出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ

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驚異の潜水空母

16.

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「パナマ運河封鎖!」

 通信室の井上通信長から艦橋へ連絡がきた。

「よっしゃあー!」
「やったぜ」

 南田艦長は艦内へ通達し、初任務を成功させた事で一気に艦内が明るくなった。

 だが。

「我、敵機の追撃を受けつつあり」
 運河攻撃隊長、1番機加藤中尉からの続報は、その喜びを反転させたのである。

「アメリカも、晴嵐が何処から発進してきたか血眼になって探しているだろう。周りの警戒を密にしろ」

 イ- 400はパナマ湾から少し離れ、作戦上取り決められていた合流地点で浮上した。司令塔に見張員が並び、目を皿の如くして見張っている。
 短時間ではあるが、電探の使用も許可した。

 電探長大原和馬中尉は「電探は未来の兵器といっても過言ではないのです」と威力を力説していたが、「電波を発信すれば逆に見つかるだろう」と見張長村上文吉兵曹等は存在そのものを馬鹿にしていた。
 今回は普通に性能を発揮した。
「付近に艦影無し」
「よし。だが、いずれパナマシティから駆逐艦がやってくる筈だ。見張は厳重にな」

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 パナマシティの海軍陸戦隊司令部。
 司令官マック大佐は、上がってくる被害報告を呆然として受けていた。

「何故だ。どうしてこうなってしまった」

 日本の戦線布告から2日。
 そうは言っても、何事もなく平穏な日々だった。

 ミラフローレス閘門、ペドロ・ミゲル閘門の爆撃による破壊と商船の爆撃による轟沈着底。
 まず半年は運河が使い物にならない。

 日本が、此処を攻撃目標とするとは。
 そして、現実的に攻撃出来る戦力を持っているとは。

「水上機が3機…。何だ?空母では無い。巡洋艦か戦艦の搭載機で空爆したと言うのか?だとしても、何故ハワイは、太平洋艦隊は見過ごしたというのだ」

 潜水艦に搭載されて、という発想は無い。
 これを実用、実戦使用しているのは日本軍だけであり、アメリカは勿論西欧諸国でも「実用不可」と思われていたのが潜水艦搭載機だ。
 その日本軍も、水上偵察機を1機程度しか搭載できていない。3機の水上攻撃機を搭載し得る潜水艦等有り得る筈が無かった。

「司令!回線が」
「どうした?」
「報告しようとしたのですが、回線がパンクしていて。どうも日本軍が真珠湾を攻撃したようです」
「な、何だと?」
「太平洋艦隊司令部が大混乱に陥っていて、本国との通信が中々繋がりません」
「なら報告は後回しだ。兎に角敵機がどうやって来たか、日本軍の艦船がいるかどうかを突き止めるのだ」

 報告が遅れたのは、マック大佐以下陸戦隊司令部の怠慢だと軍法会議にかけられたのは少し理不尽な話なのだが、これは後日談。

 日本軍が、水上攻撃機3機を搭載発艦出来る「潜水空母」と呼べる大型潜水艦で攻撃してきた事が判明したのはその日の夕方であり、その頃には大型潜水艦の影も形も無かったのである。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 ホワイトハウス、オレンジルーム。
 そこにいる首脳陣は皆憔悴し切って、まるで葬式の様な雰囲気に包まれていた。

「パナマ運河が空襲?使えない…だと?」
「どれだけだ!復旧にどのくらいかかる?」
「商船の着底と、閘門が2箇所破壊されていますので半年以上はゆうに」
「ふ、ふざけるなぁ!」

 大西洋艦隊からハワイへ送ろうとしていた矢先。
 その大動脈が封鎖されてしまった。

 もう日本軍が、太平洋を跋扈する事を止める手立ては無い。

「攻撃してきたのは潜水空母、そう言ったな」
「はい。現地目撃情報から考えて、その艦種と判断せざるを得ないとマック大佐から」
「潜水空母…。水上攻撃機を3機搭載し得る大型潜水艦?巨大砲撃潜水艦だけでもコミック雑誌かと思える代物だと言うのに」
「まだ信じられません。そんな潜水艦を本当に造り得るものなのでしょうか?」

「こんな、こんな事が…。君達は何を見ていた?何を報告して来ていた?これでは話がアベコベだ。このままでは、このワシントンD.C.に日章旗が翻るぞ!」
 額の血管が浮き出て、もはや血を噴き出しそうな勢いのルーズベルト大統領は、立ち上がるや否や、そのままよろめいて再び座り込んでしまう。

「だ、大統領!」
「ええい、構うな!で、どうするのだ‼︎」
「まぁ、半年も待てませんから、ホーン岬回りで太平洋へ出るしか有りません。それまでは沿岸警備隊で太平洋側の各都市は守るしかないでしょう」

 ニューヨークだけではない。
 太平洋沿岸の各主要都市も、日本は好きに攻撃する事が出来る。

 そして、この事はその日の速報でアメリカ全土に流れてしまう。

 ルーズベルト大統領は、この事を記事にした記者を拘束、記事の差し止めや新聞の発行差し止め、ラジオ放送局への放送中止をも言い出したのだが、これは各首脳陣に止められてしまった。
 戦時中で、尚且つアメリカ大統領であったとしても、記事の差し止めや記者の拘束は出来ない相談だった。


 ルーズベルト大統領は、一気に苦境に落とされたのである。
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