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がんばらなきゃ、がんばらなきゃ。

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{実はドラマの話があるんだ。}


電話がかかってきて開口一番、よしマネさんはこう言った。


「……ありがとうございます。」


{ただ、さ。BL、なんだよね。以前からオファーがあったものなんだけど、正式に受けたらどうか、ってうちの総括が。}


「B……L。」


{僕としてはサンとの映画がBLになるのを狙ってたんだよね。現にBLをやって欲しい、というのが配信を見てるファンたちの中にもかなり多いしね。まぁ、どうなるかはまだわからないけど。}


「...はぁ……。」



{ただ今回の話を受けるとサンとの映画がBLになった場合、BLが続いちゃうことになるかも……。どうする?雷音らいおん?}


(どうする、って言われても…。そもそもサンとBLにはならないかもなんだし...。)


「…………。ちな、みに相手役は決まっているんです、か?」


{あ、うん。阪上龍ノ介さかうえりゅうのすけだよ。}


(え?あの大物俳優の2世の?)



「び、BLにしては年の差がありすぎませんか?確か、彼は30歳くらいですよね?」


{そうだね。彼は今、29歳。原作が漫画で、年上攻め×年下受けで大ヒットした作品なんだ。これは絶対あたるし話題になると思う。向こうから是非雷音らいおんに、って直々のオファーなんだよね。}


「え?僕を?……。阪上さかうえさんとは面識ないですよね?……。よしマネさん。いつも僕にきちんと相談してくださってありがとうございます。総括のけいさんが受けたら、とおっしゃってるとのことですし、僕は演じれるならなんでもやります。」


{そう?……意外とあっさりしてるね。迷うかと思った。……じゃあ話を進めていい?確かに雷音らいおん阪上さかうえさんとは共演していないけどうちの事務所とは結構仕事してるから。信用できる人だよ。}


「……はい。」


{じゃあまた本決定したら報告する。今日は13時に迎えに行くね。あ、その時ギターを渡すよ。雷音らいおんの言う通り弦張替えて調整してもらったからね。}


「よろしくお願いします。ギターありがとうございます。」


{太陽たいように教えるんでしょ?}


「なんかやりたそうだったから…。」

{またたくにも言っとくよ。もし本気でやりたそうなら習わせるし。……あ、2人で歌ったやつすごい再生回数伸びてるからまたなにかあげてもいいかも。}


「わかりました。……じゃあまたあとで。」




電話を切って僕は天を仰いでから膝を抱えてうずくまる。


(……がんばらなきゃ。がんばらなきゃ……。がんばらなきゃ…。だって僕は、俳優でいたい。ずっと、…ずっと演技していたいんだ…。どんな役だって。相手が誰だって。)



気分を変えよう、とシャワーを浴びに行き、出かける支度をし、今日の打ち合わせの確認と、ゲストで出るドラマの台本に目を通し、それに関する調べ物をして迎えに来たよしマネさんの車に乗り込んだ。











夜のブランドのショーは盛況で。


斬新なデザインの服を着たモデル達がランウェイを歩くのをぼーっと眺める。


僕もそのブランドの服を頭からつま先まで身につけていて。


(こんな柄×柄にアクセサリーいっぱい、とか……。落ち着かない……。いつものことだけど、華やかな場に自分はむかないとつくづく思う…。)


そのあと何社からも囲み取材を受けてブランドのことについて聞かれたり普段の服選びについて聞かれたりシェアハウスのことを聞かれたりして、やっと解放され、楽屋へと帰る手前で誰かに呼びとめられた。




新堂雷音しんどうらいおんくん!あなたも来ていたんだね!】


「あ!……おはようございます。阪上さかうえさん…。初めまして……。新堂しんどうです。」


その男は恐ろしく整った顔で。鍛えているのだろう、分厚い胸板と190cmに迫るぐらいの上背でバッチリとブランドスーツを着こなしている。


【オファー受けてくれたんだって?あなたと演れること楽しみにしてるよ。】


「こちらこそです。ありがとうございます。」


【あ、写真撮って?SNSあげてもいい?】

「あ、ハイ。」

【じゃあ、はいチーズ!】

カシャリ。



無遠慮に肩を組まれて、僕の顔はひきつってはいなかっただろうか。


【今日はもう時間がないんだ。惜しいけどまた。】


「……あ、はい。また。よろしくお願いします。」


(なんか、合わない、かも……。)







沈んだ心をなんとか奮い立たせ、メイクをおとし、着替えを済ませて車に乗るとすぐよしマネさんからギターを渡されて、それを抱えながらシェアハウスへと帰ってきた。






「……ただいま。」

(あれ?)



「サン~?」


『あ!ライ!おかえり!』

サンは自室から飛び出してくる。



「た、ただいまー。これ。」


『えええっ!もしかして……。』


「うん、僕が前に使ってて、事務所の倉庫に置きっぱなしになってたギターだけどよかったら。あげるから練習用に使って?」


『ほ、ほんとにいいの?やったぁー!』


その場にしゃがみこみ、早速ギターをケースから出しているサンを写真におさめて。


「サンがギター楽しめますようにbyライ、と。」


SNSにあげて一息つくといつの間にかスマホにむかう僕を撮っていたらしいサンから2枚の投稿があった。


(1枚目。俺にギターをくれる優しいライbyサン。2枚目、髪型が少し崩れてる感じなライもsexyだよねbyサン……。って!えぇぇぇ!)


『あと8枚以上撮れる♪……え?ライどうしたの?熱ある?大丈夫!?』


僕は真っ赤になってしまっているようで……。



「だ、大丈夫!帰ってきたばかりで暑いだけ!」


慌てて、シャワーしてくる!と自室へと隠れた。



(な、なんだよ…sexyって……。)





なんとかシャワーをして冷静になって、リビングへと戻るとサンはギターを抱えて待ち構えている。


「な、なんかやる気に満ち溢れてる、ね?」


『うん!今日たくマネさんとも話したんだけど、習わせてもらおうと思ってて!ライ先生にもご教示いただきたく!おねがいします!』


「っふふ……。大袈裟だなぁ。やろうやろう。でもミッションもあるよ?」


『やりながらやる方向で!』


「ふふ……。はい、じゃあまず写真、と。」

サンがギターを持ってポーズしてる写真を、やる気満々のサンbyライ、とポストしてからコードを教え始める。


『このギター弾きやすい!』

「僕が最初に買った初心者用のギターだからかな?」


『そんな大切なもの、もらっちゃってよかったの?』


「現に事務所で眠ってたんだし。サンに使ってもらう方がギターも喜ぶよ。それにサン用に細めの弦をはってもらったから指も痛くなりにくいと思うよ。」


『本当にありがとう~!』


新しいコードを3つ覚えた!とガッツポーズのサンや、弦を指さして教えている僕、肩に力が入りすぎてるサン、炭酸水を飲んでる僕、などたくさんの写真を撮ってミッションは軽々クリアした。


サンのギターも、早くも様になってきたようで。

(飲み込みが早すぎる……。これならもう簡単な曲なら弾けそう!)




「ねぇサン!なんか簡単な曲、やってみる?………………………?
え?…………………サン?なに?
どうし、たの?」





サンはスマホを凝視して
怒りの表情をしていた。
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