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面倒事、再び
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「レティシア様!」
夜会の後の学園の登校日。いつも通りに登校した私に声をかけてきたのは、バルト公爵家の令息でした。学年が違えば馬車乗り場も別なので、わざわざここまでやってきたようです。それにしても…あれほど名前で呼ばない様にと申しましたのに、学習能力がない方のようですわね。
「…ごきげんよう、バルト公爵令息様」
思ったよりも低い声が出てしまいましたわ。せっかくリシャール様との婚約が公になって喜んでいるというのに…周りの生徒たちも何事かとこちらを見ています。全く、こんな事で目立ちたくありませんのに。
「ああ、レティシア様!あれはどういう事ですか?」
「…何のことでしょう?」
「婚約の事ですよ!どうして筆頭侯爵家の貴女が、あんな子爵家の三男になど。不釣り合いにも程があります!」
今この方、リシャール様の事を「あんな」「不釣り合い」とはっきり言いましたわね。何度言ってもこちらの警告が頭に残らないすっからかんな頭の持ち主に、そんな事を言われたくないのですが…
「私自身が望み、家長であるラフォン侯爵が認めた婚約ですわ。既に王家にも裁可を頂いています。異議がおありなら国王陛下に仰って下さい」
まぁ、国王陛下に何か言ったところでこの決定が変わる事はありませんけどね。エルネスト殿下のやらかしのお陰で、陛下が我が家に何か言うなど出来ないのです。エルネスト殿下を溺愛している王妃様のためにも、陛下はこの婚約を黙認するしか出来ません。でなければ、エルネスト殿下だけでなく王妃様の立場まで危うくなるのですから。
「なっ…!貴女が…あの男を望んだだと?」
「ええ、夜会でもそう申し上げましたが?それから今はファリエール伯爵の後継者です。あの男などと呼ばれる謂れはございませんわ」
「だが、元は子爵家の…」
「分家の子爵家から後継者を迎えるのは上位貴族ではよくある事。それを非難されるおつもりですか?」
そうです、後継者がいなかったり、後継にそぐわないと判断されたりした場合、分家から優秀な者を養子に迎えるのは貴族社会ではよくある事で、上位貴族には分家出身の当主も何人かいらっしゃいます。彼の発言はそれらの方々を否定する事で、大変失礼な事なのですが…
「しかし、あの者はラフォン侯爵家の分家では…」
「それでも、私が心から慕い望んだ方ですわ。そして当主である父も、その弟でもあるファリエール伯爵も認めた方です。バルト公爵令息は、我が家の決定に口出しされるおつもりですか?」
暗に喧嘩を売る気かと問いかけると、さすがにその意図は伝わったようで、何かを言いかけた口を閉じて表情を歪めました。他家の問題に口を出すのはタブーですし、一歩間違えれば内乱に繋がる事もあるデリケートな問題なのです。
いくらバルト公爵が先々代の王の弟君とはいえ、その力は我が家には及びません。我が国は王位簒奪を警戒して、臣籍降下した公爵家に権力が行かない様になっているのです。彼らの存在意義は王家の血を残すその一点に尽き、血が薄まる二代目以降は伯爵家に降爵されるのもその為です。彼にしても王位継承権は二十番以内に入るかどうか…なレベルなので、政治的にも旨味がないのですよね。公爵も令息もそれをご存じだから必死なのでしょうが…
「何度も申し上げていますが、名前を呼ぶ許可をお出しした覚えはありません。今後は家名でお呼びください」
どうやら私の希望だと思っていなかった、いえ、思いたくなかったのでしょうね。でも、こうも人前ではっきりと言い切った事で、彼は反論する材料がなくなったようです。出来る事なら、これで理解して頂けるといいのですが。
夜会の後の学園の登校日。いつも通りに登校した私に声をかけてきたのは、バルト公爵家の令息でした。学年が違えば馬車乗り場も別なので、わざわざここまでやってきたようです。それにしても…あれほど名前で呼ばない様にと申しましたのに、学習能力がない方のようですわね。
「…ごきげんよう、バルト公爵令息様」
思ったよりも低い声が出てしまいましたわ。せっかくリシャール様との婚約が公になって喜んでいるというのに…周りの生徒たちも何事かとこちらを見ています。全く、こんな事で目立ちたくありませんのに。
「ああ、レティシア様!あれはどういう事ですか?」
「…何のことでしょう?」
「婚約の事ですよ!どうして筆頭侯爵家の貴女が、あんな子爵家の三男になど。不釣り合いにも程があります!」
今この方、リシャール様の事を「あんな」「不釣り合い」とはっきり言いましたわね。何度言ってもこちらの警告が頭に残らないすっからかんな頭の持ち主に、そんな事を言われたくないのですが…
「私自身が望み、家長であるラフォン侯爵が認めた婚約ですわ。既に王家にも裁可を頂いています。異議がおありなら国王陛下に仰って下さい」
まぁ、国王陛下に何か言ったところでこの決定が変わる事はありませんけどね。エルネスト殿下のやらかしのお陰で、陛下が我が家に何か言うなど出来ないのです。エルネスト殿下を溺愛している王妃様のためにも、陛下はこの婚約を黙認するしか出来ません。でなければ、エルネスト殿下だけでなく王妃様の立場まで危うくなるのですから。
「なっ…!貴女が…あの男を望んだだと?」
「ええ、夜会でもそう申し上げましたが?それから今はファリエール伯爵の後継者です。あの男などと呼ばれる謂れはございませんわ」
「だが、元は子爵家の…」
「分家の子爵家から後継者を迎えるのは上位貴族ではよくある事。それを非難されるおつもりですか?」
そうです、後継者がいなかったり、後継にそぐわないと判断されたりした場合、分家から優秀な者を養子に迎えるのは貴族社会ではよくある事で、上位貴族には分家出身の当主も何人かいらっしゃいます。彼の発言はそれらの方々を否定する事で、大変失礼な事なのですが…
「しかし、あの者はラフォン侯爵家の分家では…」
「それでも、私が心から慕い望んだ方ですわ。そして当主である父も、その弟でもあるファリエール伯爵も認めた方です。バルト公爵令息は、我が家の決定に口出しされるおつもりですか?」
暗に喧嘩を売る気かと問いかけると、さすがにその意図は伝わったようで、何かを言いかけた口を閉じて表情を歪めました。他家の問題に口を出すのはタブーですし、一歩間違えれば内乱に繋がる事もあるデリケートな問題なのです。
いくらバルト公爵が先々代の王の弟君とはいえ、その力は我が家には及びません。我が国は王位簒奪を警戒して、臣籍降下した公爵家に権力が行かない様になっているのです。彼らの存在意義は王家の血を残すその一点に尽き、血が薄まる二代目以降は伯爵家に降爵されるのもその為です。彼にしても王位継承権は二十番以内に入るかどうか…なレベルなので、政治的にも旨味がないのですよね。公爵も令息もそれをご存じだから必死なのでしょうが…
「何度も申し上げていますが、名前を呼ぶ許可をお出しした覚えはありません。今後は家名でお呼びください」
どうやら私の希望だと思っていなかった、いえ、思いたくなかったのでしょうね。でも、こうも人前ではっきりと言い切った事で、彼は反論する材料がなくなったようです。出来る事なら、これで理解して頂けるといいのですが。
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