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拾異伝 : 十歳、四年生の夏

心絆

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 やって来ました。近衛騎士団の山岳訓練場。
 宿泊所もあり、流石に男女雑魚寝はありませんでした。

 「当たり前です。妙な噂を立てられたらどうするのですか?」
 ローラとかカンカンです。いや十歳で男女雑魚寝で噂が立つ?私の考え、オカシイのかな?

 「お嬢様、私達と一緒に居すぎなのかもしれませんね」
 「だな。お嬢! この三人で雑魚寝しても気にしないもんな」

 だって、物心つく前から一緒にいたんだよ? 
 ずっとこの三人は一緒にいる。そう思ってきたのだけど。公爵令嬢と陪臣の子供達。私が公爵家を継ぐならば兎も角、私は王家に嫁ぐ事が決まっている。成人したら、必ず別れる事になる。
 でも、信じたい。私達は絶対に心が離れる事無いって。


 最初は、夢? 変な違和感がありました。
 何か、頭に鈍く痛みが残る? 変な夢を見るようになったのです。それもクラス全員。

 お蔭で、和気あいあいと上手くいっていたクラスは、些細な事でギスギスするようになりました。
 「お嬢? これはひょっとして?」
 「これが合宿の目的とは思えない。わざとクラスの雰囲気壊して、その上で課題をこなさせようなんて。もう教育じゃないわ!」

 私もだけど、カイルも何かピンときたみたい。
 空気よむのは残念なカイルも、こういう勘はとても凄い。カイルがおかしいと言ったら、絶対何かが違う! おかしいの!!
「探ってはみました。傾向から言って催眠暗示による不協和音への誘導だと思います」
 理屈っぽい割には、チェレンも勘は信じる。
 論理的ではないと、色々理屈をごねるけど、私の事は勿論、カイルの言葉を疑う事も無い。

 「カイルの事は良く知っています。彼の直感が当たる確率は、外れる確率より遥かに高いのです」

 単純に信じている癖に、理屈付けるのが如何にもチェレンらしく、私も苦笑してしまう。

 「何気に酷くね? 俺が勘だけで動くみたいだけど?」
 「この十年、私はカイルが考えて行動するの見たことありませんが?」
 「うん、チェレンに同意。私も見たこと無い」
 「お嬢! そっくりそのまま返すから」
 「全くです。私達陪臣の苦労を察してくださいと、常々思います」

 何でブーメラン、返ってくるのよ?

 そんな中、カイルが聞いてきた話。
 近くに住んでいた悪戯っ子の事。確かに子供の悪戯で、近衛騎士がまともに取り合う事は出来ない程度の事。でも頻繁で対処にホトホト困っていた事。

 悪戯の最中、事故に合い亡くなってしまっている事。

 「よく聞き出せましたね?」
 「チェレンと違って、俺って聞き上手なんだ」
 「お嬢様、一つの可能性ですが…」
 「何? そこで止まるのは何故?」
 「可能性というか、仮定の話過ぎまして。信じられないかもしれませんが」
 「で?」
 「何なの? 原因?」
 「悪夢を見せる妖魔がいます。で、何故ここにいるかと言えば、おそらく、その悪戯っ子が呼び出してるんです」
 チェレンが仮定の話、信じられないというのが分かる。まず、妖魔が何故騎士の訓練場に? 悪戯っ子が呼び出した? 妖魔を?妖魔って…、あ?

 「そうか! 妖魔レムリガンね。悪夢を見せて人を荒ませる魔の眷属。確かに、この妖魔は悪戯遊びが大好きっていう側面も持つ」

 人を荒ませる、堕落させる魔の存在なのに、子供と悪戯して遊ぶという習性を持つ妙な妖魔。大人の、それも聖職者の天敵なのに、子供の友人という変な奴。学校へ行く前の六歳までは全く実害が無い。

 「カイルに実害が無いのもさもありなん。思い当たった理由の一つです」
 「いや、俺六歳以上だから。同じ歳!」
 「成る程。でも、辻褄は合うんだ」
 「うわぁ!お嬢もチェレンもスルー?」

 私達は、この仮定を信じてみた。
 その夜。

 闇が濃くなり、何かの気配がする。
 私は神聖魔法のLv2『マインドガード』と『リラックス』を唱えた。あ、何かが私の心に触れる。

 景色が変わる。
 これは? 学園内? え、カイル? チェレン?

 「お嬢様、今日という今日は言わせていただきます」
 「私達は、もうお嬢様についていけません」

 え? カイル? 口調が…。

 「どうして令嬢らしか振る舞っていただけないのでしょうか? お蔭で私達も迷惑被っております」
 「主君を諌める事も出来ないのかって。私達は只のご機嫌取りに成り下がっていると。お嬢様のせいで、私達陪臣の面目は丸つぶれです」
 「何故首を突っ込まれるのですか? 平民やスラムの者がどうなろうと公爵家が考える必要はありません」
 「お嬢様、そろそろ王太子殿下の婚約者としての立ち振舞いをお願い致します。このままでは私達は王家にも顔向け出来なくなります」

 「そんな…。貴方達、そう思ってるの? 本気で、そう思ってるの?」

 「当たり前です。さぁ、もうおいたはお止め下さい、お嬢様」
 「これからは上位爵位の誇りを持たれ、その栄華を楽しまれるべきです。お嬢様のこれ迄は間違いなのですから!」

 「カイル、チェレン…、見つけた! そこね!! 『ホーリーバインド』」

 闇の奥、聖なる縛めが魔の眷属を捕らえる。

 「ギャアアア! な、何故? 我が判る?」

 現れる妖魔レムリガン。黒く小さな翼を持つ女の子の姿を持つ妖魔。

 「私だけじゃ無理だけど」
 「お嬢!のフォロー、俺達がしない訳ないだろ?」
 「正体がわかっていれば、対策は万全なのですから」

 後ろから現れるカイルとチェレン。

 「お前達は? 何故? お前達も悪夢に苛まれる筈。こいつと違って神聖魔法は使えないのに!?」

 「悪夢? まさか? 冗談にもならなかったぜ」
 「あまりにも非現実過ぎるのですよ。あんな言い方、聞いた事もありませんので」

 二人は、傲慢な私から散々酷い事言われたらしく。

 「俺達はお嬢!と、それこそ物心つく頃から一緒にいるんだ。お嬢!が何考え、何言いたいか、何やりたいか全部わかんだよ」
 「そしてお嬢様は私達の考え、何を言いたいのか、やはり全部わかっておいでです。まぁ、わかっておいでの上で巧まれる事があるので困っているのですが」

 うわぁ!上げて落とされた!?

 「一つ訂正。物心つく前からよ。この十年の絆は、誰も入る事は出来ない。それこそルーク様だって! うん、だから、妖魔の貴方には理解も出来ないでしょうね」

 私は、拘束した妖魔に近付く。
 「お嬢?」
 「やっぱり、そいつを帰すのですね」

 「帰す? 我を? どうやって?」
 「ね、遊ぼう! 私達と一緒に。悪戯を司る妖魔の貴方なら、遊び疲れたら妖魔の世界に帰れる筈」
 「本気か?」
 「本気!」

 私達は一晩中遊び回った。

 翌日。私達は勿論、合宿に来ていた皆もスッキリしていた。何でも悪夢ではなく、楽しく遊ぶ夢を見たみたい。フフ、良かった。

 「羨ましい。君達の間には、私ですら入り込めないんだね」
 え~と、ルーク様? 拗ねちゃった?

 「わかるからやりにくいんですよ?」
 「そうです。お嬢様は、私達がこれだけ言っても、結局突き進んで行くのですから。私達がどれだけ嘆き、諦めているか、よくご存知の筈なのに!」

 何でブーメラン、返ってくるのよ?
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