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第2部2章 収穫祭編

71 事後処理

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 その後、承治とヴィオラが近くの井戸で血を洗い流して大通りに戻ると、王都の警邏隊が事件現場に到着していた。
 どうやら、事件の状況は長岡が説明してくれたらしく、強盗犯らしい虎男も既にその場から姿を消している。
 周囲の人々も落ち着きを取り戻したようで、買い物や観光を再開していた。

 すると、警邏隊の責任者と思しき兵士がヴィオラを見つけて慌てて駆け寄ってくる。
 屈強な体に軽装の甲冑を纏う彼は、ヴィオラの服に残る血を見て焦りながら口を開いた。

「宰相閣下! まさか、お怪我をされたのですか!?」

「いえ、怪我をしたのは私の部下です。これは応急処置の時についたもので……」

 ヴィオラの言葉に対し、兵士は厚い胸板をほっと撫で下ろす。

「そうでしたか。お連れの方はご無事で?」

 いささか心配の度合いが軽い気がしたが、身分差があるのは事実なので不満は顔に出さず返事をした。

「はい。ちょっと腕を斬られましたけど、治癒魔法で治してもらいました」

 そんな言葉に対し、兵士はなぜか表情を硬くして応じる。

「治癒魔法、ですか。それは一体、誰が行使したんですかな」

 承治は、事情聴取を受ける長岡を指さしながら「あそこの彼です」と告げる。同時に、長岡が治癒魔法以外にも攻撃的な魔法で強盗を無力化したことを伝えた。

 承治の話を聞き終えた兵士は、やや高圧的な態度で質問を続ける。

「彼は君の知り合いか? 見たこともない鎧を着ているが、彼は何者だ」

 改めて長岡が何者かと問われると、承治も返答に困る。
 すると、見かねたヴィオラが話に割って入った。

「彼はクラリアの騎士見習いで、私の友人でもあります。ただ、彼はウラシムを用いずとも魔法が行使できるという特殊な体質の持ち主で、暴漢を捕まえるために咄嗟に魔法を行使してしまったんです」

「ウラシムが無くても魔法が使えるですと? クラリアにはそんな者がおるんですか……しかし、いかなる理由があれど国外の兵士が我が国で魔法を行使するというのは、あまり感心できませんな」
 
 二人の会話を聞いてた承治は、何となく状況を察する。
 どうやら、彼は長岡が街中で魔法を行使したことを問題視しているようだ。

 考えてみれば、カスタリアでは魔法を行使するためのウラシム鉱石が国によって厳密に管理されており、一般人は気軽に魔法を使うことはできない。
 ヴィオラやセレスタが時たま魔法を使うので感覚が麻痺していたが、この世界における魔法は基本的に戦争の道具として扱われるものだ。
 そんなものが街中で行使されれば、注意を払うのは当然だろう。

 しかも、話は長岡だけに留まらない。
 今回、強盗を働いたという二人組のうち一人は、魔道具を用いて魔法を行使していた。以前出会った誘拐事件の首謀者も非公式に魔道具を所持していたが、今回の犯人も闇市場で魔道具を手に入れたのだろうか。
 承治がそんなことを考えていると、ヴィオラと兵士もその話題を取り上げていた。

「それにしても、強盗犯が使っていた魔道具の出所は一体どこなのでしょう……」

「あの短剣は、恐らく王立工房の正規品が流出したものですな。自分もこんなことを言いたかないんですが、貴族か役人あたりが闇市場に正規品を横流ししとるようなんです。そのせいもあって、最近は魔道具による事件が後を絶ちません」

「横流しですか……黒幕を追及する必要がありそうですね」

 ヴィオラと兵士がそんな会話を交わしていると、事情聴取を終えた長岡が警邏隊に囲まれたまま近づいてくる。
 そして、当惑した様子で口を開いた。

「お二人ともすいません。なんか、俺が魔法を使っちゃったせいで話が少しややこしくなったみたいで……」

 すると、警邏隊の責任者である兵士が全員に向けて声を放った。

「とりあえず、一旦皆で王宮へ戻りましょう。ヴィラオ様もそのような格好でいるわけにもいかんでしょうし、見習い騎士の君とも少し話がしたい。よろしいかな?」

 結局、彼の提案に従う形で楽しいお祭り巡りはあっけなく幕を下ろすことになった。


 * * *


 王宮へ戻った承治とヴィオラは、汚れた服を着替えるために警邏隊一行と別れて部屋に戻ることにした。
 その間、長岡の身柄は警邏隊が預かり、後ほど王宮内に設けられた警邏隊の詰め所で再集合する予定になっている。
 王宮に連れ込まれた長岡の扱いは、まるで罪人のようだ。

 長岡は街中で魔法を行使したが、別に悪い事をしたわけではない。
 むしろ、魔道具を持つ凶悪な強盗を無力化するという、大手柄を上げたのだ。彼の行動は、責められるどころか褒められて然るべきだろう。

 ここは長岡のためにも、しっかりと事情を説明して誤解を解く必要があるだろう。
 そう考えた承治は、ヴィオラと肩を並べながら自室に向けて早歩きで足を進める。

 すると、こんな時に最も出会いたくない人物とばったり遭遇してしまった。
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