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お客様のために

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『そうなんですか。ホテルを舞台に小説を書かれるんですね。とても嬉しいです。次回作、楽しみにしています。ただ…そういうお話しでしたら、私ではなく1度広報に相談してみます』


『いや…それなら…遠慮しておくよ。俺は松下一花さん、あなたから話を聞きたいから』


え…


そんなこと言われても…


『ですが、私では作品にするために必要なお話が十分に出来ないかと。工藤様の小説は必ずベストセラーになります。ですので、詳しくしっかりした者の方がお役に立てると思いますので』


コンシェルジュとしてはNOと言いたくは無かったけど、さすがにこんな大役は…


私はまだ未熟だし、ホテルの細かな内情についてはわからないことも多々ある。


工藤様にも失礼だと思った。


『俺の言うこと聞けないの?』


『えっ!?』


工藤様は、急に私の肩を壁に押し付けた。


目の前に工藤様の顔がある…


こんなにも近くで男の人の顔を見たのはいつ以来?


すごく恥ずかしいよ。


工藤様は決して悪人じゃない。


わかってるけど、今まで見たことなかった工藤様のワイルドさが私の心をかなり動揺させてる。


『お願い、聞いてくれるよね?仕事が終わってからでいいから』


どうしよう…


このままじゃ腰が砕けそうだ。


とにかく何か言わないと…


『わ、わかりました。ただ、総支配人にはお伝えさせて頂いてよろしいでしょうか?総支配人のOKが無いとお引き受けすることは出来ないので』


『総支配人…ああ、あのイケメンの彼ね。別に…いいよ。ただ、俺、松下さんをどうにかしようなんて思ってるわけじゃないよ』


私の髪を優しく触る指とその渋くて甘い声の両方が、工藤様がセクシーな大人の男性だということを嫌でも認識させた。
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