出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ

文字の大きさ
上 下
9 / 31
運命の開戦

9.

しおりを挟む
「攻撃成功!空母レキシントンは轟沈」

 晴嵐からの入電。特型潜水艦隊もだが、南雲機動部隊も充分沸き返った。

「源田君」
「ええ、長官。幸先のいい開始だ」
「だが1隻しかいなかったか。確か真珠湾にはレキシントンと」
「エンタープライズがいる筈です」

 空襲の主目的は、まず空母だった。

「まぁ、真珠湾はコレで充分だろう。後は特型潜水艦に任せるとしよう」
「長官?」
「攻撃隊が帰還次第作戦を終了、帰投する」

 これに対し、第二航空戦隊山口多聞司令から「再度攻撃の必要有り。当方第2次攻撃隊の発進準備が整いつつあり」と具申してきた。源田も同様に再攻撃の必要性を説いたのだが、南雲中将は「当初目的は達成された。2次攻撃は不用である」と認めなかった。

 南雲機動部隊は、攻撃機を全機収容すると帰途に就いたのだった。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「で、太平洋艦隊の状況は?被害は?」

 オレンジルームに飛び込んで来た、日本軍の真珠湾攻撃の報。詳細が分かるにつれ、オレンジルームには憔悴と苦悩の色が広がっていく。

「空母レキシントン撃沈。戦艦オクラホマ、アリゾナ轟沈、ウェストバージニア、カリフォルニア、ネヴァダ、ペンシルヴァニア、テネシー、メリーランド大破炎上」
「何という事だ。戦艦はほぼ壊滅か」
「巡洋艦ロウリー、ホノルル、ヘレナ被弾、駆逐艦ショー、ダウンズ大破、カッシン火災発生。駆逐艦母艦ドビン、水上機母艦カーティス破損」
「で、基地機能は」
「それが、攻撃機が去った後、例の潜水戦艦が現れ重油タンクや基地施設に砲撃を加えた為、基地機能は失われたと言っても過言ではなく」
「何故、エンタープライズは被害を受けなかった?此方にとっては数少ない朗報だが、彼等が見逃すとは思えないのだが」
 ノックス海軍長官の疑問にフォレスタル作戦部長の主任参謀スコットが応える。
「エンタープライズはウェーク島へ戦闘機の輸送任務に就いていました。現在、帰投途中です」
「それは、不幸中の幸いだ」
「だが、まさか例の潜水艦と出会わないだろうか」

 ニューヨークを砲撃した潜水艦が、人目に付かないまま2日後にハワイへ到着出来る訳がない。
 つまり、最低でも2隻は存在すると言う事になる。

 この時、オレンジルームの首脳陣は忘れていた。

 フロートを付けた飛行機~晴嵐の存在を。
 最初の偵察、及び空母レキシントンを雷撃したのは彼等である。

 水上機フロート付きという事は、この機体は空母から発艦したのではないのだ。

 特型潜水艦は、航空機という長い槍と遠くまで見通せる眼をもっている。オレンジルームの首脳陣は、後々、その事を思い知らされる。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 真珠湾。黒煙と炎が渦巻く中、乗組員達は必死で消火や復旧作業に取り組んでいた。
 アメリカ海軍艦船にはダメージコントロールチームがいる。日本海軍の応急処理班よりも優秀かつ機能的な彼等は少しでも損失を少なくしようと努力していた。

「この真珠湾は水深が浅い。上手くすればサルベージして修復出来る」
「だからだよ。どうやってこんな浅い海底で日本軍ジャップは魚雷を使ったんだ」

 アメリカ海軍は不可能と判断した雷撃。
 日本軍は、同じ様な湾である鹿児島湾で開発改良試験特訓を重ねて九一式航空魚雷を造り上げたのだ。

 航空戦力が去り、しばらくは警戒していた。
 その間にも火災は拡がり、誘爆も起こってはいたが、1次攻撃だけで終わる筈がないと一兵卒に至るまで思っていたのだから。

 だが間を置かずの交代劇はなく、十数分経っても2次攻撃隊が来る気配が無かった。

日本軍ジャップめ!こんな事で我々が負けたと思い込むと思うならば大きな間違いだぜ」

 そう笑い飛ばし、作業を進めようとした矢先。

 突如、鼻先に巨大な潜水艦が浮上してきた。

「ま、まさか⁉︎あれは?」
 少なくとも司令部の者は、ニューヨークを砲撃した化け物潜水艦の報を聞いていた。

 上甲板を左右に開き安定翼兼フロートを形成すると、前後の主砲塔が転回してきた。

「に、逃げろ!」

 ドドーン!
 ドドーン‼︎

 艦船もだが、化け物潜水艦は陸上基地設備に砲撃を加えてきたのである。

「総員退避!急げ‼︎」

 やがて潜水艦は重油タンクを砲撃する。

 グワァーン!ズガガガーン‼︎
 激しい焔と黒煙、衝撃波が基地を包み込んでいく。

「そ、そちらは病院?」
 流石に潜水艦も砲撃を止めると向きを変え、再び砲撃を繰り返した。
 窓ガラスは、衝撃波もあり割れた箇所もあるだろうが、それでも病院へ至近弾すら炸裂する事はなかった。

 化け物潜水艦は悠々と真珠湾内を回遊し基地各所へ砲撃を加えていく。その後、損傷軽微と思われる艦船に対しても砲撃していった。

 滑走路が爆撃された為発進出来なかった航空機は、どうせ出せないのならばとシェルターへ格納していたのだが、それすらも砲撃で潰れてしまい、中の航空機ごと壊滅してしまったのである。

「あれが、ニューヨークを砲撃した化け物潜水艦か」

 初めて聞いた時には何の冗談かと思えた存在。

「冗談…、ははは、誰か冗談だと言ってくれ」

 キンメルには灼熱地獄にしか見えなかった。
 重油火災は、艦隊司令部を焼き尽くしたのである。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり

もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。 海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。 無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。

遠い昔からの物語

佐倉 蘭
歴史・時代
昭和十六年、夏。 佐伯 廣子は休暇中の婚約者に呼ばれ、ひとり汽車に乗って、彼の滞在先へ向かう。 突然の見合いの末、あわただしく婚約者となった間宮 義彦中尉は、海軍士官のパイロットである。 実は、彼の見合い相手は最初、廣子ではなく、廣子の姉だった。 姉は女学校時代、近隣の男子学生から「県女のマドンナ」と崇められていた……

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

永艦の戦い

みたろ
歴史・時代
時に1936年。日本はロンドン海軍軍縮条約の失効を2年後を控え、対英米海軍が建造するであろう新型戦艦に対抗するために50cm砲の戦艦と45cm砲のW超巨大戦艦を作ろうとした。その設計を担当した話である。 (フィクションです。)

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

処理中です...