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12.その名は滅亡

変化

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 「ここですか。探しましたよ、女神の封印。いるのでしょうね? ザラード…。かって世界を滅ぼしかけた邪神。復活の時です。くくく、けけけけけけけけけ!」



 リンドガイア王国、王都。
 町外れの丘の中腹に、真新しい建物があります。

 王立苦役・訓練院。別名『竜姫の訓練場』。

 四年前、そう四国交流会の後で、私、『光神竜姫』たるリスティアの提唱で作られた作業訓練施設です。
 ここは、罪を犯した者の苦役作業の場。そして、社会に戻る為に訓練を行う所。
 ここを出た者は罪を償ったと、真人間に戻ったと王国のお墨付きが貰えます。

 四国交流会の時、私は国家反逆罪に問われ、死刑になるべき男を許し、苦役作業を課す事を要求しました。サーモンド王国やヴォルコニア竜帝国は、それをきっかけに死刑廃止に動いたのですが、言い出しっぺの私の国で死刑があるのはどうよ? って話になったのです。
 死刑の代わりに苦役作業を! 
 その為の作業場として苦役・訓練院が出来ました。

 また、貧しい者は学ぶ事も出来ず、盗るしか生きる術がない場合もありました。彼らに、手に職を就けてもらう目的の場としても、と考えて院を設立しました。

 結果、王都の犯罪は減りました。
 ブツブツ言ってた警備隊の方も納得してくれつつあります。

 今、私が苦役・訓練院に向かっているのは、先日の苦役作業中に魔物が出てしまい、撃退したものの怪我人が多数でた事にあります。
 「大丈夫ですか? まずはケガの酷い方から治療していきます」

 一番酷いのは、右腕を喰われてしまった方のようです。腕の欠損回復となると、回復魔法Lv7の『フル・ヒーリング」。強めに魔力を意識して、魔法をかけていきます。

 「凄い、手が…、戻った。ありがとうございます、王太子妃殿下」

 まだ婚約者なのですが。
 「あの? その呼称はまだ…」
 私がそう言うと、大概の方が困惑されます。
 今、十五歳の私は人生の半分以上を王太子の婚約者として過ごしています。
 もう、今更? 公式行事もルーク様の隣で行ってますし、どこ行っても夫婦扱いなのです。

 「二年後は間違いなく、その呼称です。慣れる意味合いでもよろしいのでは?」
 チェレンがタメ息混じりにいいます。
 「それとも? 何がいいです? 俺等みたいにお嬢! と言う訳にもいかないでしょうし」
 「そう呼ぶのは貴方だけですよ、カイル」

 定番の掛け合い。
 「そうね、うん、仕方ない、『ポヨプニちゃん』でいいわよ?」
 プーッ! カイル馬鹿ウケ。

 誰がモデルか知りません。『ポヨプニちゃん』というマスコット人形が大人気なのです。
 介護服姿やドレス姿。竜の姿に学校の制服。バリエーション豊かなこの人形は、胸がとっても大きく、でも男女問わず大人気なのだとか。って、この服のチョイス。「特定のモデルはいません」絶対嘘だ!
 
 その…、ルーク様の愛撫を受けて、順調に育った私の胸は今Gカップです。「たゆん、プニ事件」の時、膨らみ始めで色々あったのですが、去年くらいから人並み以上になってしまい、現在も成長中なのです。

 「笑ってるけどカイル? 貴方が言い出しっぺって、私解ってるんだからね!覚えときなさいよ?」
 「げ! まぢっすか?」
 「やっぱ、貴方が元凶。諸悪の根元なのね」
 「周りが呆れています。お嬢様、公爵令嬢らしくないと言われるのはこの辺が原因かと」
 「親しみやすいって大人気だからいいんじゃね?」
 チェレンは、苦虫噛み潰してる顔してる。カイルは反省の色もなく笑ってます。
 「チェレン? これは、カイルに同意。私の性格、充分分かってるよね」
 「残念でならない所です」
 「よし、後は軽症者かな? カルテは? うん、成る程。じゃ、中庭に集めて」
 「はい。え? あの、二十人はいますが?」
 「一気にやっちゃおう!」

 あれ? 皆目がテン?
 
 「数十人を一気に回復できるの、この国ではお嬢様だけですよ」
 レベルとか呪文の種類とかの問題じゃありません。単純に使用魔力が四桁になるだけです。
 何回か言ってますが、人間の上限は九九九です。四桁は不可能。だからこの国ではって、この世界ではと言い直しても可! 
 でも私の魔力は、今尚成長中。ついに十五万突破しました。
 なので、全然大丈夫です。

 「エブリィヒール!」

 中庭に白い魔法陣が現れ、光が広がります。
 そこにいた全員が回復しました。

 「まだ回復しきってない方います?」

 うん、大丈夫かな?

 皆の感謝を後に、私達は苦役・訓練院を出ました。

 次は民間の診療所。
 実は、ここは密かに『闇教会』という裏の顔があります。繋ぎのカイルを通じて連絡があったのです。

 「モルドが北魔大陸に、それも魔族領に現れました」
 「は? 魔族領に? ギ王国ですか?」
 「そうです。気になるのはその前に数ヶ所寄っている所です」
 「数ヶ所? どこですか?」
 闇司祭は、言い難そうに、
 「女神の封印をご存知ですか?」
 「まさか? 邪神ザラード?」

 邪神ザラード。神話の時代、世界を滅ぼしかけた邪神。光と闇の女神が、二神がかりで立ち向かい封印したという神話が残っています。
 両女神が協力して、というのが引っ掛り、どちらの教会にも認められていない神話なのです。その為、邪神ザラードの存在も長らく実在を否定されてきました。
 封印の地が、魔族領なのも調査の妨げになり、やはり実在を確認出来ませんでした。
 なので、私の知識も神話の、というより物語の一節という意味合いが強いのです。

 「まさか実在する邪神だったなんて」
 「我々も同じ気持ちです。モルドが確信を持って封印を解いていたのも信じられないのですが、彼の動きが、そうとしか思えないのです」
 「何故モルドは確信を?」

 学者でもないモルドが何故?

 「モルドは魔族と深交がありました。娘がレベッカを名乗ったのもそれが理由です」
 「レベッカを名乗った?」
 「レベッカは現魔王の名です。六百年前から魔族の女王として君臨しています。珍しい親人派の魔王です」
 「え? それじゃレベッカは本名じゃなくて?」
 「レベッカ=フォールを名乗っていたと思います。彼女の本名はドリスティア=モルドです」
 「ドリスティア? 私とほぼ同じ? 」
 「違う形で出会いたかった。彼女は、よく、そう言っていました」

 レベッカ…、ドリスティア……。本当に、違う形で出会えていたら…。
 私は、唯声を殺して泣いていたのでした。
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