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緊張の顔合わせ
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「ラフォン侯爵様、今日はどのようなご用件でしょうか」
穏やかでありながらも、決して媚のない声色は子爵の人柄を表しているようにも見えました。筆頭侯爵家であり、国内の貴族のトップに立つ我が家に対して、多くの家は機嫌を取ろうと必死です。中にはあからさまに媚を売る方もいますが、子爵にはそのようなものは感じられません。奥様もリシャール様も堂々として、とても好感が持てます。
「急にお呼びして申し訳ない、マルロー子爵、夫人とご令息も」
「いいえ、我が国一のラフォン侯爵様に呼ばれるなど、我が家にとっては誉にこそなれ、お詫び頂く事はございません」
「そう言って頂けると助かる。実は今日お呼びしたのは、ご子息の件で相談したい事があったのだ」
「子息、とは…このリシャールの事でしょうか?」
さすがに子爵でも、今日呼ばれた理由までは判らなかったようです。確かに今までは何の接点もありませんでしたから、仕方ありませんわね。マルロー商会とは仕事の付き合いはありましたが、密度の高い取引はありませんし、リシャール様との面識もないも同然です。
「ええ。リシャール君を娘の婚約者に、と思いましてね」
「は?」
「え…?」
お父様の言葉に、マルロー家の皆さんが固まってしまわれました。子爵と夫人はそれぞれに口を開けて呆気にとられています。リシャール様はというと、こちらは訝しげな表情を滲ませていて、ご両親よりも冷静のようですが…うう、やっぱり怪しいと思われてしまうのですね…
でも、それも仕方がないのでしょう。だって筆頭侯爵家が子爵家の三男を娘の婿にだなんて普通はあり得ませんから。侯爵家の娘が嫁ぐのは、どんなに家格が低くても伯爵家ですし、しかも私は先日までエルネスト様の婚約者だったのです。
「し、失礼な事をお伺いしますが…その…侯爵様には隠し子がいらっしゃったのでしょうか?」
さすがは大商人の子爵、驚きはしたものの、立て直しは早く、そして的を得ていましたが…どうやら子爵家の皆様は私がレティシアだと気が付かないようです。
でも、それも仕方ないですよね、見た目もすっかり別人ですが、それ以上に貴族の結婚は釣り合いを非常に重要視します。もし侯爵家が子爵家に娘を嫁がせたいとなれば、それは正妻の子ではなく、妾や愛人の子だと考えるのが妥当でしょう。
「ああ、そちらはご心配なく。神に誓って隠し子などおりません。私は…妻ただ一人を愛しておりますので」
「さ、左様でございますか、失礼致しました。で、では…」
「ええ、娘はこの、レティシアです」
そう言ってお父様は私の頭に手をポン、と置きましたが…それを見た子爵家の皆様は、今度こそ揃って驚きの表情を浮かべたのでした。
穏やかでありながらも、決して媚のない声色は子爵の人柄を表しているようにも見えました。筆頭侯爵家であり、国内の貴族のトップに立つ我が家に対して、多くの家は機嫌を取ろうと必死です。中にはあからさまに媚を売る方もいますが、子爵にはそのようなものは感じられません。奥様もリシャール様も堂々として、とても好感が持てます。
「急にお呼びして申し訳ない、マルロー子爵、夫人とご令息も」
「いいえ、我が国一のラフォン侯爵様に呼ばれるなど、我が家にとっては誉にこそなれ、お詫び頂く事はございません」
「そう言って頂けると助かる。実は今日お呼びしたのは、ご子息の件で相談したい事があったのだ」
「子息、とは…このリシャールの事でしょうか?」
さすがに子爵でも、今日呼ばれた理由までは判らなかったようです。確かに今までは何の接点もありませんでしたから、仕方ありませんわね。マルロー商会とは仕事の付き合いはありましたが、密度の高い取引はありませんし、リシャール様との面識もないも同然です。
「ええ。リシャール君を娘の婚約者に、と思いましてね」
「は?」
「え…?」
お父様の言葉に、マルロー家の皆さんが固まってしまわれました。子爵と夫人はそれぞれに口を開けて呆気にとられています。リシャール様はというと、こちらは訝しげな表情を滲ませていて、ご両親よりも冷静のようですが…うう、やっぱり怪しいと思われてしまうのですね…
でも、それも仕方がないのでしょう。だって筆頭侯爵家が子爵家の三男を娘の婿にだなんて普通はあり得ませんから。侯爵家の娘が嫁ぐのは、どんなに家格が低くても伯爵家ですし、しかも私は先日までエルネスト様の婚約者だったのです。
「し、失礼な事をお伺いしますが…その…侯爵様には隠し子がいらっしゃったのでしょうか?」
さすがは大商人の子爵、驚きはしたものの、立て直しは早く、そして的を得ていましたが…どうやら子爵家の皆様は私がレティシアだと気が付かないようです。
でも、それも仕方ないですよね、見た目もすっかり別人ですが、それ以上に貴族の結婚は釣り合いを非常に重要視します。もし侯爵家が子爵家に娘を嫁がせたいとなれば、それは正妻の子ではなく、妾や愛人の子だと考えるのが妥当でしょう。
「ああ、そちらはご心配なく。神に誓って隠し子などおりません。私は…妻ただ一人を愛しておりますので」
「さ、左様でございますか、失礼致しました。で、では…」
「ええ、娘はこの、レティシアです」
そう言ってお父様は私の頭に手をポン、と置きましたが…それを見た子爵家の皆様は、今度こそ揃って驚きの表情を浮かべたのでした。
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