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LOTUS FLOWER~ふたたびの運命~外伝

はじめとたいすけ④

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はじめが働いているお店は
中華料理店だった。




ほぼ満席と思われる
店内の厨房の奥で必死で
ひたすら野菜や食材を切っている
はじめはまだ
見習いなのだろう。




シェフたちにいろいろ
アドバイスをされながら
がんばっている。








泰輔たいすけはその姿を
店の外から食い入るように
見つめていた。

















結局泰輔たいすけは店が終わり
はじめが出てくるまで
いることにして店の向かいの
道で立って待つ。















「うぅえ?な、なんで…
なんでこんなとこにいるの?

こ、こんな時間、まで…。」








はじめさん。ごめん。
僕、はじめさんの心まで考えずに
強引に…ごめんね。
ただ今日中に謝りたかった。

それだけ。じゃあ。」 






踵を返す泰輔たいすけ
はじめはため息をつく。






「待って!」







立ち止まる泰輔たいすけ







「…泰輔たいすけくん。…俺もごめん。

ただ戸惑いが大きくて。
…慣れてないんだよ。
その…人との距離が近いことに。」







「………………。こっ、これからは
気をつける、からっ。

はじめさんが話してくれるの
待ってる、から。

ぅぅぅ…ごめん。」







泰輔たいすけは泣きじゃくっていた。








「…泣かないで、よ。」





「…ヒック。うん、ごめん。」





「謝らなくていいから。」






「…うん。」






「ほら、これ。」






はじめはポケットティッシュを
差し出して微笑む。











泰輔たいすけはその微笑みだけで
じゅうぶんだと思った。






はじめさんっ!」







泰輔たいすけはじめにひしっと抱きつく。








「う、わぁ!なにっ!え?
た、泰輔たいすけくん?」







「笑ってて!ずっと笑ってて!
それだけでいいから…じゃあ。」







泰輔たいすけはじめを離して
走っていってしまう。









「…………。」








はじめはなんともいえない
甘酸っぱいようなむず痒いような
思いを感じながら
しばらくそこで佇んでいた。

















泰輔たいすけは家へと歩きながら考える。







(なんで…なんでなんだろう。
僕はなんでこんなにはじめさんを…)













「欲しい。」







つ、と口から出た言葉に
愕然とした泰輔たいすけ






(欲しい、って…
欲しいってなんだよ…
僕、どうかしちゃったんじゃ…)





















「コラ!泰輔たいすけ
やっと帰ってきた!
心配したんだぞ!

なにやってたんだ!
電話してもでないし!

こんな時間だぞ!」








家の玄関の前から
父親が走りよってきて怒鳴られた。







「とうさん。ごめん…。」







「ああ!もう!本当に
心配したんだからな!
馬鹿野郎!…………。

なんかあったのか?」









「…………。ねぇ、とうさん。
僕の名前の由来になった
たいすけさんって…。
どんな人、だったの?」







「え?なんだ、急に。
どうしたんだ?」








「………。自分がわからなくて。」






「なんかあったのか?」







「なんか…あった、のかなぁ…。

自分で自分の思いが
コントロールできなくて
おかしいんだ…

ワケわからないことばかり

考えて…変なんだよ、僕。」







「…そう、なのか?大丈夫?

ま、おまえには、ちゃんと
太佑たいすけのこと話してなかったよな…。

もう、おまえもその年齢だし
言っても大丈夫かな…。」






「うん、教えて欲しい。」







「…お前、着替えてから
俺の部屋に来い。

お前の話しも聞いてやるから。
男同士、話そう。」






「うん。わかった。」









早々に着替えをすませ
父親の部屋へとやってきた
泰輔たいすけはゴクリと喉を鳴らし
ドアをノックした。








「おう、座れよ。」







泰輔たいすけの父は
ソファに腰かけて待っていた。





目の前のテーブルには
薄いアルバムが置いてある。






「これって…。」








「ああ、太佑たいすけの写真だ。」






「ない、って言ってたのに。」







「ん。ごめんな。
でも写真嫌いは本当だ。

数枚しかない。………見るか?」






「うん。」






「これは唯一の家族写真だ。
俺が二十歳になったお祝いに
撮ったんだよ。」








「これがとーさん。
この赤ちゃんが兄さん。
これがかーさん。
これがじーちゃん。
これがばーちゃん。」








その他にも父親の兄弟や
その家族など何人かが
笑顔で写っていた。








「これ、は?」








中央で車イスに座る男性と
そばに寄り添いしゃがんでいる男性。






その男性の肩には
車イスの男性の手が置かれていた。








「それがお前のひいおじいさんと
太佑たいすけだ。」






「…………………………名前」







「ん?」







「名前、な、に?」


















「ひいおじいさんか?

はじめだよ?」








「!!!」












驚くほどその男性ははじめに似ていた。
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