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第2部1章 ヴィオラのお悩み編
47 小さな魔女と小さな魔王
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47 小さな魔女と小さな魔王
図書館の隅で承治とファフの様子をうかがっていたのは、小さな魔女ことセレスタだった。
「セレスタ、そんなとこに隠れてないで出てきな」
オババ様に呼びつけられたセレスタは、びくりと肩を震わせて本棚の陰から姿を現す。
そのまま駆け寄ってきたかと思うと、承治とファフの間を駆け抜けてオババ様の後ろに隠れてしまった。
オババ様の孫娘であるセレスタは、獣人と人類種のハーフだ。
頭から突き出したイヌ科のような耳とモフモフの尻尾が特徴的だが、ポニーテールにしてる黒々とした髪とダークブラウンの瞳がオババ様の血筋をよく現している。
また、魔女であるオババ様の血を引くセレスタにも魔法の心得があり、特にセレスタの持つ飛行用魔法具こと〝空飛ぶモップ〟は、遠距離移動の際に非常に便利だ。承治も何度かお世話になっている。
そんなセレスタは、不安げ面持ちを浮かべてオババ様の後ろからファフに視線を投げかける。かなり警戒されているようだ。
承治は二人の間を取り持つため、ファフにセレスタを紹介する。
「彼女はオババ様の孫娘で、セレスタって言うんだ。歳も近いだろうし、仲良くしてあげてよ」
ファフはセレスタの態度に気を悪くした様子もなく、飄々とした態度で応じる。
「アンタとはこの前の戦い以来ね。私はファフ。昔の名前は捨てたの。よろしくね」
すると、セレスタもさすがに失礼と感じたのか、オババ様の後ろから姿を現しておずおずと自己紹介を始めた。
「ワタシは、セレスタ……」
……それだけかいっ。
とまあ、和気あいあいと語り合う雰囲気でもないため、これには承治も苦笑いを浮かべる他なかった。
すると、ファフはセレスタに興味があるのか、少し歩み寄って全身を舐めまわすように観察し始める。
「へぇー、獣人ねぇ……なんて言うか、むちゃくちゃ可愛いわねこのコ。コスプレしてるみたい」
確かに、セレスタの持っているケモミミと尻尾は一見するとコスプレっぽいが、禍々しい角と羽を持つファフに言われたくはないだろう。
「正確に言うと、セレスタちゃんは獣人と人類種のハーフだけどね」
ファフは「ふーん」と軽く相槌を打ち、セレスタの周囲をぐるぐると回る。
対するセレスタは蛇に睨まれた蛙のように肩を震わせていた。
オババ様はその様子が可笑しいらしく、小さく笑いをこぼす。
「心配せんでも取って食われたりせんよ。たぶんな」
すると、セレスタの反応を面白がったファフは、突然「えいっ」とセレスタの体に抱きついた。
「いやーん、この尻尾と耳チョー気持ちいいんですけど。私もこういう体にすればよかったぁん」
ファフに体を撫で回されたセレスタは「うー」と唸って恥ずかしそうに体をよじっている。
顔は不安に歪んでいるが、嫌がっているわけでもないらしい。
そんな光景を目の当たりにした承治は、何故だか胸の奥底が熱くなってきた。
やばい。この光景、むちゃくちゃ可愛いんですけど。
セレスタもファフも元より可愛らしい見た目をしているが、互いのケモノっぽい見た目が小動物的な印象を与えて二人の愛らしさを引き立てている。
愛らしい動物は眺めるだけでヒーリング効果があると言うが、今の承治は間違いなく〝精神ポイント〟を回復させていた。
欲を言えば、承治もセレスタのモフモフな耳と尻尾に触ってみたかった。
以前、第一王女のユンフォニアもセレスタの尻尾に顔を埋めていたが、それはそれは気持ちよさそうだった。
くそっ、これが女の子同士の特権というやつか。
さすがに二十代後半のいい歳したオッサンが、いたいけな少女の尻尾を弄ぶわけにはいかないだろう。
今度、セレスタの父オルゲンの尻尾でも触らせてもらって我慢しよう。
と、承治がそんなことを考えているうちに、いつの間にかファフとセレスタはそれなりに打ち解けているようだった。
正確に言えば、現状はファフが調子に乗ってセレスタを愛でているだけだが、対するセレスタも時より笑みを浮かべている。
ファフとセレスタは先日カスタリア王宮上空で派手な空中戦を繰り広げたばかりだが、いざ顔を合わせて互いが単なる女の子同士だと分かれば、気が合うところもあるかもしれない。
正直なところ、ファフをこの図書館へ連れ出した理由は、こうした交友の輪を広げる目的もあった。
かつて承治自身がそうであったように、転生者は孤独に始まる。
全ての身内と交友関係を失い、気の許せる相手が一人もいない世界で暮らすというのは、はっきり言って相当な不安を伴う。
そういった意味でも、ファフにとってセレスタとの出会いは良い結果を生みそうだった。
そんな二人のじゃれあいを承治が眺めていると、ふとオババ様が独り言をつぶやく。
「やれやれ、セレスタに歳の近い友人が増えるのはいいが、その友人が第一王女に元魔王というのも考えものじゃな」
承治はその独り言に言葉を返す。
「王宮にはあんまり子供がいませんからね。まあ、僕みたいなオッサンとつるんでるよりは歳の近い女の子同士の方が気兼ねしなくていいと思いますよ」
すると、オババ様は声のトーンを下げて承治に耳打ちする。
「しかしジョージよ。ファフニエルはこれからどうするつもりじゃ。あんな見てくれでは、嫌でも目立つじゃろ。この先ずっと王宮の中で生活させるつもりなのか?」
それは、承治にとって悩ましい問題だった。
むしろ転生者として将来の事を考えねばならないのは承治も一緒だろう。
とりあえず働いて生計は立てているが、将来像なんて考えたこともなかった。
そもそも、目指すべき将来とは何か。
たとえば、仕事以外であれば結婚して家庭を作るという発想が浮かぶ。
ならば、承治やファフにとって目指すべき将来像とは、真っ当に働いて家庭を持つことなのだろうか。
確かに健全な発想ではあるが、少しズレている気もする。
そこまで考えたところで、承治は結論を出すことを諦めた。
何にせよ、まだまだ考える時間はある。今は平和な暮らしを維持することに専念しよう。
そう考えた承治は、「将来のことはこれから考えます」と、簡素な返事をオババ様に告げた。
図書館の隅で承治とファフの様子をうかがっていたのは、小さな魔女ことセレスタだった。
「セレスタ、そんなとこに隠れてないで出てきな」
オババ様に呼びつけられたセレスタは、びくりと肩を震わせて本棚の陰から姿を現す。
そのまま駆け寄ってきたかと思うと、承治とファフの間を駆け抜けてオババ様の後ろに隠れてしまった。
オババ様の孫娘であるセレスタは、獣人と人類種のハーフだ。
頭から突き出したイヌ科のような耳とモフモフの尻尾が特徴的だが、ポニーテールにしてる黒々とした髪とダークブラウンの瞳がオババ様の血筋をよく現している。
また、魔女であるオババ様の血を引くセレスタにも魔法の心得があり、特にセレスタの持つ飛行用魔法具こと〝空飛ぶモップ〟は、遠距離移動の際に非常に便利だ。承治も何度かお世話になっている。
そんなセレスタは、不安げ面持ちを浮かべてオババ様の後ろからファフに視線を投げかける。かなり警戒されているようだ。
承治は二人の間を取り持つため、ファフにセレスタを紹介する。
「彼女はオババ様の孫娘で、セレスタって言うんだ。歳も近いだろうし、仲良くしてあげてよ」
ファフはセレスタの態度に気を悪くした様子もなく、飄々とした態度で応じる。
「アンタとはこの前の戦い以来ね。私はファフ。昔の名前は捨てたの。よろしくね」
すると、セレスタもさすがに失礼と感じたのか、オババ様の後ろから姿を現しておずおずと自己紹介を始めた。
「ワタシは、セレスタ……」
……それだけかいっ。
とまあ、和気あいあいと語り合う雰囲気でもないため、これには承治も苦笑いを浮かべる他なかった。
すると、ファフはセレスタに興味があるのか、少し歩み寄って全身を舐めまわすように観察し始める。
「へぇー、獣人ねぇ……なんて言うか、むちゃくちゃ可愛いわねこのコ。コスプレしてるみたい」
確かに、セレスタの持っているケモミミと尻尾は一見するとコスプレっぽいが、禍々しい角と羽を持つファフに言われたくはないだろう。
「正確に言うと、セレスタちゃんは獣人と人類種のハーフだけどね」
ファフは「ふーん」と軽く相槌を打ち、セレスタの周囲をぐるぐると回る。
対するセレスタは蛇に睨まれた蛙のように肩を震わせていた。
オババ様はその様子が可笑しいらしく、小さく笑いをこぼす。
「心配せんでも取って食われたりせんよ。たぶんな」
すると、セレスタの反応を面白がったファフは、突然「えいっ」とセレスタの体に抱きついた。
「いやーん、この尻尾と耳チョー気持ちいいんですけど。私もこういう体にすればよかったぁん」
ファフに体を撫で回されたセレスタは「うー」と唸って恥ずかしそうに体をよじっている。
顔は不安に歪んでいるが、嫌がっているわけでもないらしい。
そんな光景を目の当たりにした承治は、何故だか胸の奥底が熱くなってきた。
やばい。この光景、むちゃくちゃ可愛いんですけど。
セレスタもファフも元より可愛らしい見た目をしているが、互いのケモノっぽい見た目が小動物的な印象を与えて二人の愛らしさを引き立てている。
愛らしい動物は眺めるだけでヒーリング効果があると言うが、今の承治は間違いなく〝精神ポイント〟を回復させていた。
欲を言えば、承治もセレスタのモフモフな耳と尻尾に触ってみたかった。
以前、第一王女のユンフォニアもセレスタの尻尾に顔を埋めていたが、それはそれは気持ちよさそうだった。
くそっ、これが女の子同士の特権というやつか。
さすがに二十代後半のいい歳したオッサンが、いたいけな少女の尻尾を弄ぶわけにはいかないだろう。
今度、セレスタの父オルゲンの尻尾でも触らせてもらって我慢しよう。
と、承治がそんなことを考えているうちに、いつの間にかファフとセレスタはそれなりに打ち解けているようだった。
正確に言えば、現状はファフが調子に乗ってセレスタを愛でているだけだが、対するセレスタも時より笑みを浮かべている。
ファフとセレスタは先日カスタリア王宮上空で派手な空中戦を繰り広げたばかりだが、いざ顔を合わせて互いが単なる女の子同士だと分かれば、気が合うところもあるかもしれない。
正直なところ、ファフをこの図書館へ連れ出した理由は、こうした交友の輪を広げる目的もあった。
かつて承治自身がそうであったように、転生者は孤独に始まる。
全ての身内と交友関係を失い、気の許せる相手が一人もいない世界で暮らすというのは、はっきり言って相当な不安を伴う。
そういった意味でも、ファフにとってセレスタとの出会いは良い結果を生みそうだった。
そんな二人のじゃれあいを承治が眺めていると、ふとオババ様が独り言をつぶやく。
「やれやれ、セレスタに歳の近い友人が増えるのはいいが、その友人が第一王女に元魔王というのも考えものじゃな」
承治はその独り言に言葉を返す。
「王宮にはあんまり子供がいませんからね。まあ、僕みたいなオッサンとつるんでるよりは歳の近い女の子同士の方が気兼ねしなくていいと思いますよ」
すると、オババ様は声のトーンを下げて承治に耳打ちする。
「しかしジョージよ。ファフニエルはこれからどうするつもりじゃ。あんな見てくれでは、嫌でも目立つじゃろ。この先ずっと王宮の中で生活させるつもりなのか?」
それは、承治にとって悩ましい問題だった。
むしろ転生者として将来の事を考えねばならないのは承治も一緒だろう。
とりあえず働いて生計は立てているが、将来像なんて考えたこともなかった。
そもそも、目指すべき将来とは何か。
たとえば、仕事以外であれば結婚して家庭を作るという発想が浮かぶ。
ならば、承治やファフにとって目指すべき将来像とは、真っ当に働いて家庭を持つことなのだろうか。
確かに健全な発想ではあるが、少しズレている気もする。
そこまで考えたところで、承治は結論を出すことを諦めた。
何にせよ、まだまだ考える時間はある。今は平和な暮らしを維持することに専念しよう。
そう考えた承治は、「将来のことはこれから考えます」と、簡素な返事をオババ様に告げた。
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