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帝国とベルンの戦争
57.
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「予想通り、王都前に集結しつつあり。此処からイグネス城塞へ向かうと思います?」
『いや、其方も出ると思っているのだろう。城塞攻めの様相ではないな』
重騎兵中心の編成。成る程。
ベルン王国はビルピス平原での正面決戦を選択したんだ。
『ミリシアの者ならば、まずしない選択なのだがな。どうやらベルンに与する者はいなかったのか?それとも…』
「と言うと?」
『平原に見えて、左のナドアの森からリザン山脈への部分、実は湿地帯だ。重騎兵が入った日には身動き取れなくなる』
「へえ。それを知っていると仮定した場合は?」
『侵攻進路が決まる、狭まる。道が判れば細工は如何様にも出来る』
「流石。本当に優れた軍師だ。貴女が此方側に投降してくれた事、本当に助かりますよ」
『その軍師の立てた策を悉く破った者に言われると、やはり腹に据えかねるな。私が国を捨てた原因なのだよ、ロディマス卿』
「いや、従魔の力技なので。策で破ったのならば兎も角。偵察はこの辺でいいか。取り敢えず戻ります」
『あの魔導具ハトーボはほっといて良いのか?』
「オレの存在が頭の片隅に残ります。寧ろ、コッチに張り付いて欲しいんですよ」
『存外、人が悪いな、卿も』
ヒデェ言われ様だ。
パルム侯爵夫人の幻体が、オレの背から消える。
「グラン、帰るよ」
グリフォンに指示して、オレは一旦、イグネス城塞へ帰還した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「あれがロディマス=パイル・クロノ、か。『滅びの魔女の息子』でランクAの従魔を2頭持つ者。何だって、あんな規格外な者が帝国貴族に、しかも中枢近くにいる?異世界人の力を借りたとしても太刀打ちが難しいとはな。こうなると『地上の星』の面々が傭兵参加を拒否しているのが、本当に痛い。かと言って、強制してはおそらく敵に回る。まだ中立でいてくれる方がマシだ」
魔導具ハトーボで捉えたグリフォンの存在。
そして、その背に揺られる少年。
彼が最強のワンマンアーミーなのは疑い様も無い。このミリシアで2つの城塞を無血占領してのけたし、レッサーだとしてもドラゴンを3頭、瞬殺している。魔物暴走を1人で食い止めた等、まるでお伽噺としか思えない実績を散々打ち立てている馬鹿げた存在だ。
そしてミリシアの小細工を悉く潰した者。
今回も同様。
彼の後ろにいたのは、薄い影しか見えなかったがパルム侯爵夫人だった。
つまり、ミリシア随一の策謀家が此方側ではなく帝国についたと言う事に他ならない。
何故だ。
パルム夫人もだし、確か帝国での政敵ガスター侯爵も味方に引き入れている。彼に煮湯を飲まされながら、それでも味方となる魅力が彼にはあると言うのか?
味方…。
彼を味方とする方法は無い。
只の冒険者ならば、金や権力、或いは神武器等の条件も提示出来る。
だが彼は中枢に近い貴族。権力側の立ち位置。
それに、彼には権力欲、物欲、金銭欲も性欲も乏しいらしい。食欲にしても珍味や高価な食材よりも空腹を満たす方に重きを置くと聞いている。
どうすれば?どうすればいい?
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「お兄様、ロディマス卿から連絡がありました。ベルン王国は旧ミリシア王都で軍を集結させつつあるようです。その上で、彼はパルム夫人から面白い事を聞いて来た様です」
妹皇女が悪戯っぽく笑いながら報告にくる。
ここは宰相執務室。
私の執務室だ。
今、此処に私と妹、弟皇太子殿下に国務大臣ガスター公爵、軍務大臣ポーリッチ公爵。副官のジム=ルード伯爵子息。
そして法皇キティアラ殿がいる。
「何と?そこが平原ではなく湿地帯とは?」
「この軍編成では、この事知らされてはおらんな。これは面白い」
「ですね。そうなると我等が布陣は、この場所。平原のこの辺りに展開してベルンの進軍を待ち受ける、或いは誘い込めば我が軍の勝利はまちがいない。早速現地の指揮官たる近衛師団長ブラウン伯爵に連絡を」
「それにしても、ロディって不思議な子ね。パルム夫人にとっては仇敵とも言える筈なのに、こうして行動を共に出来る。助言をも貰える」
「それには同意しますね。三公に成れたのもある意味彼のお陰ですが、元々彼には我が家は散々煮湯を飲まされた」
「恨みと感謝がトントンだと?」
「恨みはどうでしょう。彼がミズル失脚の事で頭を下げて頼み込んだ事で、かなり溜飲が下がりましたからね。よく我等が懐中に入って来れたと思いますが、その行動。純粋な想いからの行動力。これに乗らない手は無いと想わせる説得力。それがロディマス卿にはあるのですよ」
「確かに、彼の行動原理は一途な想いだ。目的に向かい最短と思える行動を取る。それがどの様な無茶な事であろうとも自身がぶつかって行く」
「そうね。まぁ、誰が見ても無茶なと思える事が彼にはそうで無い事も多いけど」
「1番無茶振りしているのは貴女ですよ、法皇様」
「でも法皇様は無茶と思っておりませんものね。彼に言った『私は酒場に料理は頼んでも鍛治は頼まないの』って、出来ると信じていないと言えない言葉ですわ」
「皇女殿下…、それは」
ほう。素晴らしい喩えだ。
今度私も使ってみようかな。
「彼のお陰で、初戦は有利に事を進められそう、か。さて、彼等の次の一手は?」
「情報によると強気なのは軍部らしいがな。出端を挫かれてどう出ますかね」
「彼等が去れば、此方側も追撃は無用。徒に戦火を拡げる必要はあるまい」
弟王太子に同意する。
私だけではなく、この部屋にいる者の総意の様だ。おそらく皇帝陛下も苛烈な事は求められまい。
いよいよベルン王国と一戦だ。
『いや、其方も出ると思っているのだろう。城塞攻めの様相ではないな』
重騎兵中心の編成。成る程。
ベルン王国はビルピス平原での正面決戦を選択したんだ。
『ミリシアの者ならば、まずしない選択なのだがな。どうやらベルンに与する者はいなかったのか?それとも…』
「と言うと?」
『平原に見えて、左のナドアの森からリザン山脈への部分、実は湿地帯だ。重騎兵が入った日には身動き取れなくなる』
「へえ。それを知っていると仮定した場合は?」
『侵攻進路が決まる、狭まる。道が判れば細工は如何様にも出来る』
「流石。本当に優れた軍師だ。貴女が此方側に投降してくれた事、本当に助かりますよ」
『その軍師の立てた策を悉く破った者に言われると、やはり腹に据えかねるな。私が国を捨てた原因なのだよ、ロディマス卿』
「いや、従魔の力技なので。策で破ったのならば兎も角。偵察はこの辺でいいか。取り敢えず戻ります」
『あの魔導具ハトーボはほっといて良いのか?』
「オレの存在が頭の片隅に残ります。寧ろ、コッチに張り付いて欲しいんですよ」
『存外、人が悪いな、卿も』
ヒデェ言われ様だ。
パルム侯爵夫人の幻体が、オレの背から消える。
「グラン、帰るよ」
グリフォンに指示して、オレは一旦、イグネス城塞へ帰還した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「あれがロディマス=パイル・クロノ、か。『滅びの魔女の息子』でランクAの従魔を2頭持つ者。何だって、あんな規格外な者が帝国貴族に、しかも中枢近くにいる?異世界人の力を借りたとしても太刀打ちが難しいとはな。こうなると『地上の星』の面々が傭兵参加を拒否しているのが、本当に痛い。かと言って、強制してはおそらく敵に回る。まだ中立でいてくれる方がマシだ」
魔導具ハトーボで捉えたグリフォンの存在。
そして、その背に揺られる少年。
彼が最強のワンマンアーミーなのは疑い様も無い。このミリシアで2つの城塞を無血占領してのけたし、レッサーだとしてもドラゴンを3頭、瞬殺している。魔物暴走を1人で食い止めた等、まるでお伽噺としか思えない実績を散々打ち立てている馬鹿げた存在だ。
そしてミリシアの小細工を悉く潰した者。
今回も同様。
彼の後ろにいたのは、薄い影しか見えなかったがパルム侯爵夫人だった。
つまり、ミリシア随一の策謀家が此方側ではなく帝国についたと言う事に他ならない。
何故だ。
パルム夫人もだし、確か帝国での政敵ガスター侯爵も味方に引き入れている。彼に煮湯を飲まされながら、それでも味方となる魅力が彼にはあると言うのか?
味方…。
彼を味方とする方法は無い。
只の冒険者ならば、金や権力、或いは神武器等の条件も提示出来る。
だが彼は中枢に近い貴族。権力側の立ち位置。
それに、彼には権力欲、物欲、金銭欲も性欲も乏しいらしい。食欲にしても珍味や高価な食材よりも空腹を満たす方に重きを置くと聞いている。
どうすれば?どうすればいい?
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「お兄様、ロディマス卿から連絡がありました。ベルン王国は旧ミリシア王都で軍を集結させつつあるようです。その上で、彼はパルム夫人から面白い事を聞いて来た様です」
妹皇女が悪戯っぽく笑いながら報告にくる。
ここは宰相執務室。
私の執務室だ。
今、此処に私と妹、弟皇太子殿下に国務大臣ガスター公爵、軍務大臣ポーリッチ公爵。副官のジム=ルード伯爵子息。
そして法皇キティアラ殿がいる。
「何と?そこが平原ではなく湿地帯とは?」
「この軍編成では、この事知らされてはおらんな。これは面白い」
「ですね。そうなると我等が布陣は、この場所。平原のこの辺りに展開してベルンの進軍を待ち受ける、或いは誘い込めば我が軍の勝利はまちがいない。早速現地の指揮官たる近衛師団長ブラウン伯爵に連絡を」
「それにしても、ロディって不思議な子ね。パルム夫人にとっては仇敵とも言える筈なのに、こうして行動を共に出来る。助言をも貰える」
「それには同意しますね。三公に成れたのもある意味彼のお陰ですが、元々彼には我が家は散々煮湯を飲まされた」
「恨みと感謝がトントンだと?」
「恨みはどうでしょう。彼がミズル失脚の事で頭を下げて頼み込んだ事で、かなり溜飲が下がりましたからね。よく我等が懐中に入って来れたと思いますが、その行動。純粋な想いからの行動力。これに乗らない手は無いと想わせる説得力。それがロディマス卿にはあるのですよ」
「確かに、彼の行動原理は一途な想いだ。目的に向かい最短と思える行動を取る。それがどの様な無茶な事であろうとも自身がぶつかって行く」
「そうね。まぁ、誰が見ても無茶なと思える事が彼にはそうで無い事も多いけど」
「1番無茶振りしているのは貴女ですよ、法皇様」
「でも法皇様は無茶と思っておりませんものね。彼に言った『私は酒場に料理は頼んでも鍛治は頼まないの』って、出来ると信じていないと言えない言葉ですわ」
「皇女殿下…、それは」
ほう。素晴らしい喩えだ。
今度私も使ってみようかな。
「彼のお陰で、初戦は有利に事を進められそう、か。さて、彼等の次の一手は?」
「情報によると強気なのは軍部らしいがな。出端を挫かれてどう出ますかね」
「彼等が去れば、此方側も追撃は無用。徒に戦火を拡げる必要はあるまい」
弟王太子に同意する。
私だけではなく、この部屋にいる者の総意の様だ。おそらく皇帝陛下も苛烈な事は求められまい。
いよいよベルン王国と一戦だ。
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