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風向きが変わる?
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「それで、ラフォン嬢は本気で平民になるつもりなわけ?」
「まさか…その覚悟があると言っているだけでは?」
「だよねぇ。ラフォン家ならいくつか爵位を持っているし…もし話が纏まれば、爵位の一つを継がせて婿入りさせるのが一番手っ取り早いだろうね」
そう、ラフォン侯爵家ともなれば複数の爵位を持っていても不思議ではない。現に侯爵家の次男や三男が継ぐファリエール伯爵が有名だ。あの伯爵家は領地はないが商会を取りまとめる者が継ぐと聞く。全容はわからないがあれだけの家だ、それなりの商会を持っていても不思議ではない。それ以外でも領地がないものも含めれば、片手では足りないだろう。それだけの力と歴史があるのだ。
「あの令嬢が家を継ぐ可能性も…あるんだよな?」
「詳しい事は何も。だが、長男がいるし、いずれ戻るだろう」
「まぁ、侯爵が何の瑕疵もない嫡男を手放すとは思えないよなぁ。それでも世間ではあの令嬢は総領姫と呼ばれているんだ。そこがわかんないんだよなぁ…」
確かに世間ではレティシア嬢はずっと総領姫と呼ばれていた。それは王子の婚約者に選ばれる前から言われていた事で、王子との婚姻でその可能性はなくなった筈だ。それでもその呼び名が未だに残っている。確かに不自然と言えば不自然だ。
「まぁ、侯爵があの馬鹿王子に娘をやりたくなくて、あえて流していたのかもしれないけど」
兄の言葉を否定出来なかった。確かにあの第三王子は上の王子に比べて評判が良くない。ラフォン家は今のところ王家と婚姻を結ぶ必要がないし、あの王子ではデメリットの方が勝るようにも見える。案外それが本当なのかもしれない。少なくともあの侯爵は、王子との婚約破棄を喜んでいるように見えた。
「なぁ、リシャール、腹を括れ」
「何を…」
「侯爵が何を考えているのかはわからん。だが、話を聞く限りお前をあの令嬢の婿にする気なのは間違いないだろう」
「まさか…何かあったのか?」
急にそんな事を言い出した兄に、嫌な予感がした。兄はこう見えて遠くまで見える目と聞こえる耳を持つ上、妙に勘がいいのだ。何かこの件に関して思い当たる何かを掴んでいるのかもしれない。
「う~ん、何もない」
「は?」
噂なりそれにつながる情報があったのかと身構えたが、帰ってきた答えは素っ気なかった。
「何もないよ。でも、風向きが変わる気がするんだ。我が家と、お前にな」
「風向きって…」
「ま、お前にもいい機会じゃないか。ああ、そう言えばテオドールから手紙が届いたんだ」
「手紙?兄さんから?」
「ああ、もう二か月も前に書いたものだけど、あいつはもう吹っ切れたそうだ」
「吹っ切れた?」
「ああ。だからお前ももう囚われるな。そういう事だろうよ」
「それは…」
どういう意味だと聞こうとした言葉は、兄を呼ぶ義姉の声によって阻まれた。子供たちの声も聞こえてくる。愛妻家で子煩悩な兄はその声に返事をすると、まぁ頑張れと言って声のする方に行ってしまった。
「別に、囚われてなんか…」
その言葉は誰にも届かなかった。
「まさか…その覚悟があると言っているだけでは?」
「だよねぇ。ラフォン家ならいくつか爵位を持っているし…もし話が纏まれば、爵位の一つを継がせて婿入りさせるのが一番手っ取り早いだろうね」
そう、ラフォン侯爵家ともなれば複数の爵位を持っていても不思議ではない。現に侯爵家の次男や三男が継ぐファリエール伯爵が有名だ。あの伯爵家は領地はないが商会を取りまとめる者が継ぐと聞く。全容はわからないがあれだけの家だ、それなりの商会を持っていても不思議ではない。それ以外でも領地がないものも含めれば、片手では足りないだろう。それだけの力と歴史があるのだ。
「あの令嬢が家を継ぐ可能性も…あるんだよな?」
「詳しい事は何も。だが、長男がいるし、いずれ戻るだろう」
「まぁ、侯爵が何の瑕疵もない嫡男を手放すとは思えないよなぁ。それでも世間ではあの令嬢は総領姫と呼ばれているんだ。そこがわかんないんだよなぁ…」
確かに世間ではレティシア嬢はずっと総領姫と呼ばれていた。それは王子の婚約者に選ばれる前から言われていた事で、王子との婚姻でその可能性はなくなった筈だ。それでもその呼び名が未だに残っている。確かに不自然と言えば不自然だ。
「まぁ、侯爵があの馬鹿王子に娘をやりたくなくて、あえて流していたのかもしれないけど」
兄の言葉を否定出来なかった。確かにあの第三王子は上の王子に比べて評判が良くない。ラフォン家は今のところ王家と婚姻を結ぶ必要がないし、あの王子ではデメリットの方が勝るようにも見える。案外それが本当なのかもしれない。少なくともあの侯爵は、王子との婚約破棄を喜んでいるように見えた。
「なぁ、リシャール、腹を括れ」
「何を…」
「侯爵が何を考えているのかはわからん。だが、話を聞く限りお前をあの令嬢の婿にする気なのは間違いないだろう」
「まさか…何かあったのか?」
急にそんな事を言い出した兄に、嫌な予感がした。兄はこう見えて遠くまで見える目と聞こえる耳を持つ上、妙に勘がいいのだ。何かこの件に関して思い当たる何かを掴んでいるのかもしれない。
「う~ん、何もない」
「は?」
噂なりそれにつながる情報があったのかと身構えたが、帰ってきた答えは素っ気なかった。
「何もないよ。でも、風向きが変わる気がするんだ。我が家と、お前にな」
「風向きって…」
「ま、お前にもいい機会じゃないか。ああ、そう言えばテオドールから手紙が届いたんだ」
「手紙?兄さんから?」
「ああ、もう二か月も前に書いたものだけど、あいつはもう吹っ切れたそうだ」
「吹っ切れた?」
「ああ。だからお前ももう囚われるな。そういう事だろうよ」
「それは…」
どういう意味だと聞こうとした言葉は、兄を呼ぶ義姉の声によって阻まれた。子供たちの声も聞こえてくる。愛妻家で子煩悩な兄はその声に返事をすると、まぁ頑張れと言って声のする方に行ってしまった。
「別に、囚われてなんか…」
その言葉は誰にも届かなかった。
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