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5.白き聖女の伝説

死竜

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 「さぁ、復讐の時は来ました!」
 「人間? 何故ここに? 我に何をした?」
 「怨みを晴らす手助けをしただけです」

 怨み。
 我は長い間ここに住んでいた。
 後から来たはずの人間どもが我を狩ろうと挑んで来るようになり、ただ追い払っただけなのに邪悪な存在として最終的に打ち倒されてしまった。
 その我を、今無理やり起こしたのも人間!

 「人間どもが、何処まで我に仇なす気だ」
 我の怒りを知るがよい!

 骨の身でありながら邪竜は動き始めました。

 「くくく、けけけけけけけけけけ!」


 港町バノア。
 今、ロザリー様の神聖魔法が海からやって来るゾンビを消滅させていきます。

 「数が多すぎるわ!『ターン』が追い付かない!」

 死霊を滅ぼす神聖魔法ターン・アンデッドは、座標固定型の魔法です。発動した聖なる大地の元に還す魔法。魔法陣から出ていかれると全く無駄になってしまうのです。
 ロザリー様だけではなく、冒険者も聖属性の武器や炎の魔法付与の剣で戦ってはいるのですが、次から次へと海から上がってくるゾンビに対応しきれていないのでかなり厳しい状況らしいのです。

 また港町ジノスも、同様にアイラお母様が孤軍奮闘していました。
 「やばいわね?全く」

 そんな報告が王宮に入ってきた矢先。
 
 「大変です。邪竜の谷から骨のみの竜が現れ、回りを攻撃しながらこの王都を目指しているとの事」
 「回りをゾンビが追従していようです」

 「これが本命か?くそっ、おのれモルド!!近衛騎士団から神官兵を向かわせろ!」
 お父様の怒声!!

 「王都の防御を固めんとな。今儂にできるのはそれくらいじゃ」
 教皇グラント公爵が防御魔法を唱えます。少なくとも死霊が王都に入るのは難しくなりました。
 「じゃが、回りの被害は?」
 「避難を急がせています」

 地図を見ていたお父様の怒声が響きます。

 「ここだ、西風平原で食い止める。ここから先は、ミナ村、ウナス町、王都。どんどん人口が増える。被害がでかすぎる! むう?だが、間に合うか?神官兵は?」
 「集結はしていました。が今から出ても多分ミナ村は…」
 「ええい!何たることぞ!骨竜の足止めは?」
 「冒険者とラドー村の司祭が!ですが」

 重い雰囲気。竜の足止めなんて余りにも厳しい状況。死霊魔法使いの仕掛けた実験は王国を大混乱に落としたのです。

 「ロザリー殿かアイラはまだ動けないのか?」

 まさか二つの港町が陽動とは。王国最強の魔法使いが二人とも出向いてしまった。お父様の焦りはそれだけ王国の危機の大きさを物語っています。

 「ミリュー公爵」
 「これは王太子殿下。状況は厳しいですが大丈夫です。騎士団は負けはしません!」
 「リスティア嬢を見なかったか?何処にもいないのだ!」
 真っ青になるお父様。その、ごめんなさい!

 「娘を!リスティアを誰ぞ見なかったか? カイル?チェレンは?ええい?どこに行った?」

 しばらくしてチェレンが王宮大広間に現れました。

 「チェレン?一人か?娘は?カイルは?まさか」
 「チェレン?やっぱりリスティア嬢は?」

 ごめんなさい、チェレン!酷い役回りさせて。

 「骨のみの竜が現れたと聞いて、二人はすぐ飛び出しました。あの、マゼールさんも一緒です」

 臣下の礼をとり、顔をあげないままチェレンは応えます。

 「あの、跳ねっ返りめ!」
 今日一番の怒!ホントにごめんね、チェレン‼︎

 西風平原。ここから先は行かせません!
 冒険者達が必死に頑張り司祭が防御と回復をしています。

 「右」「じゃこっち!」
 カイルとマゼールさんがゾンビの群れ?に飛び込み凪ぎ払っていきます!勿論炎属性付与の剣で!

 「左いきます!」
 私は炎属性魔法Lv5 爆裂魔法メガ・フレイムを唱えます。
 「大いなる炎で、敵をなぎはらえ!メガ・フレイム!!」

 大地が炸裂しゾンビもろとも炎に包まれました。
 でも範囲が足りません。それに乱戦のところではこの呪文は使えない!
 死霊のみに使えるのは? 今の私にできる?

 やるしかない!場所は?
 回りを見回します。あの位置! ゾンビも多いし、よーし!跳ぶ!お母様が唱えてたのは?

 「我願う!双脚は大地を離れ飛翔せん!フライト!」

 魔法陣が足下に広がり私は浮き上がります。
 行っくぞー!

 「お嬢!」
 「リスティア様!お一人では」

 平原にある高台。ここで決める!
 「自然の法に抗う者よ、我、ここに安息の地を作らん!今、女神の御名において、この聖なる大地に還りなさい!エリア・ターン!!」

 私の足下から広がる魔法陣!神聖魔法Lv4 エリア・ターンが発動。やがて聖なる白色の輝きは平原全てを包んでいきます!

 「お嬢!」
 「リスティア様!本当に白き聖女たるお姿!」

 ゾンビの殆どが消滅し、残っているのも弱々しく立っているだけ!冒険者達が残らず打ち倒したのです。でも、

 「骨しかないのに飛べるの?」

 魔法なのか?骨竜は天空にいたのです。

 「何処まで、何時まで邪魔をする!何故、我に仇なす?」

 竜の怒りが天空に轟きました!
 その怒りが想いが私に届く?

 「ごめんなさい!人間の身勝手であなたに迷惑をかけたのですね。もう煩わせないから、どうか谷へ還り眠りについてください!」
 「消えろ!人間‼︎」

 雷が向かってくる!フライト!

 私は空中で骨竜と対峙しました。お願い!怒りを沈めて‼︎

 「邪竜と白き聖女が…」
 「お嬢! くそっ、何もデキねえ‼︎」

 その頃、王都からお父様に率いられた神官兵の一軍が懸命に西風平原へ向かっていました。
 その中には、ルーク王太子殿下の姿も!

 「無茶するなよ、無事でいてくれ!リスティア」
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