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訣別

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彩明あやあきを腕に抱きしめて
少しの間眠りに落ちていた
俊詩としふみは泣き声に目をあけた。








「…うぅっ…………う…
あぁ…シュン、シュン………。」




「………!!!ア、、、キ……。」




「シュン…彩明あやあきを抱いたんだね…
ひ、とつになった、んだね…
つっ…っ…ぁ…」








「アキ………………。

アキありがとう。
俺を探してくれて。
会えて嬉しかったよ…。」






「シュン…。ボクも。
あり、がと…う。
彩明あやあきの、中に
ボクもいるから、っく…
まとめて愛してよ?

ボクのこと忘れないで?
お願い、シュン。
シュンだったこと…
忘れ、ないで……。
ぅぅぅぅ…
さ、いごにキス、してくれ、る?」








「アキ…。ありがとう。
忘れない。アキのこと。
あやあきとアキ。
丸ごと全部愛してる。

俺がシュンだったこと。忘れない。
絶対に忘れない、から…。」







俊詩としふみはそっと唇に触れる。

下唇と上唇を愛おしく
交互に何度も食む。






「シュン…ありが、と………
バイバイ…。」







また眠りについたように
カクンと項垂れた彩明あやあき
呼吸を確認して俊詩としふみ
涙を流しながら彩明あやあきの目から
まだ流れ落ちる頬の涙を
拭いそっと両目じりにキスをした。








俊詩としふみが次に目覚めた時には
腕の中に彩明あやあきはいなくて…
でも部屋中にいい香りがしていた。






彩明あやあき?」




身を起こすと見える
小さなキッチンに
彩明あやあきは立っていた。






「後ろ姿も可愛いな…。」
思わずそう呟く。





(あれ?デジャヴ?こんなことが
前にもあったような…。)








「あ!俊詩としふみ起きた?
勝手にキッチン借りちゃったけど
大丈夫?」






「ふはっ…大丈夫に
決まってんじゃん。

何作ってくれたの?
冷蔵庫、なんにもなかっただろ?」





キッチンに歩いていく俊詩としふみ





「ツナ缶と人参の端っこと
キャベツとインスタントラーメンが
あったから即席焼きそば!」






そう言うと大袈裟に
フライパンを振ってみせる彩明あやあき






「いい匂い!うまそ~!」






はじめさんに時々お料理
教えてもらってるんだ!
ほら、できたよ!」
と嬉しそうに微笑んだ。








2人で食卓を囲む。




「うんま!お醤油の焦げた感じが
また!うまい!」





そういって口いっぱいに
そばを頬張る俊詩としふみ
目を細め「よかった!」と
微笑む彩明あやあき

幸せが溢れた。







俊詩としふみ、僕。まだ
治療が残ってると思う。

だけど。がんばる。

治療の目処がたって柏葉かしわば先生から
許可が出たら…
一緒に暮らしてくれ、る?」






彩明あやあきもちろんだよ!
早く一緒に生活したい。

俺もがんばるよ。」






俊詩としふみ…。ありがとう。
…ふふ。おそばついてる。」






彩明あやあき俊詩としふみ
口元についていたそばのかけらを
とり自分の口に入れた。







俊詩としふみはたまらなくなって
彩明あやあきの唇に貪りつく。






「んっ、ぅ!…………。
と…しふみ………。もう!バカ…」






真っ赤になりながら
自分の焼きそばを食べる彩明あやあき
熱っぽい瞳で見る俊詩としふみ







食べ終わると俊詩としふみ
「俺が片付けやるから。」と言う。



「僕がやるからいいよ~!」と
困り顔の彩明あやあき俊詩としふみ

「可愛い…。」と耳元で囁き
唇をそして舌を優しく吸う。





蕩けてぽーっとする彩明あやあき
しばらく見つめてニヤけてから
片付けを始める。



彩明あやあきは真っ赤になり俯いた。
















病院まで彩明あやあきを送り届けて
俊詩としふみは固く決心していた。


(俺は一生彩明あやあきを守る。
なにがあっても。
俺と彩明あやあきの夢を叶える。
がんばらなきゃな。)














翌日、彩明あやあきも新たなる決意で
治療に臨んでいた。




(早く俊詩としふみと一緒に住みたい。
ごはん、作ってあげたい。

あんなに美味しそうに
食べてくれるなんて…
嬉しすぎて。
どうにかなっちゃいそうだった…。)










彩明あやあきくん。始めようか。
つらいかもしれない。
がんばれるか?」








柏葉かしわばが心配そうに言う。







「大丈夫です。始めてください。」






彩明あやあきは決意に満ちた目で答えた。




















「…………せんせ。」




「君は誰かな?」





「せんせ。あーくんだよ?
わちゅれたの?」





「あーくん…。覚えているよ。」





「たっくんもみきちゃんも
さくらもみっちーも
いなくなっちゃって
ぼく、おともらちいないんらよ…」





「あーくん。もうほかには
誰もいないの?」





「…………………………いるよ。」





「誰がいる?」





「…………………おか、たん。」





「お母さん?お母さん、なんか言ってた?」






「………………ないてた。
しゃみし、ってないてたんら…
ぼく、よちよち、してあげようかと
おもったんらけど…こわくて
ちかくにいけなかっんたんら…」






「あーくん。お願いがあるんだ。

お母さんとお話してくれない?
お母さん、よしよし、して
あげてくれないかな?」






「こあい。またたたかりぇるかも…」






「でもお母さん、泣いて
いたんでしょ?あーくんに
よしよし、して欲しいと思うよ。」






「おかーたん。泣いたら
ダメらよね…あーくん…。
よちよちしてあげたい…。」






「うん。先生からもお願いだ。
よしよし、してあげて?」





「わかった…。よちよちしたげる。
あーくんいっちょに
いてあげ、る、んら。」





「よしよし、したらさ。
一緒に先生のところに来てくれる?」





「うん!あーくんつれてくりゅ。
おかーたんつれてくゆよ。

そしたらおかーたんの
しゃみしいのも
あーくんのしゃみし、のも
治してくれりゅ?」





「先生、できるだけのことをするよ。」





「…………。わかった。いってくゆ。」















「……………おか、たん。
おかーたん。らいじょ、ぶ?
あーくん、よちよちしたげるよ。

あーくん、いるかりゃ
しゃみしく、にゃいよ?

おかーたん。なかないれ…」






「…………………。」








「おか!たん!こ、ちむいて!
あーくんここにいる!
いっちょにいるから!ね?
なかないれ?」






「………………………。っく…」








「おかーたん!なかないれ!」






「……………。るさい!
うるさいうるさいうるさいっ!」







「おかーたん!おかーたん!
ぼく、ここにいりゅよ!
あーくん、いっちょにいる!
しゃみちくにゃいよ!」







「…うぁぁぁぁあああん……………
ぅぅ…あ、や、あき…」








「よちよち、おかーたん。
しゃみしかったんれしょ…。

あーくんいっちょにいて
あげりゅからなかないれよ…ね?

たたいてもいいよ。
おこってもいいよ!でも!

でもいっちょにいる!
うるしゃくてもいやだってゆっても
いっちょにいるかりゃ!」








「わぁぁぁぁぁぁぁあ!
あーくん!あやあき!
ごめんね…ごめん………………。」






「よちよち。おかーたん。
よちよち、よちよち………。」






「ぁぁぁぁぁ…」








「おか、たん。よちよち…
ふぇ…うわぁぁぁん…………

よち、よち…おか、たん。

いっちょにせんせ、のとこいこ。
せんせ、なおしてくりぇる。


せんせ!せんせぇ!
おか、たんといっちょにいるよ!
せんせ!せんせぇぇぇ!」







明穂あきほさん。彩明あやあきくんを
どうか解放してやってください。
彼も幸せを手にする権利がある。」






「ぁぁぁぁぁあ!
ごめん、なさい…………
ぅぅぅぅう…
あーくん!あーく、ん。」








「おかーたん。
ぼくがいっちょらから
しゃみしくないれしょ。
ね。いこ。」






「あーくん。……………うん…。」






「あーくん。先生だよ。
ありがとうね。お母さんのこと
よろしく頼むよ。」





「ぼくがいっちょにいるかりゃ
らいじょーぶ!せんせ、ありが、と。

おかーたん。手、にぎって
あげりゅかりゃね。
こあくないかりゃね。」





「あ、くん、あーくん…あ………く……………」
















「う、わぁあああああああ!」



彩明あやあきくん!彩明あやあきくん!」




「…ああああああああああ!」






「大丈夫!大丈夫だよ!彩明あやあきくん!
僕がわかるか?彩明あやあきくんっ!」







「いやああああああああ!!!」








「ダメだ、鎮静剤を!」





看護師が入ってきてバタバタと
慌ただしく酸素マスクをつけ
点滴を施した。
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