君が心に入りこんできたから。

聞いてない

《実はさっきの騒動はすべて演出でして！》

パーティーの広間に僕を連れて入ったマネージャーは声を張り上げた。

(は？)

いつの間にかその場は記者会見をするように設えられ記者が待ち構えている。

(いや、聞いてないし…)

【では！改めまして世界の雷音らいおん
！こと新堂雷音しんどうらいおんさんにご登壇いただきます！雷音らいおんさんお願いいたします！】

やけにはりきった司会の女性が声をはりあげ僕は反射的に笑顔をみせて舞台へあがる階段を登った。
 
アシスタントに立ち位置を指示されて黙礼をして立って舞台上から見渡すと冷ややかでいて期待が混じった熱が
多数こちらを見ている。

(…まるで動物園の猿だな。今まで
何も聞かされずこんなところに
立つことなんてなかったのに。)

笑顔を浮かべながら
思考はどんどんマイナスの方向へと進んでいって、ふっ、と短く息を吐きだした。

ざわざわ。

誰かが会場に入ってきて
記者たちが一斉に顔を見合わせ何かを耳打ちしあっている。

その人物は階段の前で一礼し
確かな足取りでそれを登ってきた。

【ご紹介いたします！もう1人の主役、オーディションで優勝した新人、来須太陽くるすたいようさんです！】

『もう痛みはありませんか？』

僕の隣に立った男性は小さな声でそう言って鮮やかに笑う。

その笑顔に僕は思考停止した。

手の手当をしてくれた彼だった。





【では今回の企画をご説明いたします！世界の雷音らいおんさんと新人の太陽たいようさんに2人きりでシェアハウスしていただきます！そしてさまざまなミッションをクリアしていきます！その様子を1ヶ月間あますことなく生配信するということになります！】

そう司会の女性が声高に叫ぶと
どよめきとともにフラッシュが電光石火のようにたかれる。

『よろしくお願いします。』

来須太陽くるすたいようと紹介された彼は
こちらに向かい頭を下げて
微笑んだ。

【さらにシェアハウス期間が終わった後に2人で映画を撮影します！シェアハウス期間の2人の関わりの様子を見て視聴者が映画のストーリーを作る！という視聴者参加型の企画でございます！視聴者の皆様にはMuyTVアプリのコメント欄で盛り上がっていただき行く末を見守り、映画のストーリーを一緒に築き上げていただきます！】


(な…に勝手に決めてんだよ…。なんなんだよ…。)

僕は頭が真っ白で
曖昧な笑顔をなんとか顔に貼り付けることしかできない。

来須太陽くるすたいようから差し出された手に
目眩がした。