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王太子殿下のエスコート

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 今夜の夜会、表向きはリスナール国とエストレ国の王女を歓迎する夜会です。まずは国力が上で公式訪問されているリスナール国のセレスティーヌ様が右側の扉から現れました。
 セレスティーヌ様にお会いするのはこれが初めてです。夜会の前に一度ご挨拶を…と思っていたのですが、あちらも急な訪問なのもあってかお忙しいようで、そんな時間が取れなかったのですよね。ゆっくりお会いするのはこの夜会の後になるでしょう。
 セレスティーヌ様は艶のある黒髪と青みの深いエメラルドグリーンの瞳の、凛とした雰囲気を持つ方でした。女性としては背も高めですし、理知的な才女といった印象です。確かに優秀との誉れ高く、王太子に選ばれたのもその能力故との話は我が国にも伝わっています。そして彼女をエスコートしているのは…

「あれは…ラフォン侯爵家の嫡男では…」
「どうしてレアンドル様が…」
「でも、エストレ国の王女は…」

 お兄様がセレスティーヌ様をエスコートして入場すると、会場は驚きの声に包まれましたが…それも仕方ありませんわね。ここ数年、動向が全く表に出なかったお兄様が、いきなり他国の王女と一緒に現れたのですから。お兄様がアドリエンヌ様に追い回されていたのは有名な話ですし。お二人ともセレスティーヌ様の瞳の色を少し薄くした薄青緑の衣装ですから、それだけでその意図は十分に伝わる筈でしょう。
 でも…この直後にアドリエンヌ様が入場するのですよね。それって…

(ちょ…いきなり修羅場展開なの?)

 こうなる可能性があったとは言え、さすがにアドリエンヌ様を憚ってお兄様がセレスティーヌ様をエスコートする事はないと思っていました。これでは夜会が荒れて大変な事にならないでしょうか。我が国の存亡の危機に感じたのは大袈裟ではないと思いたいのですが…

「お父様、あれは…」

 まさかお父様まで知らないとは言わないでしょう。そう思った私がお父様に話しかけると、お父様は一瞬だけ表情を崩しました。ああ、これはご存じだったのですね。でも大丈夫なのでしょうか…

「この件はあの王女も周知の上だ。夜会に出席させろと煩いのでな。レアンドルが王太子殿下のエスコートをすると告げて、それに異を唱えないのであれば許可すると条件を出したのだ」
「そうでしたか。でも…」
「もし夜会で騒ぎを起こしたら即刻退場して謹慎、そのまま迎えが到着し次第帰国し、二度と我が国への入国は認めない。そう宣言して誓約書にサインさせた」
「…そうですか。でも、それで納得するでしょうか」
「しなければ二度とこの国に来る事はなくなる。レアンドルには騎士も影も付けているし、警護も厳重だ。そう簡単には事を起こせまい」
「そう、ですね」
「なぁに、騒ぎを起こせばエストレ国への貸しが出来る。どちらに転んでも困る事にはせんよ」

 なるほど、事を起こせばそれはそれで利用しようとのお考えなのですね。まぁ、陛下達はどうお考えかは知りませんが、手をこまねいているお父様ではありませんわね。あの王女に煮え湯を飲まされていたのは我が家なのです。この機会を最大限に利用するおつもりなのでしょう。

「レティも気を付けるように。特にリシャールの側を離れるなよ」
「わかっておりますわ」

 そうです。今夜の夜会、私がすべき事はリシャール様をお守りする事ですわ。



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