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誰か嘘だと言って…!

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(嘘嘘嘘…こんなの嘘に決まっているわ!!!)

 目が覚めたら目の前にいたのは、愛しいレアンドル様とは似ても似つかない男だった。金の髪と青い瞳のエルネスト王子は、私にとっては全く好みではない、どうでもいい存在だった。そんな男と裸でベッドの上にいるところを、大勢の者に見られてしまった。しかもリスナール国の者にまで…この失態を挽回する方法を考え続けていたけれど…何一つとしていい案が浮かばなかった。

「どうしてよ?あの部屋にいたのはレアンドル様じゃなかったの?!!」
「それに関しましては、私にもわかりません」

 苛立ちのまま側近の男に詰め寄ったが、彼はいつもの無表情でそう返すだけだった。お父様がつけた私の側近は、私に媚一つ売らない生真面目でお堅く、やたら有能な男だったけれど、レアンドル様の事では全く協力してくれない使えない男だった。この男はお父様が付けたためにクビにする事も出来なかったけど…こんな時もやっぱり役に立たなかった。

(ああ、でも今はそれどころじゃないわ。レアンドル様に捧げる筈の純潔をあんな男に…!)

 我が国に留学してきたレアンドル様に初めてお会いしたのは、王家主催の夜会だった。我が国よりも国力があるロアールの筆頭侯爵家の嫡男の彼は、彼の国の大使と共に夜会に参加していた。艶のある銀の髪に、涼しげでいて温かみのある青い瞳。優しそうな顔立ちで男臭さの感じられない彼は、まさに私の理想そのままだった。だから恋に落ちるのは必然だったけれど…彼は私に全く興味を持ってくれず、それどころか私を避けているようにも思えた。

(きっと恥ずかしがっているのよ。女性に疎いって話だし…)

 彼はその生まれであれば必ずいるであろう婚約者もなく、我が国でも女性と懇意にしていると言う話は流れてこなかった。それは彼がシャイで女性に慣れていないせいだと思ったのだ。それに、

(きっと私が可愛いから気後れしているのよ)

 自惚れではなく、私は我が国一の美少女と言われてきた。実際、優しい色合いの金の髪と翡翠のようだと讃えられる瞳、顔の造形だって申し分なく、たくさんの男性が私を称賛してきた。それは王女と言う地位もあっただろうけど、それでも我が国では自分よりも上だと思えるほどの美少女はいなかったのだ。
 だから、とある夜会でレアンドル様に媚薬を盛って距離を詰めようとしたのに、彼はその夜会から逃げ帰ってしまったのだ。その後は徹底的に避けられてしまい、会う事は叶わなかった。
 焦れてもう一度強硬手段を取ったところ…彼は逃げてしまった。川に飛び込んで追っ手を振り切り、その後の行方はいくら探しても髪の毛の一筋すらも見つからなかった。

(なのに…いきなり隣国の王配にだなんて…)

 懇意にしていたロアール国の王妃からの連絡で、レアンドル様がリスナール国のセレスティーヌ王太子殿下の夫になると聞いた時、私は暫く声を発することが出来なかった。彼がリスナール国に入ったらしいと聞いて追っ手をそちらにも向かわせていたけれど、彼の国の王宮で彼を見たと言う報告はなかったからだ。彼ほどの身分であれば、その動向を完全に隠すなど不可能なはずなのに…

(このままじゃ、レアンドル様が奪われてしまうわ…!)

 焦る心を抑える事なんて不可能だった。私は直ぐにお父様にロアール国行きを強請り、彼の王妃にも直ぐに訪問したい旨を打診した。本当は公式に訪問したかったけれど、事前に根回しがなければ無理だと言われて、仕方なく非公式の訪問にした。これだと歓迎の夜会などは開いて貰えないから不満だったけれど、それよりもレアンドル様を取り戻す事の方がずっと大事だったのだ。



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