、混乱の極みだったけれど…
(ああ、やっとレアンドル様と…)
今まで感じた事のない多幸感に包まれて、私はそっと目を閉じた。
その夜、私はようやく思いを遂げた。それが媚薬のせいだと思うと少し胸が痛んだけれど…こうして既成事実が出来てしまえば私と結婚するしかないわ。であれば、これからゆっくり私も想いを知って頂けばいいのよ。そうすればレアンドル様も私を愛するようになって下さる筈。
この時の事は一生の思い出に残る素敵な夜になる筈だった。なのに…目の前にいたのは、茫然とした表情の金髪の見知った男だった。
「な?ど、どうしてあんたがここにいるのよっ!」
「ま、待てっ!静かにしろ」
彼は慌てて私の口を閉じようとしたが…遅かった。私の悲鳴を聞きつけて、侍女や護衛騎士たちが押しかけてきたのだ。お陰で裸のままエルネスト様とベッドの上にいるところを見られてしまった。
「もうっ!何とかしなさいよ!」
部屋から出ないようにと国王に命じられ、何がどうなっているのかを知る事も出来ずにいた私は、側近にその不安と怒りをぶつけるしかなかった。
「そうは仰いますが、今動くのは悪手ですので」
「それを何とかするのがあんたたちの仕事でしょう?」
「ですが…アレの存在があちらにありますれば」
「…な!」
すっかり失念していたけれど、私が王妃に預けた媚薬の存在があるため、今は下手に動けないのだと側近が言った。一歩間違えればアレを王族であるエルネスト様に盛ったと言われて糾弾されると。確かにエルネスト様は王族で、王族には例えそれが眠り薬でも同意なく盛ったと知れれば死罪は免れない。それは他国の王族であってもだ。
「そ、そんな…でも、あれはエルネスト様にじゃないわ!」
「この国がどう受け取るかは別問題です」
「そん、な…」
夢のような一夜は、絶望の一夜になってしまった。
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