君となら

紺色橙

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12 週末

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 余韻は残り続けた。
 指を入れられただけで終わったのに、気持ちよさが強すぎて少しぐったりした。

「女の子凄い」

 ゲームだから敏感になっているのかもしれない。他人にされたから気持ちよさが増したのかもしれない。
 幸福感だけが残っている。

 非現実に引っ張られて現実のオレが粗相をしてないかだけ、一瞬のうちに心配した。さすがに口にするのは憚られる。今の可愛い姿で何を言おうが笑えるかもしれないが、リアルのオレは美少女ではない。

 オレが気持ち良くなっただけなのに、仁はただ隣にいた。力が抜け横たわるオレを横から抱くように。だからオレも、心臓が落ち着くのを待っていた。
 汗をかいたはずなのにいつの間にかそれも消える。べたつきが残ったりもしない。

 初めて仮想現実で体験した気持ちよさは、出来るならもう一度、と思ってしまうものだった。




 現実は夜になっていた。
 ゲームの世界の方が時間の進みは早い。夜から明け方まで登山していようと、それはあくまでゲーム内での時間。だけれどやはりそれなりの時間は経っていた。
 
「泊っていけば?」
「まだ電車動いてるっしょ?」
「疲れてるみたいだから」

 リアルのオレに戻ってすぐにトイレを借りた。下着を汚していないか本気で心配したけれど、無事だった。

「疲れっていうか、まぁ、うん」

 気持ちよさに伴う疲れはあった。多分これはゲーム内で風呂に浸かり疲労回復してもどうにもならない。

「ゲームだって長くしてたら疲れるよ。仮想現実なんて特に」

 それはそうだ。本当に。特にこの部屋は同じに作られているものだから、未だに「あれ?」と考えてしまう。
 オレはもう美少女アキラじゃない。ここは現実。

「バイトの話。話し相手とも言ったけど」
「うん」
「寂しい週末に付き合ってもらうのは無し?」
「それはいつも――」
「アキラも疲れているみたいだし、のんびりジュースでも飲んで泊っていけばいい」

 酒は飲まないよね、と確認された。それに頷く。

「いや、でも、寝るとこ無いし」
「さっき二人でそこのベッドにいたのに」
「それはだって、ゲームだし」
「サイズは同じだよ」
「でもオレ、オレもう美少女じゃないから」

 現実のオレはもう、美少女ではない。
 否定するオレに仁は、「アキラはアキラだよ」と言った。



 ピザが来たら受け取っておいてと金を渡され、家に残される。コンビニに行くと出かけてしまった仁の家にただ一人。オレが何かしないか心配ではないのかと逆に心配になる。何もすることができず、部屋の一画にあるフィギュアを眺めて時間を潰した。
 ピンポンにびくりとし、「都築さんですか」との宅配確認に内心違うと思いながら返事をする。
 窓から見える風景は違うし、モニターは明かりを灯しているけれど、家の中はどこもかしこもゲーム内の部屋と同じに見えた。
 
「おかえり。ピザ届いてるよ」
「ただいま」

 帰ってきた仁にほっとすれば、あちらはあちらで嬉しそうな顔をしていた。

 ずいぶん久しぶりなピザを食べつつ、話題はやっぱりゲームの話。オレたちはなにたもMMORPGだけをしているわけじゃない。色んなゲームでそれぞれアップデートが行われていて、それをふらふらしていたりする。

「仁が色んなゲームやってんのって、参考にするため?」
「それもあるけど、ただの趣味」

 ゲームは同じように見えてもやっぱり違って、だけどもMMOで大事なのは等しく人間なのだと思う。他人とどういうコミュニケーションを取るか。
 ずっと一緒に遊べる仲間ができたことはオレにとってめちゃめちゃに嬉しいことだ。それに有難いことでもある。誰かと一緒ならいつまででも遊べる。

「今日はもう寝る?」
「うん。珍しく朝から出かけたから、疲れた」
「どこ行ってきたの」
「美容室」
「珍しい」
「だって、バイト面接みたいなもんだろ今日。仁しかいないつっても、わかんないし」

 朝に行ったから、散髪と共にセットもしてもらっている。自分じゃ髪をいじるなんてしないから、今が一番まともなはずだ。

「明日またゲームできる?」
「勿論」
「やった。なぁお前はずっと一緒にしないの? どうせなら一緒にさ」
「いいの? それだとつまらなくならないかな」
「平気だろ。お前と遊んでて、面白くないことないもん」

 仁は開発者だからゲームのことを理解している。その点オレとは違うから付き合わせる形になってしまうけど、このゲームがリリースされたらどうせ付き合ってもらうことにはなると思う。

「初心者のオレを案内してよ」
「昔と逆か」
「そう」

 初心者の仁をオレは案内した。その後レベルを上げた仁は、オレのギルドに入ることになった。前の、前の、もうサービス終了してしまったゲームの話。

 それからずっと一緒に遊んでいる。
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