LOTUS FLOWER ～ふたたびの運命～

まだいる別の人格

「チッ。なんだよ。せっかく人が
気持ちよく寝てんのに！」






彩明あやあきは顔つきが変わる。
声も話し方も豹変した。
目つきの悪い若者、拓司たくしだ。











「…君がたっくんかな？」



「なんなんだよ！おっさん！」



「時々頭が痛いそうだね？
今は大丈夫かい？」



「はぁ？」



「あーくんから聞いたよ。
あーくんが心配していた。」



「あいつ、余計なことを
ペラペラと…」



「君はあーくんと
どういう関係なの？」



「どうしておっさんに言わなきゃならないわけ？」



「たっくんは何歳？」



「気安く呼ぶな！
……………あ！つっ…。」



「頭が痛いのか？」



「うぅっ…」拓司たくしは頭を抱えた。



「これ、痛み止めだから、飲んで。」



本当はただのビタミン剤なのだが
柏葉かしわばはそう言って手渡した。



「い、いらねぇっ！」



「いいから飲みなさい！」



半ば無理やり飲ませ落ち着かせる。





「ﾊｧﾊｧ…。俺は従兄、だ。いつも
あーくんの遊び相手になってる。

俺のガキの頃とあいつが重なってな。


俺は空想ばかりしてる
ガキだったから…。」







「そうか。ありがとう。
あーくんを癒してくれて。」




「ケッ。何言ってんだこいつ。
俺は行く。」













「ねぇ、ちょっと。
私もあーくんの友達なんだけど。
私、欲しいものがあって。
おじさん、買ってくれないかな？」




彩明あやあきの声色と表情が突然変わる。







「…君は誰だい？」



「私、美樹みき。
あーくんのお隣に住んでるのよ。
いつもおままごととかして
遊んであげてるの。」




「そうなんだね。ありがとう。
欲しいものって何？」


 
「ぬいぐるみ。くまの大っきいの！」




「おうちにたくさん
あるんじゃないの？」



「全部捨てられちゃったのよ！
困ったわ！」




プリプリと怒るその姿は
小さな女の子そのもので
利発なませた口調で話した。




「おじさん、買ってくれないなら
私もう行くわ！ばいばい！」




「ばいばい。」








（少なくとも彩明あやあきくんの中に
あとふたつの人格…。

どちらも小さい頃に
寂しすぎて作った友達。
あるいは何度か会っただけの
優しかった人を自分の中で
作り上げたか…。

まだいるかもしれない…。）




一旦彩明あやあきの催眠を
切り上げて休ませた。










「彩明あやあきくん。心当たりある？」




「…………。思い出せないです。」





「そうかぁ…。もう少し催眠で
彩明あやあきくんの心の中を
診させてもらってもいいかな。」






「はい…。お願いします。
僕…こわい。
アキ以外にもいたなんて…。」




「うん…。たぶん怖がることは
ないと思う。今回出現した2人は
幼い彩明あやあきくんと遊んでくれていた
人格みたいだしね。」




「………。はい。」




「今日の夜俊詩としふみくんと
ご飯食べに行くんだろう？」



「はい！」



「嬉しそうだね。」



「…。」

真っ赤になり彩明あやあきは頷いた。





「楽しんできてね。」














「彩明あやあき～！迎えに来たよ。」



「と、しふみ。」



「ね、いい加減、名前呼ぶの
慣れない？ぐはは！」



「ごめん。ふふ。」



「行こうか。」



「うん…。」



手を差し出す俊詩としふみ。





「え、でも。」




「いいじゃん。ほら、こん中
入れちゃえばわからない。」




俊詩としふみは強引に握った彩明あやあきの手を
そっと自分のパーカーの
ポケットに入れる。









「！としふみっ。」



真っ赤になる彩明あやあき。












2人は街を歩き一緒に
ラーメンを食べた。








帰り道に俊詩としふみは彩明あやあきに
話がある、と切り出し
公園のベンチに座る。









「俺、建築が学べる専門学校に
行くことにしたんだ。
大学も悩んだんだけど
俺は資格云々より
早く現場で働きたくて。

家族に幸せに住んでもらえる
家を作りたいんだ。」




「俊詩としふみすごいね！」




「これからも俺、がんばるから…
彩明あやあきもがんばって。
いろいろつらいと思うけど
俺が支えるから。」




「うん。がんばる。」













「キス、していい？」



「え？」








「彩明あやあきっ！」



俊詩としふみはたまらずに
夢中で彩明あやあきの口中を味わった。



「んっ…んん！んはっ、んん…
とし、ふ…み………」



「はあっ。もう。
そんな顔されたら俺やばい。」



「としふみ…。」




「あや、あき…。行こう。」




「ちょっと、待って！
ど、こ行くの？」




俊詩としふみは彩明あやあきの手を
つかんで歩き出した。