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もう少し気遣ってやればよかった

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控え室に戻ると、サンは大きい体を器用に折り曲げて机の上に顎を置いてうたた寝をしていた。


(…………寝顔はかわいいじゃん。)



そう思ってしまってから僕は軽く首を振って何かわからない想いを追い出す。



「サン、サン……。起きて!」

肩を揺さぶると寝ぼけ眼でライ…?と目を擦りそうになるサンの手を掴んだ。

「メイクが崩れるよ!」

『……あ!ごめん!ライありがとう……。なんか緊張しすぎて眠くなったんだけど髪型崩したらダメだと思ってこんな寝かたに……。く、首痛え!』

おもわず吹き出すと彼はフニャリと笑いよかった、と言う。

「……なにが?」

『いや、落ち込んでるかと…。』

「……大丈夫。あれくらいで落ち込んでられないし。……でも、ありがとう。」





それからすぐ撮影に入り、僕達はいろんなポーズをとって衣装を替え、ヘアメイクを替え、撮影を繰り返した。




サンは疲れた様子も見せずムードメーカーで周りに気をつかっていることがわかる。


(ほんとは僕がしなければならないことなのに……。)




もうちょっと顎を引くといいよ。
ここ少し手を添えたら?
足はこの角度はどう?
顔を右に……その目線、いいね。
僕は可能な限りサンにアドバイスをして撮影は進んで行った。





もう少しくっついて肩を抱いてみましょうか、そう女性カメラマンに言われた時、サンが恥ずかしそうにこっちを見てきて僕まで恥ずかしくなったけれど、ここはプロ意識、と思い切ってサンの腰に手を回すとカメラマンから、お!いいね!と返ってくる。

その声に気を良くしたのかサンが僕を抱き込んできた。

(すごい心臓の音……。)

サンの鼓動は力強くとても早く打っていてつい笑ってしまう。


2人して自然に笑うことができ、カメラマンのOKをもらえた僕達は無事に撮影終了した。



2人の写真集が出るなら私に撮らせて欲しい、とそのカメラマンは私、腐女子なのよね、と笑う。



取材が待っていたので、また是非、とお礼を言い、控え室へと帰りながらサンが腐女子ってなに?とずっと聞いてくるので僕は適当にわからないふりをして。


(あとで調べたら絶対なんか言ってくるだろうな……。)


あとは怒涛の7社取材に忙殺されてそんなことは忘れていった。








シェアハウスに戻ったのは日付が変わろうか、という頃。


『すっごい楽しかった!』



そう言って笑うサンに苦笑しながらシャワー先どうぞ、と促すとありがとう、と、鼻歌を歌いながら足どり軽く着替えを取りに向かう背中を見送って一息つく。




冷蔵庫を見るとリクエストしたものが所狭しと入っていて、僕が頼んだ炭酸もあった。



その横には野菜ジュース。



(サンが飲むのかな?) 



自分は絶対に手に取らないだろうそれをしげしげと眺めてから冷蔵庫を閉めた。













なかなかサンが戻ってこないことに痺れを切らした僕がバスルームに向かうと水音も聞こえてこない。




「サン?……サン?大丈夫?」




返事もなく急に心配になって、サン?開けるよ?と声をかける。


それでも返ってこない返事に焦ってバスルームのドアをあけると洗面の床にサンがバスローブを着て座り込んでいた。


「サン!?気分悪い?サン?大丈夫!?」

『…………………………ライ……。なんか腰が抜けちゃって……。』

「え………………。」

『仕事、楽しかったなって思い返してたら、さ。なんかあんな場所にライといたんだ、って実感した途端……腰、抜けた。』

「は!?バカじゃないの?」

『アハ、ハハハ……。だよね…。』

「ほら、立って。風邪ひくよ?髪、乾かしてあげるから。ね。」

『えええっ!』

ほら、とサンの腕を掴み傍にあったスツールを引き寄せて座らせる。


そんなことさせるわけには……とブツブツ言いながら暴れるサンを宥めながらドライヤーを出して風を当て始めるとやっと大人しくなった。







「はい、終わり。」

『……ありが、とう。』

「大丈夫そ?」

『う、うん。』



(緊張、するよね……。そりゃ。もう少し気遣ってあげればよかったな……。あんなに平気そうだったのに気が抜けて座り込んでたなんて…。)




「サン、お疲れ様。」

『……。ライもお疲れ様!アドバイスたくさんありがとうね。雑誌の撮影ってあんな感じなんだね~!ほんとすごい楽しかったんだよ!そのあとの取材も凄かった……。』

「……サンは気をつかいすぎだよ。我慢しすぎないでいいよ。」

『ライ……。』

「僕と一緒の時は僕を頼っていいし、1人のときはたくマネさんを頼っていいからね。」

『……ライありがとう。』




そう言ってサンはポロリと1粒、涙を流す。






(綺麗……。)








そう思ってしまったら僕は止まれずにサンの頭をかき抱いた。
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