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見つからない婚約者

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 リシャール様が行方知れずになって一日が経ちました。我が家総出でリシャール様の行方を追っているにも関わらず、未だにその行方は掴めません。我が家の影は王家のそれよりもずっと優秀だと言われているのに、です。

(どうしよう…もしリシャール様の身に何かあったら…)

 私は一睡も出来ず、あれからずっとリシャール様の手掛かりを求めてあらゆる手を打ちましたが、その髪の毛一筋の行方も掴めない事にこれまで経験した事のない恐怖を感じていました。そう思うほどの方がいなかったのもありますが、ラフォン家の力を使ってもわからないという事に恐怖を感じていたのです。我が家の力であれば人一人の行方など容易に知れると思っていたからです。なのに…

(連絡がないのはお怪我をして動けないせいかも…それとも、どこかに囚われていて逃げられない…?)

 私自ら探しに行こうと思いましたが、それはお父様に厳しく止められました。これは私を誘き出すための罠かもしれないからと。もしそうであれば、私が相手の手に落ちればリシャール様は直ぐにでも殺されてしまうかもしれない、そう言われてしまえば動く事も出来ません。それは頭では理解しているのですが…何もしないでいると悪い想像ばかりが膨れ上がり、待つ事がこんなに苦しいものだとは思いませんでした。

 部屋の外が騒がしくなり、お父様がお帰りになったとコレットがいうので、私は直ぐにお父様の執務室に向かいました。

「お父様、何か手掛かりはございましたか?!」

 お父様はいつも通りに王宮に伺候し、いつも通りにお戻りになりました。こういう時はいつも通りに振舞い、敵に動揺していると悟られてはならないと言うのがお父様のお考えです。その通りではあるのですが…私にはまだそのように割り切る事が出来そうにありません。

「これと言った有力な情報はない。だが、色々と気になる話はあった」

 お父様は王宮にいる間も影を使って情報を集めてくれていました。一日経っても身代金などの要求がないので誘拐の線は極めて薄くなり、こうなると誰かに連れ去られた可能性が高いだろうとの事でした。

「一体誰が、何のために…」
「まだ何とも言えん。婿入りを快く思わない者、彼を手に入れたいと思う者、我が家に恨みを持つ者、理由はいくらでもあるだろう」
「そんな…」
「それでも我が家を欺くのは簡単ではないし、発覚すれば待っているのは破滅だ。失敗すれば一族路頭に迷う可能性だってある。あえてその一線を越えようとする者は滅多にいない」

 お父様の仰る通りですが、それでは犯人もその目的も漠然としたままです。

「攫うのは手間もかかるし、人目に付いて失敗する可能性が格段に上がる。となれば、犯人は生かしておく必要があると考えているのだろう。だから今すぐに命の危険があるとは思えないよ」
「そう、ですわね…」

 お父様の仰る通りですが、半分は私への気遣いなのでしょう。でも、子供ならまだしも、成人した男性一人を攫うのは確かに簡単ではありません。となれば、直ぐに命の危機にはならないでしょうか…でも…


(…こんなに見つからないのは、もしかしてご自身の意思でお隠れになっているから?)

 考えないようにしていたそれが、急速に私の中で膨れ上がりました。もしリシャール様が私との婚約を厭い、自ら身を隠していると言うのであれば、見つからないのも納得です。リシャール様がその気になれば、用意周到に計画されていたでしょうから…
 

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