4 / 41
4 感覚
しおりを挟む
俯き、電車に揺られて家に帰る。まだ半分ゲームの中にいるようで、だけれど窓ガラスに映る自分がどう見ても美少女ではないと現実を見せた。
実家暮らしのオレの部屋。くるりと椅子を回して座り、すっかり過疎化したネトゲにログインする。BGMは動画サイトで聞くことができるけど、夜の曲と環境音が合わさったこの音が好きだ。だから昔に引退したゲームで狩りもせず放置するためだけにここに来る。
ゲームの中のキャラクターは先ほどと同じようにツインテールで、その可愛い姿を画面に映す。鞄の中から衣装を選択し、アバターを色々と変えた。着ぐるみだったり、セーラー服だったり、魔女だったり。どれだって似合う。オレのキャラは可愛い。
ぽこんと左下の消えていたチャットがアクティブになった。フレンドログインの知らせだ。フレンド欄からJINの文字を選び、『おつかれ』と打ち込んだ。
仁のログイン時間は曖昧だった。深夜3時に普通にいることもあったし、朝8時にいることもあったし、夕方5時にいることもあった。それを全て知っているのはオレが引きこもりニートだからで、実は、もしかして同じなのかなって思ってたこともあった。実際は違ったわけだけど。
チャットを打ち込んでからすぐに、音もなく美少女アキラの隣にキャラクターが降り立った。足元にハートが出る。カップルですよっていう印だ。
このゲームではカップルシステムがある。他所のゲームだと結婚システムとか言われているかもしれない。どれも似たようなものだろう。
ここではカップルになると今のようにテレポートが使える。相手のところまで飛べるテレポは狩りにすごくすごく便利。大体一緒に狩りをしているから、鞄整理で町に戻る時間や狩場への移動時間が削減できる。カップルになるためには専用指輪を付ける必要があるからその分性能は下がるけど、ソロより狩り効率がいいからこっちを取った。一緒の狩場にいれば経験値が5%上昇するおまけもある。
『何してたの?』
『何も。昼間のこと考えてた』
考えてた、という程のものじゃない。
仁が開発しているゲームのウサギは3発で殺せたが、それを繰り返す気にはならなかった。ゲームでそんなことを思ったことはないから、やっぱり感覚がリアルすぎるせいなんだろう。といってもオレは現実で動物を狩ったことはないし、何なら飼ったこともない。
『またテストをしてもらうのは無理そう?』
『いや、やりたいよ。けど、ウサギ殺せないと進めないだろ。ゾンビとかいる?』
『アキラが帰ってから提案したんだよね。ゲーム慣れしてる人でも早い段階で引っかかったから、もっと無生物っぽいものに変更した方が良いんじゃないかって』
『あのウサギを?』
『ウサギを、というよりも、初期に遭遇する敵の見た目だね』
『ゲームに慣れてからならいけるかなぁ』
『もしくは狩りの時に感覚軽減するか』
柔らかな風も暖かな日差しも、狩りをするぞと決めたときには感じられなくなるということだ。初期はノンアクティブモンスターばかりかもしれないが、いずれあっちから積極的に襲ってくるだろう。ふらふらと風景を楽しみつつ、ぎりぎりになってから軽減設定にするなんてのは難しい気がする。となるとやはり、狩りをすると決めたら感覚を切るしかない。
『痛みとかも軽減されんの?』
『そうだね』
オレみたいなビビりにはその方が良いんだろう。
『スライムみたいなものはすでにいるから、そっちを初期配置にしてみるよ』
『でもさ、あの初心者クエストの報酬がうさ耳じゃん? あれ欲しいなぁ』
『スライム帽子作る?』
『それはちょっと……一部に需要がありそうだけど』
ゲームの世界は色鮮やかだった。
体は軽く、理想通りの見た目で走れた。
『昔さ、ギルドに車椅子だって人がいたんだ。その人は建物の高いとこに上るのが好きで、上り方も教えてもらった。だから、仁の作るゲームでそういう人も自由にできるなら、それがいい』
感覚を消してしまえば、ささくれた木板もざらついた屋根も分からなくなるだろう。高いところに上った時の高揚感と恐怖さえ、きっとすべて無くせる。だってゲームだから。
ゲームだからこそウサギを殺すなんてことに慣れる必要もないけれど、あの世界をもう少し見て回りたいとも思う。ゲームの中で草むしりをして生活することだって出来るようになるかもしれないけど、どうせなら現実にはあり得ないところまで行ってみたい。
『今度また、テストするときがあったら呼んでよ』
『もちろん』
美少女アキラの足元に出るハートマークを見て、それじゃあ、と誘う。
『狩り行こうぜ。時間ある? あるなら海底遺跡のボス直』
『いいよ。何周する?』
『レアが出るまで』
『OK』
オレがすることを拒否られたことは無い。カップルシステムの利用は仁が言い出したことだけど、相手がいないとどうにもできないからできてよかった。
仁のゲームにもこのシステムはあるんだろうか。誓いのキスを、なんて、あのゲームでもやるんだろうか。
実家暮らしのオレの部屋。くるりと椅子を回して座り、すっかり過疎化したネトゲにログインする。BGMは動画サイトで聞くことができるけど、夜の曲と環境音が合わさったこの音が好きだ。だから昔に引退したゲームで狩りもせず放置するためだけにここに来る。
ゲームの中のキャラクターは先ほどと同じようにツインテールで、その可愛い姿を画面に映す。鞄の中から衣装を選択し、アバターを色々と変えた。着ぐるみだったり、セーラー服だったり、魔女だったり。どれだって似合う。オレのキャラは可愛い。
ぽこんと左下の消えていたチャットがアクティブになった。フレンドログインの知らせだ。フレンド欄からJINの文字を選び、『おつかれ』と打ち込んだ。
仁のログイン時間は曖昧だった。深夜3時に普通にいることもあったし、朝8時にいることもあったし、夕方5時にいることもあった。それを全て知っているのはオレが引きこもりニートだからで、実は、もしかして同じなのかなって思ってたこともあった。実際は違ったわけだけど。
チャットを打ち込んでからすぐに、音もなく美少女アキラの隣にキャラクターが降り立った。足元にハートが出る。カップルですよっていう印だ。
このゲームではカップルシステムがある。他所のゲームだと結婚システムとか言われているかもしれない。どれも似たようなものだろう。
ここではカップルになると今のようにテレポートが使える。相手のところまで飛べるテレポは狩りにすごくすごく便利。大体一緒に狩りをしているから、鞄整理で町に戻る時間や狩場への移動時間が削減できる。カップルになるためには専用指輪を付ける必要があるからその分性能は下がるけど、ソロより狩り効率がいいからこっちを取った。一緒の狩場にいれば経験値が5%上昇するおまけもある。
『何してたの?』
『何も。昼間のこと考えてた』
考えてた、という程のものじゃない。
仁が開発しているゲームのウサギは3発で殺せたが、それを繰り返す気にはならなかった。ゲームでそんなことを思ったことはないから、やっぱり感覚がリアルすぎるせいなんだろう。といってもオレは現実で動物を狩ったことはないし、何なら飼ったこともない。
『またテストをしてもらうのは無理そう?』
『いや、やりたいよ。けど、ウサギ殺せないと進めないだろ。ゾンビとかいる?』
『アキラが帰ってから提案したんだよね。ゲーム慣れしてる人でも早い段階で引っかかったから、もっと無生物っぽいものに変更した方が良いんじゃないかって』
『あのウサギを?』
『ウサギを、というよりも、初期に遭遇する敵の見た目だね』
『ゲームに慣れてからならいけるかなぁ』
『もしくは狩りの時に感覚軽減するか』
柔らかな風も暖かな日差しも、狩りをするぞと決めたときには感じられなくなるということだ。初期はノンアクティブモンスターばかりかもしれないが、いずれあっちから積極的に襲ってくるだろう。ふらふらと風景を楽しみつつ、ぎりぎりになってから軽減設定にするなんてのは難しい気がする。となるとやはり、狩りをすると決めたら感覚を切るしかない。
『痛みとかも軽減されんの?』
『そうだね』
オレみたいなビビりにはその方が良いんだろう。
『スライムみたいなものはすでにいるから、そっちを初期配置にしてみるよ』
『でもさ、あの初心者クエストの報酬がうさ耳じゃん? あれ欲しいなぁ』
『スライム帽子作る?』
『それはちょっと……一部に需要がありそうだけど』
ゲームの世界は色鮮やかだった。
体は軽く、理想通りの見た目で走れた。
『昔さ、ギルドに車椅子だって人がいたんだ。その人は建物の高いとこに上るのが好きで、上り方も教えてもらった。だから、仁の作るゲームでそういう人も自由にできるなら、それがいい』
感覚を消してしまえば、ささくれた木板もざらついた屋根も分からなくなるだろう。高いところに上った時の高揚感と恐怖さえ、きっとすべて無くせる。だってゲームだから。
ゲームだからこそウサギを殺すなんてことに慣れる必要もないけれど、あの世界をもう少し見て回りたいとも思う。ゲームの中で草むしりをして生活することだって出来るようになるかもしれないけど、どうせなら現実にはあり得ないところまで行ってみたい。
『今度また、テストするときがあったら呼んでよ』
『もちろん』
美少女アキラの足元に出るハートマークを見て、それじゃあ、と誘う。
『狩り行こうぜ。時間ある? あるなら海底遺跡のボス直』
『いいよ。何周する?』
『レアが出るまで』
『OK』
オレがすることを拒否られたことは無い。カップルシステムの利用は仁が言い出したことだけど、相手がいないとどうにもできないからできてよかった。
仁のゲームにもこのシステムはあるんだろうか。誓いのキスを、なんて、あのゲームでもやるんだろうか。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
底なし沼を覗けば
wannai
BL
昼間はスポーツジム、夜は趣味で風俗で働く受けが高校の頃の顔見知りの超絶美形なサド野郎に再び付き纏われてるうちにラブになりそうでならない事を選んだ話
※ 受け本人はハッピーなメリバです
※ 後日談の同人誌(Kindleにあります)にてラブになります
だいきちの拙作ごった煮短編集
だいきち
BL
過去作品の番外編やらを置いていくブックです!
初めましての方は、こちらを試し読みだと思って活用して頂けたら嬉しいです😆
なんだか泣きたくなってきたに関しては単品で零れ話集があるので、こちらはそれ以外のお話置き場になります。
男性妊娠、小スカ、エログロ描写など、本編では書ききれなかったマニアック濡れ場なお話もちまちま載せていきます。こればっかりは好みが分かれると思うので、✳︎の数を気にして読んでいただけるとうれいいです。
✴︎ 挿入手前まで
✴︎✴︎ 挿入から小スカまで
✴︎✴︎✴︎ 小スカから複数、野外、変態性癖まで
作者思いつきパロディやら、クロスオーバーなんかも書いていければなあと思っています。
リクエスト鋭意受付中、よろしければ感想欄に作品名とリクエストを書いていただければ、ちまちまと更新していきます。
もしかしたらここから生まれる新たなお話もあるかもしれないなあと思いつつ、よければお付き合いいただければ幸いです。
過去作
なんだか泣きたくなってきた(別途こぼれ話集を更新)
これは百貨店での俺の話なんだが
名無しの龍は愛されたい
ヤンキー、お山の総大将に拾われる、~理不尽が俺に婚姻届押し付けてきた件について~
こっち向いて、運命
アイデンティティは奪われましたが、勇者とその弟に愛されてそれなりに幸せです(更新停止中)
ヤンキー、お山の総大将に拾われる2~お騒がせ若天狗は白兎にご執心~
改稿版これは百貨店で働く俺の話なんだけど
名無しの龍は愛されたい-鱗の記憶が眠る海-
飲み屋の外国人ヤンデレ男と童貞男が人生で初めてのセックスをする話(短編)
守り人は化け物の腕の中
友人の恋が難儀すぎる話(短編)
油彩の箱庭(短編)
もふもふすんすん
まめ
恋愛
チィは獣化出来ない小さな娘
犬獣人ラルフがある日突然連れて来て共に暮らしている
チィは大のもふもふ好き
二人はいつも共に居た
いつまでも小さいチィ
だがある日ラルフが出会った森に行こうと言う
ずっとチィには秘密にしていたチィの秘密
チィの本当の名前
ラルフ自身にも秘密が有った
ずっとお互い一緒に居ると思っていた
だがある事が二人の気持ちにすれ違いを起こし…
第三章に入るまで一旦完結とさせていただきます
気長にお付き合いください
R-18です
巻き戻り令息の脱・悪役計画
日村透
BL
※本編完結済。現在は番外後日談を連載中。
日本人男性だった『俺』は、目覚めたら赤い髪の美少年になっていた。
記憶を辿り、どうやらこれは乙女ゲームのキャラクターの子供時代だと気付く。
それも、自分が仕事で製作に関わっていたゲームの、個人的な不憫ランキングナンバー1に輝いていた悪役令息オルフェオ=ロッソだ。
しかしこの悪役、本当に悪だったのか? なんか違わない?
巻き戻って明らかになる真実に『俺』は激怒する。
表に出なかった裏設定の記憶を駆使し、ヒロインと元凶から何もかもを奪うべく、生まれ変わったオルフェオの脱・悪役計画が始まった。
狼王の贄神子様
だいきち
BL
男性でありながら妊娠できる体。神が作り出した愛し子であるティティアは、その命を返さんとする生贄としての運命に抗うべく、側仕えである鬼族の青年、ロクとともにアキレイアスへ亡命した。
そこは、神話でしか存在しないといわれた獣人達の国。
「どうせ生贄になるなら、生きている神様の生贄になりたい。」
はじめて己の意思で切り開いた亡命は、獣人の王カエレスの番いという形で居場所を得る。
この国では何をしても構わない。獣頭の神、アテルニクスと同じ姿をもつカエレスは、穏やかな声色でティティアに一つの約束をさせた。
それは、必ずカエレスの子を産むこと。
神話でしか存在しないと言われていた獣人の国で、王の番いとして生きることを許された。
環境の違いに戸惑い疲弊しながらも、ティティアの心を気にかける。穏やかな優しさに、次第にカエレスへと心が惹かれていく。
この人の為に、俺は生きたい。
気がつけば、そう望んで横顔を見つめていた。
しかし、神の番いであるティティアへと、悪意は人知れずその背後まで忍び寄っていた。
神の呪いを身に受ける狼獣人カエレス×生贄として育てられてきた神の愛し子ティティア
お互いを大切にしすぎるせいで視野が狭くなった二人が、周りを巻き込んで幸せな家族になるお話。
※男性妊娠描写有り
※獣頭攻め
※流血、残酷描写有り
⭐︎20240124 番外編含め本編完結しました⭐︎
からっぽ
明石家秀夫
青春
普通の人って、どんな人だろう。
障がい者じゃない人?
常識がある人?
何をもって、普通というのだろう。
これは、ちょっと変わった男の子が、普通の中学校で、普通の日常を送るだけの物語。
7割実話、3割フィクション。
「事実は小説よりも奇なり」
小説家になろう、カクムヨでも公開中!
LOVE THEME 愛の曲が流れる時
行原荒野
BL
【愛の物語のそばにはいつも、愛の曲が寄り添っている――】
10年以上片恋を引きずっている脚本家の高岡勇士郎は、初めての大きな仕事を前にしたある日、色々と様子がおかしい高身長の(よく見るとイケメン)青年、栗原温人と事故のような出逢いを果たす。
行きがかり上、宿無しの温人を自宅に住まわせることにした勇士郎だったが、寡黙ながらも誠実で包容力のある温人のそばは思いのほか心地よく、戸惑いながらも少しずつ惹かれてゆく。
そんな時、長年の片思いの相手、辻野から結婚式の招待状が届き――。
欠けたピースがピタリとはまる。そんな相手に出逢えた、ちょっとおかしなふたりの優しい恋をお楽しみください。
※ムーンライトノベルズに掲載していたものに微修正を加えたものです。
※表紙は画像生成AIとイラスト加工アプリを利用して作成したものです。
いいねやエール、お気に入り、ご感想などありがとうございます!!
【完結】婚約破棄された悪役令嬢は聖女となって竜族と趣味を満喫する
禅
恋愛
婚約発表のパーティで悪役令嬢にされ、婚約破棄を叩きつけられたセリーヌ。しかし、それはセリーヌが自由になるための策略だった。
予定通り家を追い出され、自由となったセリーヌは目的のためカバン1つで山の中へ。そこで会ったのは、浅黒い肌をした筋肉質なイケメン。
その人こそセリーヌが弟子入りしたいと望んだガラス職人のニアだった。
なんとか弟子入りして理想のガラスを作っていると、婚約破棄した王子が兵士を連れてやってくるという情報が……
策士な公爵令嬢が頑張る話です。
※小説家になろうにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる