とろける程の甘美な溺愛に心乱されて～契約結婚でつむぐ本当の愛～

思いがけない誘い

7

タイミング良くホームに入ってきた電車に乗った。


この時間に乗車することはあまりないけど、意外と人が多くて、座れる隙間は無かった。


ドアの近くに立ち、窓の外の夜の景色を見ていたら、ちょっとずつ頭が回転し出した。


スーツ姿の店長は、今日もすごく素敵だった。


お誘いを受け、食事をして、そして…


私は、綾井店長に告白された。


もちろん、今でも信じられない。


しかも、一目惚れだなんて。


3年間、私のことを想ってくれてたってことなんだよね、本当…有り得ない。


店長の周りには私より綺麗な人がたくさんいるのに、その中でどうして私なのか、どう考えてもおかしいよ。


やっぱりからかわれてるのかな？


さっきからずっと、体がふわふわと宙に浮いてるみたいで落ち着かない。


答えは急がないって言ってたけど、だけど結局、絶対に出さないといけないんだよね？


このまま曖昧にしておくことは…できないんだよね。


今は仕事に集中しないとって思ってたところだし、恋愛の悩みなんて抱えてる場合じゃない。


いったい、どうすればいいんだろう？


店長にキスまでされて、まだその唇の感触が残ってる。


その時、なぜか龍聖君の顔が浮かんだ。


3年前のあの日の思い出…あのキスがフラッシュバックされた。


とっくに私の元から遠く離れてしまった人なのに、まだ私の中に現れるなんてズルいよ。


目を閉じると、私に笑いかけてくる龍聖君の顔がとても優しくて、何だか泣きそうになる。


ダメダメ！


もう何も考えちゃダメだ。


店長のことが『好き』なのか『好きじゃないのか』


その問題の答えを出すことはとても困難なこと。


きっと、今の私にはどんな数学や英語の問題よりもずっと難しい気がした。


電車はあっという間に到着し、人の流れにのって私はホームに降り立った。


とりあえず私は、一旦考えることを放棄した。


早く帰って、お風呂に入って、温かい飲み物でも飲んで、さっさと眠ろう。


そんな小さな安らぎを求め、私は、一人暮らしのマンションまでの道のりを足早に歩いた。