それは愛か本能か

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「"はやてちゃん"を好きだった・・・の?」

 アランに聞かれ、首を縦に振った。

「好きだよぉ」

 はやてちゃんはボクの大事な友達。彼以外に日常のことを話しては来なかった。仕事の時に求められているのはオメガとしてのボクで、一人の人間ではなかった。

 アランはボクの返事に少しむっとしたような、悲しそうな顔をした。
 好きだったの、と聞かれ、好きだと返した。ちょっとした意地悪。

「そういう意味じゃないよ」

 つい笑ってしまって、意地悪はすぐに溶けてなくなる。

「それなら良かった」

 ぎゅうと抱かれて、へへへと笑いが漏れた。

「もし"はやてちゃん"を好きなら、彼には会わせてあげられないと思った。だけど、それもよくないよね。君は自由であるべきだし、その中で私を選んでほしい」



 アランは少しめんどくさい。
 なぜって彼は、自身がアルファであることをあまりよく思っていない。自分がアルファで、オメガであるボクを縛れることを気にしている。その動物的本能で好きだの嫌いだの無しに拘束できるし、依存させられるし、なんだったらその本能でもって「好き」を偽装できると思っている。
 彼の家系はアルファが多い。だから色々見てきたのかなぁって思うけれど、ボクは、そんな簡単なことかな? って疑問も持っている。

 好きはそんなに簡単に作れるかな。騙していてもばれてしまうんじゃないかな。はやてちゃんが上条さんに対して初め拒絶反応を持っていたように、これは違うって思いは意外に強く働くんじゃないだろうか。
 もちろん、その反対のことをアランは心配しているわけだけど。

 ボクたちは出会ってすぐに体の関係を持った。すぐにアランに噛まれ番にもなった。それを両方とも、ボクは覚えていない。吐き気に見舞われ見知らぬ人に助けを求めた後どうしたのかを、まったく覚えていない。
 アランが言うには泊まっていたホテルにすぐに連れて帰ったらしい。しどろもどろになりながらだけど、彼は全部話してくれた。
 すがってきたボクを車内で噛んだこと、そのままセックスをして、ホテルに着けば毛布をもってきて裸のボクを抱えて部屋に行ったこと。薬の副作用が残っていたから何度か吐かせて、それでもセックスを再び続けたこと。意識が飛んでしまったボクを、そのまま連れ去ったこと。

 覚えてないなんてすごいなぁって思う。あり得るかなそんなこと。でも意識が戻った時にアランとえっちして、すんなりできてしまったのは既にやってたからだろうなとは何となくわかる。
 強い快感と興奮、薬で抑えつけていたはずなのにそれを暴くように番になったこと。多分全部合わさってボクの脳みそはいっぱいいっぱいだったんだろう。



「ねえアラン、雨が上がったよ。散歩に行く?」

 今度アランの仕事で日本に行く。その時はやてちゃんに会いたいなって思って、今連絡をしている。あっちはあっちで上条さんの予定があるから、そうすんなりとは決まらない。
 はやてちゃんはボクのことをどう思うかな。かわい子ぶってたボクのことを嫌いになったりしないかな。でもはやてちゃんならきっと大丈夫。ようやく会えたねって笑って、最後にはまたねって言いたい。

「行こうか」

 引き出しに並んだボクの首輪。オメガのための保護具は、ボクがねだって買ってもらったもの。

「お天気が良くなってきたから明るい色にしようかな」

 ボクが選んで、アランに渡す。この首に首輪をつけるのは彼の役目。自分ではしない。アランの役目。
 大きな手が首に回って触れられて、一瞬息を止めて、息を吐く。青い目がまっすぐにボクを見て、そっと鍵を付けてくれる。


 もし散歩中にアランがいなくなってしまっても、他の人に噛まれたくないんだ。もし貴方がいなくなってしまっても、もう他の人はいらないの。死ぬまでオメガの本能がボクを苦しめるだろうけど、それでも、最期をアランの思い出で飾りたい。

 ボクが選ぶよ。

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