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LOTUS FLOWER~ふたたびの運命~外伝

はじめとたいすけ⑦

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「きっか、け?」







「ああ。それはお前の
じいちゃんの存在だ。」






「じいちゃん?」








「そう。もう3歳の頃には
保育所に通っていた彼は
行き帰りに会う警察官の太佑たいすけ
とても懐いていた。

毎回駆け寄ってだっこを
ねだった。

太佑たいすけは会えば必ず
抱き返してくれたそうだ。

ひいおじいさんと太佑たいすけ
友達になって家を
行き来するようになってからは
なおのこと太佑たいすけから
離れたがらず帰る時は
泣きわめいて大変だったって。」









「あのじいちゃんが…。」









「じいちゃんにだって
子供の頃はあるさ。」








「あんなに人のこと
優先してばっかなのに!」








「ふふ。本当だよな。
ある時、そのじいちゃんが
保育所からいなくなって
しまったんだ。」








「えっ!」








「じいちゃんとしては、太佑たいすけ
会いたい一心で保育所を
脱走したみたい。」







「え?毎日会ってるのに?」








「その日はたまたま太佑たいすけ
非番で朝、会えなかったらしい。

記憶を頼りに太佑たいすけの家を
目指したけれど
わからなくなって
迷子になってしまった。

保育所から連絡をもらった
ひいおじいさんはそれは
血相をかえて探しまわった。


捜索に加わった太佑たいすけの顔を見て
泣き崩れたひいおじいさんを
必死で抱きしめた太佑たいすけ
ひいおじいさんは
ただただすがった。

血の気が引いて真っ青な顔を
したその様子は本当に
見ていられなかった、と
太佑たいすけが言ってたよ。

また大切な人をなくす恐怖を
ひいおじいさんは
思い出していたんだろう。

結局隣町で歩いていたところを
無事に保護されたじいちゃんは
戻ってきた時に
ひいおじいさんじゃなく
太佑たいすけに泣いて
抱きついたらしいけど。」







「…笑っちゃいけないけど…
ふふふ。」








太佑たいすけもこの話をする時は
思い出し笑いしてた。

ひいおじいさんの顔が
コロコロ変わってなんだか
おもしろかった、って。


でもやっぱり泣き笑いで
優しい顔だったって。

そんなことがあってから
ひいおじいさんは太佑たいすけに一緒に
暮らさないか、と持ちかけた。

太佑たいすけが同性愛者だと
いうことも知ってのことだ。」











「その時2人には
恋愛感情はなかったの?」








「少なくとも太佑たいすけには
明確にあった。だから正直に
伝えたそうだ。

『あなたに恋愛感情を
もっている。だけど別に
応えてくれとは言わない。
見返りを求めていない。
それを承知した上で一緒に
暮らそうと言ってくれるなら
嬉しい』と。」









「ひいおじいさんは
何て言ったの?」











「ひいおじいさんも思いを
真摯に正直に伝えた。

『あなたを大切に思っている。
友達も恋愛もいらない、と
思っていた自分が
一緒にいたいと思えた人が
あなたで、恋愛感情かどうかは
今はわからないけど
少なくともあなたなしでは
いられない、と思うほどには
気持ちはある』と。」








「結局、じいちゃんのことが
きっかけだったけど2人とも
思いあっていたんだよね。」








「そうだ。じいちゃんが
気づかせてくれたんだ。

もちろんひいおじいさんにしたら
じいちゃんが懐いていたことも
大きかっただろうがね。

そして一緒に住むように
なってからひいおじいさんも
明確に恋愛感情に
気づいていった。」









「ど、んなふうに?」








「警察官の仕事は危険もある。
一緒にいる時間が増えて
本当に大切な存在になって
心配でしかたなかったらしい。
また大切な人を失ったら
立ち直れないと思ったんだな。

『仕事を辞めて家庭に
入って欲しい』と
プロポーズしたそうだ。」









「それで太佑たいすけさん、は?」









「すごく悩んだけど
ひいおじいさんの圧が
凄すぎて結局最後は
折れたそうだよ。

俺の兄貴が太佑たいすけ
聞いたって話を
2人が亡くなった時
教えてくれたんだけど…

そのプロポーズをうん、と
言わせたのは
ベッドの中だった、とか。」









「ン、ゴフッ…ゴホゴホ…」









「はは…お前には刺激的すぎたか。」









「グボッ…と、とうさん。
もう、朝だ…。」









「あ、本当だ。
明るくなってきたな。

お前の話を聞けなかったけど…
今からでもする?」








「学校だから少し寝させて…。
とうさんから話聞いて
少し冷静になれたから。」







「そうか。あぁ。そうだな。
少し寝ろよ。

俺もちょっと寝るよ。」










「ねぇ、とうさん。」












「なんだ?」











「僕が同性愛者でも
嫌いにならない?」











「ならないさ。お前を変わらず
愛しているよ。母さんも同じさ。」











「ありがとう。」








そう言うと泰輔たいすけ
子供の頃のように
父親に抱きついてから
部屋へ戻った。
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