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10.ともに、生きる未来

恋慕

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 サーモンド王国王都、迎賓館。
 奥にあるシレジア王国用宿泊場のテラスデッキ。

 セシリア王女が、一人で夜空を見ていました。
 ここは、魔法の灯りがともり、薄暗くはない場所。もちろん、怪しい人物など入れないはずでした。

 「あなたは? まさかこんな所に現れるとはね、『使徒モルド』。今度は何をするつもり」
 「今言った通りですよ。ルーク王太子への恋慕の情。このまま封じ込めるつもりですか? くくく、けけけけけけけけけけけけ!」
 「何を…、私の……、想い………。ルーク殿下への……?」
 「けけけけけけけけけけけけ!」

 高笑いとともに、モルドは消えました。

 「私の…想い………、ルーク殿下…………」
 
 
 そのまま、ヴォルコニア竜帝国の宿泊場へ。
 テラスデッキに、同じようにミューク皇太子が、何故か一人でいらしたのです。 

 「『竜の姫』は、竜帝国の皇妃にこそ相応しくはありませんか? ミューク皇太子」
 「あぁ、伝説の『光神竜姫』。我国に来てくれれば」
 「皇室の権威は、益々上がりますよ。国に、連れて帰りましょう。国民も望んでいます」
 「国民…も……、のぞ……んで………。私の…ものに………」
 「けけけけけけけけけけけけ!」


 そして、私達リンドガイア王国用宿泊場。
 実は、港の魔導帆船『プリンス・オブ・ルーク』号に戻っていました。本来はシレジアの隣だったのです。急遽一国増えたので、私達は船に戻ることにしました。
 サーモンドは大慌てだったのですが、ルーク王太子の強い希望ということで。
 
 で、私の部屋に、ルーク様がいます。
 ソファーに座る私の膝枕で、寝てらっしゃるのです。
 フフ、こんな寝顔、見ること出来るの、私の特権です。
 最近はメイド達も察して、この部屋に来るの遠慮がち。

 「うん? あ、ごめん。寝てしまったんだ?」
 「ルーク様、交流会では、他国の方と色々語らってましたから」
 「あれ? ほっといてごめん!」
 「いえ、そんなつもりはありませんよ? 私も女子会楽しかったですので」

 ホッとしたように微笑むルーク様。
 「ありがとう、リスティア。私は、いつも君に甘えてばかりだ」
 「あら、私は嬉しいんですよ? ルーク様が甘えてくださるの。結構幸せ感じてます」
 「私もだ。君が側にいてくれる事、支えてくれる事、甘えさせてくれる事、本当に感謝してるし、幸せに思ってる。後五年、卒業し成人したら、私達は結婚できる。それまでは、頑張らないとね。『光神竜姫』に相応しい王太子に、王になれるよう、頑張らないと」
 「ルーク様?」

 ルーク様は起き上がると、私を見つめて、
 「洗礼で知り合い、同じ学校に入った。スタートは一緒だった。でも、君は『白き聖女』、『神竜の愛娘』、『光神竜姫』。世界が危機に陥る度に活躍して、全ての人の敬愛を得ていく。私は、君の横にいていいのか? 王太子という立場だけで、君に釣り合うのか、思い悩むんだ…。ハハッ、こんなヘタレじゃダメだね。わ? リスティア?」

 私、ルーク様をしっかりと、この胸に抱き締めました。
 「ヘタレじゃありません。本当に弱い人って、そういうの隠します。ルーク様は、全部正直に出してます。私、全部話してもらえる事、甘えてこられる事、本当に嬉しいんです。ルーク様を支えられるよう、安らげる存在になれるよう、頑張ってきたつもりです。だから、その、これからもお側にいさせてくださいね」
 「ありがとう、リスティア」

 久しぶりの二人っきり。幸せな時間。


 翌朝。
 交流の続きともいえる朝食。
 一人一人が、自由に好きな卓で食べられるようになっています。とは言え、大概は国通しで固まるのです。
 雑談しながらの朝食。
 ちょっとお行儀悪いかな?

 そこへ、シャーロットがセシリア王女達とやって来ました。
 「おはようございます、ルーク王太子殿下。リスティア様」
 「おはようございます。セシリア王女様、バンダボアヌ公子にシャーロット嬢」

 え?セシリア王女様、ルーク様の隣に座った?
 向かい合わせに私がいる以上、一つ席を空けるのが暗黙の了解なのに?
 しかも、随分胸の開いたドレス。スタイルのいいセシリア様に、とてもお似合いです。でも、何か違和感があります。うん? 迫ってる?何か釈然としません。

 会話は日常の、たわいもない事でした。
 そして食事も終わり、私達は席を立とうとした時、

 「ルーク殿下? ちょっとよろしいかしら?」
 「ええ、セシリア王女」

 王女様がルーク様を呼び止めました。なんだろう?妙に違和感があるのです。

 二人で談話室に行かれるのを見送っていると、シャーロットが近付いて来ました。

 「リスティア様、本来はこのような事、どうかと思うのですが…」
 「ありがとう、シャーロット様。何となく言いたい事分かります」
 「実は夕べから、思い悩んでいるような…、その、恋する乙女の雰囲気が出始めて」
 「昨日言われたルーク様への想い、やはり本物なのでしょうね。想いが溢れ始めたのではないでしょうか?」

 困りました。
 外交を考えると、正式にシレジア王国から申し込まれた場合、断る訳にはいかないと思うのです。ルーク様の意向に関係無く、私は身を引くべき。
 でも、ルーク様は下手すると出奔してしまうかもしれません。自惚れかもしれませんが、私、それくらい愛されてるって思えるのです。

 シャーロットに、そう言ってみたところ、
 「自惚れなものですか! 昨日も言いましたよ? 殿下はリスティア様にゾッコンです! 身を引くなんて言ったら、太子の座さえ棄ててしまいますわ!そして、キャアー! 駆け落ちですわ!!」
 「え~と、楽しんでる?シャーロット様」
 「失礼、リスティア様。と、あれは? ミューク皇太子様?」

 思い詰めた顔で、やって来たミューク皇太子様は、私に求愛したのでした。


 「くくく、恋のキューピッドは、これ程楽しいものなのですね。けけけけけけけけけけけけ!」
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