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9.神竜伝説の始まり

竜姫

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 リンドガイア王国王宮。
 王妃視点

 王太子達が出かけて一ヶ月。 日常の合間に三国交流会の話題がのぼっていた頃でした。
 突如、『ヴォルコニア竜帝国、サーモンド王国へ侵攻』の報が入り騒然となったのです。あの子達、捲き込まれなければいいけど? 無理かしら?
 王太子の恋人、いえ、婚約者の公爵令嬢。あの娘はおそらく手をさしのべる。出来る事を精一杯やろうとする。だから、きっと…。

 国王陛下が情報の集約を始めた。閣僚達も集まって来てる。あら?ミリュー公爵夫人?

 「アイラ? 貴女はどうして?」
 「夫に付いてきました。それにロザリーからも呼ばれましたし」

 そんな中陛下が発表したのは、
 「水晶球のホットラインからだが、ヴォルコニアの一部軍人が勝手に攻めこんだようだ。ヴォルコニア自体も討伐軍を出す事、皇太子の名で宣言された」
 
 「王太子達は無事に避難をしているのでしょうか?」
  一番気になっている事を尋ねます。
 「交流式典を控え王宮にいるようだ。後は随時くる報告を待つしかないが…」

 ホットラインや魔導帆船艦長からの続報が届きました。
 「陛下?」
 「ルークが王太子の名で参戦した。攻めこんでいるのは騎竜軍団、『ドラゴン・マスター』ダイン。背後に『使徒モルド』がいると。奴の策から船を守りキリー=フォールが亡くなった。その功により王太子の名で恩赦した。フム、ゴーマ家へ伝えよ」

 あの子が自ら参戦? やっぱり、いい夫婦になりそうね。
 「うちの娘の悪影響ですか? どうしましょう」
 思ってないでしょう?アイラ?

 「リスティア嬢が暗黒竜『ボスコーン』と戦っているそうだ。ほぼ互角らしい。流石よの」
 「また?竜とサシで戦っていると? あなた?どうする?」
 「うぅ~む。フム。うぅん」
 「あ!な!た‼︎?」

 あらあら?こっちの夫婦は戦い?
 そして、とんでもない続報が!

 「リスティア嬢が竜語魔法を唱えた? うん? 映像がきた! これは…」

 水晶球に映し出されたのは、白銀の鎧に身を包み銀色に輝く二枚の翼を広げた美しい少女戦士!

 「ヴォルコニアに伝わる竜の姫戦士!『光神竜姫』の姿だそうだ」

 竜語魔法。光神竜姫! アイラ? あなたの娘は、王家ですら勿体無い嫁かもしれないわね。


 サーモンド王国、カリマ平原。

 『光神竜姫』の力を得て私は暗黒竜『ボスコーン』と対峙しています。
 
 これ、凄いです! 
 鎧は暗黒竜の炎や爪を防ぎ、剣は暗黒竜の爪や鱗を容易く切り裂きます。

 「ならば、ウゥゥグォォォオオ!」

 炎が 大きく? またブレス? こっちだって!

 「真なる炎で全てを焼き尽くせ。『ドラゴン・ブレス』!」

 魔力が竜の顎を作り出す。
 そこから迸る白色光の炎! 竜語魔法Lv2『ドラゴン・ブレス』‼︎

 炎がぶつかり合う。互角!

 「おのれ…、おのれ!『ゼルメイド』‼︎」
 「『ボスコーン』、自分の世界に帰ってください。人の争い事に手をださないで!」
 「な!…何? 我に去れと言うのか?」
 「『使徒モルド』と何か約定があるのですか?」
 「あるが…、上位者の命令で上書きできる。お前がそれを望むのか?」

 上位者? 『使徒モルド』より、『ドラゴン・マスター』より上? 命令できる? 今の私が竜の姫だから?

 「望みます。暗黒竜『ボスコーン』!この地より去りなさい! そして人の争い事に干渉せず見守る事を命じます‼︎」
 「委細承知!」

 暗黒竜が天空に去って行きます。
 って事は? 飛竜にも伝わる?

 「飛竜に命じます。皆、戦いを止めて地上に降りてください」

 あ、通じた!
 騎竜軍団の飛竜も、皇太子の軍の飛竜も全てが戦いを止めて降りて行きます。

 「ルーク? 凄いな、お前の嫁さん!」
 「年々規格外がパワーアップしてるなぁ」

 む? ルーク様? 今何て?
 この姿、聴覚とかいろんな感覚鋭くなってますからね?

 「フフフ、フハハハ! 流石は『神竜の愛娘』いや、『光神竜姫』と呼ぶべきか?こんな、こんな無様な結末なぞ…」

 え? 『ドラゴン・マスター』ダイン? 
 飛び掛かってくる? でも。

 バキィッ 「グハッ」

 さっきまで暗黒竜と戦っていたんですよ。『リフレクト・シールド』が、まだ掛かってます。

 「ここまで…か? フフフ、所詮道化か? まぁいい。意地は通した。通して終わりだ」

 ガッ、キィン。ズザッ。

 己が首をはねようとする剣を撥ね飛ばします。そのせいで後ろにひっくり返りましたけど。

 「何故?」
 「意地なんかで死なないでください。償いでも。兎に角死なないでください!」
 「何故我を生かす? 世界に戦乱を起こした。国に反乱を起こした。どうせ死罪だ」

 ダインが私を睨んでいます。
 死罪。そうかもしれないけど。

 「私、誰も死んでほしくないんです。生きて償ってください。やり直してください」

 あの決意の目を私は思い出す。

 「世界を一つにしたかった、ですよね。あなたは力で統一しようとした。負けても皇太子はゆくゆく同盟を結んでいく。世界は一つになっていく。どっちでも良かった。だから『使徒モルド』の話に載った」

 ダインは何も言わない。唯睨み付けてる。

 「手段は間違えてると思います。だから止めました。でも目的は同じです。同じ方向を見てます。お願いです、見届けてください。導いてください。あなたには力があります。私達子供に助言指導できますよね。お願いします。生きて、生きて、導いてください。生き恥と思うならそれを償いとしてください!」

 長い沈黙……。あ、ダインが剣を降ろした。判ってくれたのですか?

 「好きにしろ」

 次はミューク皇太子。それにロディマス王太子。

 「ダインを死罪にせず償わせてくれますか? 本来はヴォルコニアの、或いはサーモンドの法で裁かないといけません。私が口を出す事でないのはわかってます。でも、お願いします。ミューク皇太子様、ロディマス王太子様。ダインに、世界を導いてもらう事を償いとさせてください!」

 「竜帝国とすれば『光神竜姫』は神にも等しいのですよ。貴女の言葉、希望に私は応えます」
 「サーモンドとしては色々異論も出るでしょう。だが、私の一存でやはり我が国も応えたい。目的は世界を一つに! ならば、より現実的な提案を是とすべきだ」

 「ありがとうございます」

 竜変身が解け、私は人の姿に戻りました。
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