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面倒事が押しかけてきました

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 私がマルロー商会に通い始めて一週間が経ちました。リシャール様との仲は相変わらずですが、それでも従業員の皆さんと少しずつ仲良くなっていった私は、とても満足した気分で毎日楽しく過ごしていました。そこに割って入るかのように暗雲が立ち込め始めたのです。
 実は殿下の処遇が決まった後、押しかけてくるのでは?との懸念はあったのです。でも十日過ぎても何の接触もなかったのもあり、すっかり忘れていました。そんな今更感満載の中、殿下が突然押しかけてきたのですが…

「おい、レティシアを呼べ!」

 爽やかな朝の空気を無粋にも乱したのは、聞き覚えのある声でした。声のある方に視線を向けると…案の定、そこにいたのはエルネスト殿下で、アネット様も一緒です。その後ろには殿下のご友人も何人か見えますわね。彼らは伯爵位の子息、それも次男や三男ばかりで、それだけで殿下の人望の低さが伺えます。

「ちょっと、レティシア様、面倒なのが来たわよ」

 声を潜めてベルティーユ様が私に声をかけました。先日、ベルティーユ様から殿下が復縁したいと言ってくる可能性を示唆されたのですが…悪い予感に限って当たるのはどういう事でしょうか。こうしている間も、殿下が居丈高に近くにいた生徒に私を呼べと命令しています。王子とは言っても、いずれは臣下に下る身です。そんなに偉そうにしては困るのはご自身でしょうに…さすがに放っておくわけにもいかず、私はため息をつくと殿下の元に向かいました。

「殿下、何か御用ですか?」

 嫌々ながらもご友人たちに何やら話しかけている殿下に声をかけました。もうじき授業が始まるでしょうから、早々に戻って頂きたいですわね。まぁ、先生がいらっしゃればそれ以上は居座る事はないでしょう。

「何だ、やっと来たか。さっさと……はぁ?!!」

 文句を言いながらも振り返った殿下が、私の顔を見るなり固まってしまいました。何でしょう、人の顔を見てその態度、随分感じが悪いですわね。よく見れば殿下だけでなくアネット様やその後ろのご友人も似たようなものです。さすがは殿下のお友達、失礼なところもよく似ていらっしゃいますわね。

「な…お、お前…い、いや、君は誰だ?」

 私を視界に認めた殿下は、いきなり態度を変えてきました。これまではお前と言っていたのに、急に君呼ばわりです。いえ、お前よりはマシなのでしょうが、なんだか薄ら寒いですわね…そして殿下のご友人たちも固まっていますが、どうしたというのでしょうか。

「あ、あの…お名前を伺っても?美しい方」
「は?」
「え?」

 いきなり殿下が私に跪いて、私の手を取って名を聞いてきましたが…えっと、もしかして殿下、私がわからない、のでしょうか…確かに今の私は王妃様お気に入りの縦ロールも濃いメイクもしていませんが…

「何を仰っているのですか?私はレティシアですわ」
「はぁああ?!!」
「な、何ですって…!」
「う、嘘だろう…?!!」

 触れられる事が気持ち悪くて振り払いながらそう告げると、殿下ご一行様は揃って驚愕の表情を浮かべ、校舎に響き渡りそうな大声をあげたのでした。


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