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君じゃなきゃダメなんだ!

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夜も深まってきて空が濃くなっていく。

今日は割と涼しい方で、人混みの中は暑いけど少し離れたら風が通って気持ちいい。


「これ、はめて?」


私は類くんに指輪を差し出して見上げる。

明らかにうざったそうな顔をしてるわ。

それでも私が引き下がらなかったから、類くんは嫌々、渋々私の手を取って指輪を掴んだ。


「どの指」

「薬指!」


左手の薬指をピンと伸ばすと、類くんは文句を言わずするりとその指に通してくれた。

ちょっと緩いけど、クルクル回るわけでもなく割りかしいい感じに付けれてわーいと喜ぶ私。


「類くんに指輪貰っちゃった!」

「…いやそれただのおもちゃだし」

「いいのいいの。すんごく嬉しいんだから」


へへ、と笑う私に居心地が悪くなったのか類くんは目線を逸らして、頭をかきながら向こうも見るか?と手を差し出してくれる。

こんなに幸せでいいんだろうか。

もうこれ、付き合ってるって思っちゃってもいいんじゃない?

そんな風に私は浮かれて類くんの手を握って歩いた。

歩幅だって私が浴衣で歩きづらいから、いつもよりもだいぶゆっくりにしてくれている。

これ以上の幸せなんてあるんだろうかと浸りながらお祭りを散策していく。

そしてそろそろ歩き疲れてきて、いい加減帰ろうかと駅の方に向かおうとした時だった。


「類………?」


誰かに類くんが呼び止められる。

2人して振り返ると、通りの出店の前にいたその人は、驚いた表情をして類くんを見つめていた。

そして隣に立つ彼をちらっと見ると、それ以上に驚いた、いや、複雑な表情でその人を見つめる類くんの姿。


と、類くんは反射的に、握っていた私の手をパッと離した。


「……麗華…」


小さな声で。

彼はその女性の名前をつぶやいた。
 
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