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次に目覚めた時、最初に目に入ったのは昨夜泊まったホテルの部屋とは少し角度の違う、だが同じ色の照明だった。ベッドの上に寝ていて、自分はワイシャツ姿になっている。
曽宮が、目の端に映った。風呂に入ってきたのかホテルの館内着を着ていた。
曽宮の指がゆっくりと田中のネクタイをほどき、シャツのボタンを外していく
(このまま・・・するのかもな)
この2週間曽宮はしょっちゅうメッセージを送ってきてくれた。売却か協業か、運命の分かれ道となる回答が来るまでの張り詰めた日々の中で他愛もない曽宮とのメッセージのやり取りは唯一の心落ち着く瞬間だった。
(別に、構わないけど、ちょっとしんどいな)
シャツのボタンが二つ外されたところで
曽宮は覆いかぶさるように顔を覗き込んできて・・・田中のほほをペチペチと叩いた。
「気がついた? 飲み過ぎて、途中で意識を失ったんだ。田中さんの部屋まで送ろうかと思ったんだけど、部屋番号がわからなかったから」
そう言われると、うっすらと記憶が蘇る。
「・・・ご迷惑をおかけしました」
そう言って立ち上がろうとすると、足に力が入らずよろけてしまう。すかさず、横から手が伸びてきて抱き止められた。顔を上げると、そこには心配そうな表情をした曽宮がいた。
至近距離にある顔から目が離せない。心臓が激しく脈打つのが分かった。
そんな自分の様子に気づかず、優しさのこもった目で見つめてくる彼に罪悪感を覚える。
「・・・大丈夫ですから」
そう言って、離れようとするが上手くいかない。その様子を見て、彼が言った。
「無理しなくていいよ。ほら、座ってて」
そう言うと、田中をベットに座らせて、立ち上がりキッチンに向かう。そして、グラスを持って戻ってくると、水の入ったそれを差し出してきた。受け取ると、一気に飲み干す。冷たい水が体に染み渡っていくのが分かる。ふぅっと息を吐くと、ようやく落ち着いてきた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
曽宮は小さく笑った。その表情はとても柔らかいもので、ドキッとする。
「誠司さん、アダルトショップの社長さんだったんだ。それであんなコンドーム持ってたんだね」
見上げると、優しい眼差しでこちらを見つめていた。その瞳には慈愛のようなものが込められている気がして、胸が高鳴る。そのまま見つめていると吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥り、慌てて目を逸らす。向こうは本当に自分の体調を心配してくれているようで良からぬ想像をしていたのが恥ずかしい。
「体調は大丈夫?」
「はい、もう平気です」
そう答えると、ほっとしたような表情を見せた。それを見て、改めて申し訳ない気持ちになる。
「すみません、私のせいで迷惑をかけてしまって・・・」
頭を下げようとしたとき、不意に腕を掴まれた。驚いて見ると、真剣な表情をしている彼の顔があった。思わず息を呑む。
「本当に気にしないで、また会えて嬉しかった」
じっと見つめられて、頬が赤くなるのがわかる。心臓の音がうるさいくらい耳に響いていた。
何か言わなければと思うものの言葉が出てこない。そんな様子を察してか、彼は手を離すと微笑む。そして、口を開いた。
「自分の部屋で寝る?」
その言葉に我に返る。時計を見ると、もう深夜の2時を回っていた。
「帰ります」
「分かった。じゃあ、送るよ」
そう言って立ち上がると、上着を取りに行くためか寝室の方に歩いていった。しばらくして戻ってくると、ハンガーにかけてあったスーツを手に取り羽織った。ネクタイを締め直し、襟元を整えるとこちらに向き直る。その姿はとても様になっていて格好良かった。
自分も急いで帰り支度をする。といっても、鞄を持つだけだが。
玄関に向かい靴を履く。先に出ようとドアノブに手をかけたところで声をかけられた。振り返ると、目の前に曽宮が立っていた。驚いている間に距離を詰められ、唇に柔らかな感触を感じる。キスをされたのだと気づいたときには、既に離れていた。
「おやすみ」
耳元で囁かれ、体が熱くなる。逃げるようにして部屋を出た。エレベーターを待っている間も動悸は治まらず、何度も深呼吸をする。早くおさまれと思いながらも、同時に名残惜しいと思っている自分がいることにも気づいていた。
(やっぱり・・・曽宮さんのことが、好きだ)
心の中で呟くと、胸の奥がぎゅっと締め付けられたような気がした。
自分の部屋に戻った田中はすぐにシャワーを浴び、ベッドに寝転がった。ベッド脇の机に置いたスマホが震える。
マッチングアプリに、曽宮からのメッセージが来ていた。
開くと『おやすみなさい』という文章と共に『やっぱり付き合うのはなし?』と悪戯っぽく短く添えられていた。
返信として文字を打ち込んだ後、取り消して、また入力して削除してと、散々迷っているうちに田中は眠りについてしまった。
ーーーー
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曽宮が、目の端に映った。風呂に入ってきたのかホテルの館内着を着ていた。
曽宮の指がゆっくりと田中のネクタイをほどき、シャツのボタンを外していく
(このまま・・・するのかもな)
この2週間曽宮はしょっちゅうメッセージを送ってきてくれた。売却か協業か、運命の分かれ道となる回答が来るまでの張り詰めた日々の中で他愛もない曽宮とのメッセージのやり取りは唯一の心落ち着く瞬間だった。
(別に、構わないけど、ちょっとしんどいな)
シャツのボタンが二つ外されたところで
曽宮は覆いかぶさるように顔を覗き込んできて・・・田中のほほをペチペチと叩いた。
「気がついた? 飲み過ぎて、途中で意識を失ったんだ。田中さんの部屋まで送ろうかと思ったんだけど、部屋番号がわからなかったから」
そう言われると、うっすらと記憶が蘇る。
「・・・ご迷惑をおかけしました」
そう言って立ち上がろうとすると、足に力が入らずよろけてしまう。すかさず、横から手が伸びてきて抱き止められた。顔を上げると、そこには心配そうな表情をした曽宮がいた。
至近距離にある顔から目が離せない。心臓が激しく脈打つのが分かった。
そんな自分の様子に気づかず、優しさのこもった目で見つめてくる彼に罪悪感を覚える。
「・・・大丈夫ですから」
そう言って、離れようとするが上手くいかない。その様子を見て、彼が言った。
「無理しなくていいよ。ほら、座ってて」
そう言うと、田中をベットに座らせて、立ち上がりキッチンに向かう。そして、グラスを持って戻ってくると、水の入ったそれを差し出してきた。受け取ると、一気に飲み干す。冷たい水が体に染み渡っていくのが分かる。ふぅっと息を吐くと、ようやく落ち着いてきた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
曽宮は小さく笑った。その表情はとても柔らかいもので、ドキッとする。
「誠司さん、アダルトショップの社長さんだったんだ。それであんなコンドーム持ってたんだね」
見上げると、優しい眼差しでこちらを見つめていた。その瞳には慈愛のようなものが込められている気がして、胸が高鳴る。そのまま見つめていると吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥り、慌てて目を逸らす。向こうは本当に自分の体調を心配してくれているようで良からぬ想像をしていたのが恥ずかしい。
「体調は大丈夫?」
「はい、もう平気です」
そう答えると、ほっとしたような表情を見せた。それを見て、改めて申し訳ない気持ちになる。
「すみません、私のせいで迷惑をかけてしまって・・・」
頭を下げようとしたとき、不意に腕を掴まれた。驚いて見ると、真剣な表情をしている彼の顔があった。思わず息を呑む。
「本当に気にしないで、また会えて嬉しかった」
じっと見つめられて、頬が赤くなるのがわかる。心臓の音がうるさいくらい耳に響いていた。
何か言わなければと思うものの言葉が出てこない。そんな様子を察してか、彼は手を離すと微笑む。そして、口を開いた。
「自分の部屋で寝る?」
その言葉に我に返る。時計を見ると、もう深夜の2時を回っていた。
「帰ります」
「分かった。じゃあ、送るよ」
そう言って立ち上がると、上着を取りに行くためか寝室の方に歩いていった。しばらくして戻ってくると、ハンガーにかけてあったスーツを手に取り羽織った。ネクタイを締め直し、襟元を整えるとこちらに向き直る。その姿はとても様になっていて格好良かった。
自分も急いで帰り支度をする。といっても、鞄を持つだけだが。
玄関に向かい靴を履く。先に出ようとドアノブに手をかけたところで声をかけられた。振り返ると、目の前に曽宮が立っていた。驚いている間に距離を詰められ、唇に柔らかな感触を感じる。キスをされたのだと気づいたときには、既に離れていた。
「おやすみ」
耳元で囁かれ、体が熱くなる。逃げるようにして部屋を出た。エレベーターを待っている間も動悸は治まらず、何度も深呼吸をする。早くおさまれと思いながらも、同時に名残惜しいと思っている自分がいることにも気づいていた。
(やっぱり・・・曽宮さんのことが、好きだ)
心の中で呟くと、胸の奥がぎゅっと締め付けられたような気がした。
自分の部屋に戻った田中はすぐにシャワーを浴び、ベッドに寝転がった。ベッド脇の机に置いたスマホが震える。
マッチングアプリに、曽宮からのメッセージが来ていた。
開くと『おやすみなさい』という文章と共に『やっぱり付き合うのはなし?』と悪戯っぽく短く添えられていた。
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