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第2章…ご褒美を賭けた戦い
練習試合
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―――というわけで、日曜日がやって来た。
公式戦前の最後の練習試合。しかも、ただの練習試合じゃない。
この試合で一番活躍できた奴は、美希からご褒美をもらえる。
そういうわけで、野球部のチームメイト全員が美希のご褒美を求めてガチで真剣に試合に臨む。
公式戦並みの緊張感がある。みんな、目がマジだ。全員話しかけにくいオーラを纏っている。当然、オレも本気だ。美希のご褒美はオレがもらう。他の奴に譲るつもりは毛頭ない。
試合が始まる前に、我がチームはウォーミングアップをする。
ウチの高校の名前は青葉高校。
試合の相手、花島高校は強豪だ。投手、守備、打撃、すべてバランスの取れたいいチームである。はっきり言って勝つのは厳しい。
我らが青葉高校もそこそこ強い。 しかし、甲子園に出たことは一度もないし、最高記録はベスト16だ。
なので、甲子園出場経験が何度かある花島高校は完全に格上だ。
でも、負けても美希のご褒美はある。あくまで試合で一番活躍する事が条件なので、勝敗は関係ない。でも、当然勝ちにいく。
試合に勝ってご褒美をもらってやる。
試合開始直前、監督からスタメンの発表があった。
……予想通り、オレはスタメンに入れなかった。
先発投手はエース武井。
オレはベンチに入って、ブルペンで闘志を燃やしながら投球練習をする。美希が見てくれている。オレは緊張してボールが荒れまくる。
今からこんなんじゃ、試合で活躍できるわけない。力むな。肩をあっためるだけだ。落ち着いて集中だ。
――午後2時。
美希のご褒美を賭けた試合がついにプレイボール。
1回ウラ、花島高校の攻撃。
先発投手の武井が相手の3番打者に2ランホームランを打たれ、いきなり2点を失う。
2回表、3回表は、青葉高校がランナーを出すものの、ホームを踏むことができない。
初回に2点を取られた武井だったが、2回、3回は三者凡退で抑える。
すると4回表、我がチームの4番打者である中里昇平がタイムリーヒットを放ち、1点を返して1-2とする。
監督が指示を出す。
「よし、1点差になったな。まだまだこれからだ!十分逆転のチャンスはある!武井!相手は積極的に打ちに来てるから、ボール球を有効に使えよ!」
「はい!監督!」
青葉ナインが4回ウラの守備につく。
くっ……この調子だとオレの出番はないのだろうか。
イヤ、諦めちゃダメだ!出番はある!きっとある!
……とは言っても、武井が投げてる限り、オレに出番は来ない。
試合に出たい!美希にかっこいいトコを見せたい! 気持ちだけは誰にも負けてないつもりだが、実力は明らかに負けてるのでそう強く願うことしかできなかった。
4回ウラ。武井は2アウト一塁二塁のピンチを招く。
このピンチで勝負球として投げたフォークが落ちきらずにど真ん中に入った。
当然、強豪の花島高校打線はそれを見逃さない。
―――カキィィィン!!!!!!
真芯で捉えた強烈な打球は、武井の腕を直撃した。
内野安打となり、2アウト満塁になってしまった。
監督やチームメイトがベンチから出てきて武井の元へ歩み寄る。
「武井っ!大丈夫か!?」
「いってぇ……ヒジをやられてしまいました……」
武井は投げる方の腕である左腕を抑えながら、顔をしかめる。
「……仕方ない。武井は今投げられる状態じゃない。交代だ」
青葉高校、アクシデント発生。4回ウラ、エース武井が負傷降板。
武井を除く控え投手はオレを含めて3人。
オレに出番が来る可能性は3分の1。
……4回ウラか。
武井がケガをして喜んじゃいけないが、オレにとってこれはチャンスだ。活躍して美希と監督にアピールするチャンスだ。
神様、どうかオレに出番を。チャンスをください。
監督が投手交代を告げる。
「2番手のピッチャーは―――」
ゴクリ……
オレの心臓がバクバクしている。頼む、オレを使ってくれ……!!
滝川だ、滝川っ!! 滝川って言ってください監督!!
「―――田所!」
…………
ガーン……
オレじゃない……やっぱり前の試合で乱調だったのが響いたか……はっきり言って大ショックだ。やはりオレに出番はないのか……?
ところが、この2年生で次期エース候補の田所が大誤算。
力んでしまい、ストライクが入らず押し出しのフォアボールを与えてしまい、痛恨の1点を献上してしまう。
どうしたんだ田所。お前はこんな無様な投球をする男じゃないだろう。
もしかして、美希のご褒美が欲しいあまりガチガチになってしまい変に力んでしまったのか?
となると、本気を出させるための美希のご褒美作戦が裏目に出てしまったということか。
監督が頭を抱える。
「ちょっとこれは厳しいな……これ以上失点するわけにはいかん。ピッチャー交代」
田所は1人の打者に投げただけで交代させられてしまった。
監督は四球、死球を非常に嫌がる人だ。ノーコンピッチャーは試合で使ってもらいにくい。そしてオレもノーコンだ。
気落ちしてマウンドを去る田所をよそに、再びオレにチャンスが回ってきた。
控え投手はオレを含めてあと2人。もう1人は1年生ルーキーの姫路だ。
姫路は実力はそこそこあるがまだ試合出場経験はほとんどない。
よし、今度こそ……!!
監督が再び交代を告げる。
「3番手のピッチャーは、滝川!お前だ!!」
―――来た!!よっしゃ!!
心臓がドクンと高鳴る。待ちに待った出番がついにやって来た。
こう言っちゃなんだが、田所には感謝している。もし田所が好投したら、今度こそオレの出番はなかっただろう。
田所、お前の無念はオレが晴らす。
オレはマウンドに立った。状況を整理しよう。
スコアは1-3。我ら青葉高校が2点ビハインド。
4回ウラ、2アウト満塁。
ピッチャーはこのオレ、滝川竜。
相手の9番打者がバッターボックスに入る。
キャッチャーミット目掛けて、オレ、第1球、投げた。
ビュッ!!
―――ズバン!!
内角低めにカットボール。いい音を鳴らしてミットに収まったが、わずかに外れた。ボール。
ドキ、ドキドキ……
慌てるな……慌てるなよ。落ち着け、オレ。
もしオレがこれ以上点を与えるということになったら、勝敗が決してしまう。
絶対に抑える!!
続いて、第2球、投げる。外角低めにストレート。
決まった。ストライク。
「ふう……っ」
ファーストストライクが入り、一息つく。長打を防ぐため、低めを意識する。
第3球を投げる。
内角ぎりぎりにストレートを投げるつもりだったが、すっぽ抜けてしまい、高めに完全に外れてしまい、ボール。
ドキドキ……
やばい、緊張しすぎだ。力みまくっている。
落ち着け、落ち着け……
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