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もう恋なんてしないなんて
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しおりを挟むお盆も明けて、暑さがジリジリと増してきた。
そんな夏真っ盛りの今日、私は久しぶりに2学期に行われる学園祭のために学校に来ていた。
てか今の私にはそんなことはどうだっていい。
いやそんなこと素直に言ったら委員の子とかには嫌われるから大々的には言わないけど、そんな事よりもずっと頭から離れないことがある。
「あぁあああー……、あの人は一体何者ぉおお……っ」
「おい明子。だらける前に手を動かせ。そこはみ出てるって」
模擬店で使うらしい看板にペンキで色を塗っていたら優斗に注意を受けた。
仕方なくむすっとしながら塗っていく。
「だってだって!謎の美女が突然祭りで現れたんだよ?!しかも2人して意味深な空気ぶんぷん匂わせちゃってさ!」
「それ、あの人にめーちゃんは聞いたの?」
「聞いたよ。でも聞いて素直に『彼女とはこういう関係さ』って言ってくれるような人だったら今までこんなに悩んでないから!」
んん…、と翔太はうなってそれもそうか、とつぶやく。
ここで一度あの時の回想いってみよう。
私から手を離した類くんは彼女を見つめたまま突っ立っていて、パタパタと彼女の方から小走りで歩み寄ってきた。
白地に藍色の花が上品に咲く浴衣に、黒い髪を夜会巻きで結わえた大人の女性。
何より顔立ちが綺麗で、メイクも派手ではないのに目を引く容姿。
類くんと2人で並ぶとその迫力たるや、ちびな私ではなし得ない色気が2人から漂ってくる。
『久しぶり、類。まだこっちの方に住んでたのね』
『…麗華は、どうして……』
『主人の仕事でこっちに戻ってきたの。そしたらお祭りをやってたから懐かしくて。今、彼は向こうの出店で並んでくれてるんだけどね』
穏やかにその人は話しながら微笑んだ。
類くんはと言うと、いつもの余裕ありげな様子は全くなくなり、まだ動揺しているらしく彼女をじっと見つめている。
そんな彼女は取り残されていた私に目をやって、類くんの腕をそっと触った。
『類、そちらは?』
『…バイトの同僚』
ぼそっと類くんは言う。
私の紹介の仕方も傷つくが、それよりも私はまだ離された手のひらが切なくてそれどころじゃなかった。
しかし彼女は私を見てにこっと笑って。
『ごめんなさい、邪魔して。私もう戻るわね』
そう私に微笑んだあと、類くんに視線を戻して彼の左の耳に手を伸ばす。
そして何かをこそっと伝えると気が済んだのか、また歩いてお祭りの中に消えていった。
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