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もう1つの桜の前で

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『確かにプロポーズは感動しました。でも、今、僕が嬉しいって言ったのは…プロポーズのことじゃなくて…』


その言葉をさえぎるように料理が運ばれてきた。


ちょっと気まずそうな茅野君。


『すごく美味しそう』


『…ですね、食べましょうか』


私達は料理を食べ始めた。


味が良くてワインにも合っていた。


聞きたかった仕事の話も含め、他愛もない話をしていたら、あっという間に1時間以上経っていて…


『松下さん、少し外で話しませんか?近くに広い公園あるんで…桜も咲いてて綺麗ですよ。ほら、今日だって、ゆっくり桜を見る時間なんて無かったから』


さりげなくニコッと笑う茅野君。


私とは1歳しか違わないけど、笑顔が可愛すぎてもう少し年下にも見える。


『そうだね。私も桜見たい』


この前、絢斗と見た桜並木。


あの時、私はドキドキし過ぎて、正直あまりちゃんと桜を楽しめなかった。


『良かった。じゃあ、出ましょうか』


私達は、近くの公園に向かって歩き出した。


『茅野君はこの先の駅から電車でしょ?公園、時々寄ったりするの?』


『あ…いや、初めて寄ります。いつもは駅まで一目散ですから』


笑ったせいで少し細くなった瞳が、茅野君の優しさを感じさせる。


きっと、この人は、こんな風に誰にでも同じように優しいんだろうなと思った。


『ここです。ほら、あの桜…』


そこには大きな桜の木が1本立っていて、見事に美しい花が咲き誇っていた。


たまたま今日だけかも知れないけど、他に誰もいないのが嘘みたいだ。


『そろそろ散ってしまうのがもったいないですよね』


『うん。こんなに綺麗だとずっと見ていたくなる…』


少し離れて見上げる桜。


なぜだかわからないけど、綺麗過ぎて涙が出そうになった。


『…だったら…ずっと…ここで桜、見ていませんか?』
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