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13.世界に愛された娘

前夜

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 成人の儀が終わりました。

 十六歳になって年末近く。個々に成人の御披露目である夜会は行ったのですが、卒業前に皆で集まって行う事になっていました。
 女の子は皆、素敵なドレス姿。男の子も凛凛しい騎士礼装姿です。

 「ルーク殿下、リスティア様」

 気がつけば皆の中心にいる私達。この瞬間は、まだ学友だけの間柄。多少気さくなやり取りで済みます。
 それに、ここにいるのは卒業が決まっている者達。最低でも騎士階級爵位が得られる為、平民はいません。和気あいあいなのは、それも関係してます。

 「後は卒業のみ、か。そしてそれぞれの道を歩む。うん、本当に楽しかった学生生活だったよ」
 にこやかなルーク様に、皆も頷きます。
 「約一名のお陰で、多少波乱万丈だった気もするけどね」

 え? 皆頷いて私を見るのは何故?

 「お嬢、どんだけ規格外だったかわかってる?」
 「カイル? ドラゴンブレス、今日という今日は受けて見よっか?」
 「死ぬ! 死ぬ! お嬢、横暴さがレベルアップしてる!」
 「懲りないですね。本当に二人とも進歩がないと言うか」
 「チェレン? 以下同文!」

 後ろ振り向き様構える私に、チェレンはルーク様の後ろに隠れました。

 「王太子殿下を盾にする? チェレン? 主家としても見逃せません! そこに直りなさい!!」
 「フム、そろそろ止めようかな」

 ムギュ

 私、またルーク様に抱きしめられました。
 「あの? ルーク様?」
 「落ち着いたかな?」
 「抱きしめたら大人しくなると思われたら大間違いですよ?」

 そんな私に、
 「そんな幸せそうな顔で言われても説得力無いですわね、リスティア様」
 ローラが呆れて呟くのです。
 
 「で、もうすぐですわね」
 シャーロットの、少し悪戯っぽい笑み。周りも、解ったようにニヤニヤしています。
 今年度最後のイベント。
 その、ルーク様と私の結婚式です。
 何故このタイミング? 新年度から正式に王太子妃とするように、色々関係各位が調整したみたいで。
 
 とはいえ、卒業式の翌々日というのを考えると中々タイトなタイミングです。慌ただしいし、卒業式に着るドレスとウェディングドレス。王妃様とお母様が気合い入れまくって決めていたみたいで…。楽しそうだから、まぁいいか?
  反面、お父様は日に日に元気が無くなっていきました。いや、何年も前から決まっていたのに今さら? 
 「もう嫁に…、あぁ…、もう嫁に…」
 暗い顔で呟くお父様に、お母様やお兄様は勿論家臣一同関わらない状態になっていて…、あのね。

 同じ立場のはずのエラム伯爵は、そこまでは無いとは言え、やはり鬱ぎ込んでいるらしいとの事。シャーロットもちょっとプリプリしてます。
 男親って、こんなものなのかな?

 「で、カイルも一緒なんだろ?」
 「お陰様で、王太子付き近衛騎士だ。マゼールと一緒」
 「俺達二人、王太子直属。まぁ、王太子妃の護衛も兼ねてるけど」
 「お嬢、もとい王太子妃殿下に護衛がいるか? という声はあるんだけどね」

 聞き捨てなりません。普通は王太子妃は護衛対象でしょう。
 「私を守ってくれないのですか?」
 「この国処か、世界最強なんですよ? 軍団だって瞬殺出来るでしょう?」
 「うーん? 多分、ね」
 私、何せ竜語魔法を使えます。『ドラゴンブレス』一発で万単位の軍勢を瞬殺出来ると思うから。
 
 「やっぱり護衛いらないよね? どちらかと言うといらぬことしないようなお目付け役」
やはり聞き捨てなりません! 私が何をやらかすって?
 「カイル? やっぱりドラゴンブレス受けて見よっか?」
 ムギュ。
 「だから、私暴れませんから。ルーク様?」
 「落ち着いた?」
 「何か不本意です」
 私怒っているんです。プンスカ激おこです!

 …顔緩んでますけど…。
 皆の呆れたタメ息が聞こえてきて…。

 多分最後の、気安い仲間達との気楽なやり取り。
 マリッジブルー、皆無と言ったらやっぱり嘘です。だからこの雰囲気が、空気が本当に楽しかったし、とても嬉しかったのでした。


 ミリュー公爵家での最後の晩餐。
 まぁ、まだ一緒に食べる機会はあるとはおもうのですが、ミリュー公爵令嬢としては最後です。

 お父様、お母様、お兄様。今まで本当にありがとうございました。

 そして結婚式。
 皆の印象に残ったのは、荘厳華麗な式典でも可憐なドレスでもなく、鬼より怖いと言われた国軍司令官ゴードン=ミリュー公爵の号泣する姿でした。

 もう…、お父様の……、バカ。
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