騙し屋のゲーム

第二章：ウェブの片隅の相談屋

不眠症気味の夜が続いていた。天井を見つめながら、羊を数える。一匹、二匹…数が増えるほど、羊のふわふわした毛並みの向こうに、山下の欺瞞的な笑顔が浮かび上がる。祖父の土地を手放した日から、安眠とは程遠い夜が続いていた。

朝になっても、重苦しい気分は晴れない。無気力にパソコンを立ち上げ、いつものようにネットサーフィンを始めた。ニュースサイト、動画サイト、SNS…どれも虚しく、すぐに飽きてしまう。何もかもが無意味に感じられ、ただただ焦燥感が募るばかりだった。

ふと、先日検索した「土地　売却　トラブル」というキーワードが脳裏をよぎった。もう一度検索してみる気力が湧いてきたわけでもない。だが、他に何かできることがあるだろうか？他に何か、この状況を打破できる方法があるだろうか？

半ば諦めながら、検索ボタンをクリックした。表示された検索結果を流し見していると、以前は見落としていたサイトが目に入った。

「どんな相談にも乗ります」

たった一行の、簡素な言葉。他のサイトのように、解決実績や顧客の声、華やかな装飾は一切ない。真っ白な背景に、黒い文字だけが浮かんでいる。まるで、ウェブの片隅にひっそりと佇む、謎めいた存在のようだった。
怪しい。

胡散臭い。

そう思った。他のサイトは、派手な宣伝文句で「必ず解決します！」と謳っていた。しかし、このサイトだけは違った。飾り気のない言葉と、シンプルなデザイン。まるで、インターネットの喧騒から一歩引いた場所で、静かに真実を見つめているような、そんな印象を受けた。

サイトをクリックすると、さらにシンプルなページが表示された。名前も事務所の住所も電話番号も記載されていない。あるのは、メールアドレスと、「相談料：5,000円」という文言だけ。謎は深まるばかりだった。
普通なら、こんな怪しいサイトは無視するだろう。しかし、今の僕は、藁にもすがる思いだった。失意のどん底にいる僕にとって、このサイトは、一筋の光のように見えた。

相談内容を簡単にまとめ、送信ボタンをクリックする指先は、かすかに震えていた。このメールが、僕の人生を変えるかもしれない。そんな予感がした。

数分後、返信が届いた。「明日、15時、A市中央公園近くの『カフェ・ド・ソレイユ』でお待ちしております。葛西史郎」

葛西史郎…どんな人物だろうか。名前を検索してみたが、何もヒットしない。ますます謎は深まるばかりだ。
カフェ・ド・ソレイユ。名前だけは聞いたことがある。A市では有名な老舗の喫茶店だ。

明日、この謎の相談屋に会うことで、何かが変わるのだろうか。期待と不安が入り混じる、奇妙な高揚感を胸に、僕はベッドに入った。しかし、その夜も、なかなか寝付けなかった。