上 下
4 / 238

善は急げ、ですわ!

しおりを挟む
「お嬢様、どうされたのです?こんなに早くに?」

 馬車乗り場まで辿り着くと、私の侍女のコレットが綺麗な新緑色の瞳を目いっぱい見開いて迎えてくれました。彼女は私の乳母の娘で、私達は一緒に育ったも同然、私には姉でも妹でも親友でもあります。

「エルネスト様に婚約破棄されたのよ」
「は…?」

 さすがのコレットも、直ぐには理解できなかったようですが…気持ちはわかりますわ。あのような場で婚約破棄を告げるなど、真っ当な感性をお持ちなら出来る筈もありません。まぁ、他の王子殿下と違って色々足りないと言われてきましたが、それってこういうところなのですよね。

「お父様に直ぐに報告しなきゃ。そしてさっさと陛下に認めさせないと」
「お嬢様、本当に?」
「ええ、本当よ」
「そ…そうですか!よ、よかったですわ!」

 感極まったコレットが、思いっきり抱きついてきました。彼女もこの婚約をずっと忌々しく思っていたので、破棄だろうとも殿下と縁が切れたのを喜んでくれましたのね。ふふ、正式に婚約が破棄されたらお祝いしなくちゃいけませんわね。

「そうよ、だから直ぐにお父様に報告するのよ」
「ええ、ええ。お嬢様、直ぐに帰りましょう!」

 こうして私が家に戻ると、家令や侍女たちもコレット同様驚きながらも出迎えてくれました。パーティーが終わる時間はまだまだ先ですもの。こんなに早い時間に返ってきたら何事かと騒ぎになるのも仕方ないでしょう。

「お父様は?」

 私は出迎えてくれた家令のセザールに声をかけました。彼はコレットの父で、この屋敷を取り仕切っているジュネ子爵家の当主でもあります。彼の家族は皆、私たち一家のために尽くしてくれる大切な家族のような存在なのです。

「はい、只今は書斎に」
「そう、直ぐにお伺いしても大丈夫かしら?」
「はい、今でしたら」

 確認を取った私は、着替えを後にして、そのままお父様の書斎に向かいました。

「お父様、レティシアです。入ってもよろしいですか?」
「レティ?どうした?入りなさい」

 どうやらこんな時間に私が家にいるのを不審に思ったのでしょう。戸惑うお父様の声に申し訳なく思いながらも、私は部屋に入りました。

「レティ、今はパーティーの最中では?」
「そうなのですが…実は私、殿下に婚約破棄されましたの」
「は、破棄だと?ど、どういう事だ?!」

 案の定、お父様は一気に顔を赤くしてお怒りモードに入りました。怒り心頭のお父様、さすがは氷の宰相と言われるだけあって怖いですわね。そんなお父様に私は、会場であった事を洗いざらい話しました。

「あ、あんのクソガキ…よくもうちのレティに…!」

 ギリギリと、忌々しさ全開のお父様、ちょっと怖いですわ…でも、お父様は私を溺愛しているので、これも当然の反応です。いえ、お父様が一番溺愛しているのはお母様で、私とお兄様はその次ですが、お父様が愛妻家で家族思いなのは周知の事実です。

「お父様、どうか直ぐにでも陛下に…」
「ああ、もちろんだ。今すぐ登城する!必ず婚約破棄を受け入れさせてやる!」

 そういってお父様はセザールに馬車の準備を頼むと、直ぐに登城してしまいました。陛下達のごり押しで結んだ婚約を、殿下が相談なしで破棄したのですから、当然ですわね。

しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...