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第36話 生と死の境界
しおりを挟む『さて、私の命を奪った報いを受けてもらいましょうか? 裏切り者も一緒にね』
栞が造り出した人型機動兵器オロチが延ばした両腕の襟元から筒状の物体が飛び出しそれぞれの手に握られる。
オロチはそれらを胸の前で接続し一本の長い棒状の物体を作り上げる。
すると両の先端から互い違いの向きに反ったビームの刃が出現した。
「鎌? それも両刃の……?」
モニカの台詞に疑問符が付くのも無理はない。
通常、鎌と言ったら棒のどちらかにだけ大きな刃がついているものだが、オロチの持つ得物はどちらにも刃がある。
これでは振り回した際に己をも傷付けてしまう危険性が常に伴う。
恐ろしく扱いが難しいはずだ。
しかしオロチはそんな心配どこ吹く風と言わんばかりに自由自在に回転させ振り回す。
そのビーム刃の描く軌跡はまさしく光の環であった。
『さあ行くわよ!!』
オロチは無軌道にそのビーム鎌を振り回しながらレヴォリューダーに突進を仕掛けて来た。
『なんの!!』
しかしミズキは紙一重でその攻撃をかわしていく。
『小癪な!! これでどう!?』
オロチは何度もレヴォリューダーに挑みかかるが鎌は機体を捉えることが出来ない。
『どうしてよ!! 何で私の攻撃が掠りもしないの!?』
『無駄だよ栞……その程度の攻撃は僕らには効かない』
ミズキのAIメモリに蓄積された戦闘データの分析により今のオロチ程度の攻撃と速度は既にミズキとレヴォリューダーにとって最早脅威とは呼べないものとなっていた。
それどころか攻撃パターンの先読みによって鎌を避けた機動力を利用して強烈な蹴りをオロチの腹部に見舞った。
『きゃああっ!!』
悲鳴を上げ突き飛ばされるオロチ。
『このっ下衆っ!! あんたには罪の意識は無いのかしら!? 私はあなたの偽善的行為によって理不尽に命を奪われたのよ!? 私の復讐を甘んじて受ける義務があなたにはあるはずだわ!!』
感情的にミズキに罵声を浴びせかける栞。
既に彼女の主張は理不尽であり倫理的に破綻してきている。
『さっきも言ったけど僕が君の命を奪ってしまった事について罪の意識はある……でもね、親友であるモニカまで手に掛けようという今の君を認める事は出来ないね』
『うるさいうるさい!! あんたの味方をした時点でモニカは私の敵だわ!! 前世ではお互い友達以上の感情を抱いていた相手に裏切られたのよ!! こんな事ってある!? 私にはその裏切り者を裁く権利があるわ!!』
「はっ……」
モニカの目じりに涙が溜まっていく。
転生前、モニカと栞は女性同士でありながら男女間で抱く感情をお互いに持っていたのだ。
しかし今のモニカに前世の記憶は無い。
その記憶を持っているのは脳内にアクセスした時に現れる吉川モニカの方だというのに栞の言葉の刃は今のモニカすら傷つけたのだ。
『お前っ!! 言っていい事と悪い事があるぞ!!』
その様子を見たミズキが激昂する。
逆にレヴォリューダーの方からオロチに攻撃を仕掛けに行ったのだ。
ミドルソードで切り掛かるもビーム鎌で防がれた。
再びソードを振り上げオロチに切り掛かったその時、レヴォリューダーは背中に衝撃を感じた。
『何っ!? 今のは……』
レヴォリューダーの背面のバックパックから煙が上がる。
何かが背後から射撃をして来たのは明らかだ。
『誰か今の攻撃を観測したか!?』
『いいえ、そもそもこの宙域に敵の機影は皆無だわ』
ミズキの問いにルミナが答える。
『じゃあ今のは……』
『隙ありだわ!!』
オロチの鎌がレヴォリューダーの左脇腹にヒットする。
「きゃああっ!!」
『モニカ!!』
コックピット内に爆風が流れ込む。
『大丈夫かモニカ!?』
「うっ……」
モニカが左脇腹を押さえている、そこからじわじわと赤い染みが広がっていく。
先ほどの攻撃で吹き飛んだ無数の破片が彼女の脇に突き刺さったのだ。
しかしそれに気を取られている隙にまたしてもどこから飛んできたか分からない射撃を左腕に受け前腕部が爆散した。
「ああっ!!」
衝撃に翻弄されてモニカの身体が揺さぶられていく。
脇腹に怪我をしているモニカに堪ったものではない。
既に意識が朦朧としグロッキーだ。
ここから先のレヴォリューダーの操縦はミズキが担う事になった。
『くそっ!! 何がどうなっている!?』
『ミズキ、僅かだけど今の攻撃の僅か前に九時の方向に空間の歪みを感知したわ』
『何だって!? ナナ、それってまさか……』
『ええ、そのまさかよ、さっきの壊しても壊しても復活する奴の身体の部品がどこから飛んできているのか分からなかったでしょう? きっと同じ技術を使ってるわね』
『何だよ、二人だけで通じ合いやがって、俺たちにも情報を共有させろ』
『分かったよ』
ミズキはナナと推測した仮説をティエンレンたち他のAIにも共有させた。
『きっとあれでしょう? ダンテ博士が言っていた相転移航行って奴』
『ちょっと待てよルミナ、その技術は艦の高速移動に使う奴じゃないのか?』
『そうね、でもそれを攻撃に転用したんでしょう……恐らく砲台か何かをその相転移で出したり引っ込めたり移動させたりしているのでしょう』
『馬鹿な、有り得ない、俺がやっていたミサイルやシールドユニットの制御とは比べ物にならない程の精密で膨大な情報を処理しなきゃならないんだぞ、それをあの栞とかいう奴がやってのけたってのか?』
ティエンレンは信じられなかった、栞は自分たち超AIより劣る存在だと高を括っていたからだ。
しかしそれは現実に起こっている。
『まさに復讐のための執念が成せる業って訳だな……既にAIの範疇を超えている』
『僕らがそれを言ったらダメだろう? ティエレン』
『違いない』
ミズキの指摘にティエレンは苦笑いをした。
『何をごちゃごちゃ言ってるのかしら!? 戦っている相手は私でしょう!?』
オロチの振り下ろすビーム鎌をソードで受け止める。
『モニカが危険な状態だ、早めに決めるぞ!! ルミナとナナは周囲の警戒を!! そして空間の歪みを観測したらティエンレンに座標の提示を!!』
『分かったわ』
『OK!!』
苦痛に歪むモニカの顔を伺いながら指示を出す。
『ティエンレンは彼女たちの教える座標をいつでも狙撃できるように待機していてくれ!!』
『心得た』
ティエンレンの操作でレヴォリューダーのサブアームが小型のビームガンを構えた。
『さっきの私の攻撃で機動力が落ちた様ね、段々攻撃がかわせなくなってる』
激しくお互いの武器をぶつけ合う。
近接戦のパワーだけなら互角の様だ。
『へっ、これくらいが丁度いいハンデだよ』
『キーーーーッ!! 口が減らないわね!!』
激しい攻撃の応酬、だがまだ不意打ちが来る様子は無い。
(しっかり見ててくれよ)
ミズキはそう念じ、わざと大振りの攻撃を繰り出す。
(来た、6時の方向……ティエンレン)
(分かってる)
後方監視カメラが背後の空間から丁度顔を出すバイパー戦で皆を苦しめたあの
蛇型の分離体を発見した。
『今だ!!』
サブアームのビームガンが火を噴くと見事分離体を撃破、爆発を起こす。
『そんな、何故分かったの!? 何故そんな精密な射撃を!!』
『俺は一人じゃない、仲間と役割を分担して戦っている、パートナーを丸飲みにして取り込むお前とは違うんだよ!!』
狙撃を阻止したことで邪魔の入らなかったレヴォリューダーの攻撃がそのままオロチを襲う。
レヴォリューダーのミドルソードが袈裟斬りの状態でオロチの肩口から腹の辺りまで切り進み止まった。
『そんな!! こんな所で私は死ぬの!? 嫌っ……いやぁーーーー!!』
『ミズキ離れろ!! 爆発するかもしれないぞ!!』
『そっ、そうだな……』
レヴォリューダーは機体を転身させ飛び立とうとした。
しかし再び栞を手に掛けてしまった罪悪感と破損したバックパックの不調から一瞬だけ操作が遅れたその時だった。
レヴォリューダーの脚部に何かが巻き付いている。
オロチの尻尾だ。
『私だけが死ぬなんて嫌……あなた達も道連れにしてあげる……』
『お前……!!』
ミドルソードで尻尾を切り落とそうとしたが、一瞬早くオロチの頭部にある蛇の目からビームが発射され右手が破壊された。
『しまった!!』
『ウフフフッ……これであなたは逃げられない……』
オロチがレヴォリューダーをある方向へと引っ張っていく……その方角には惑星ガイアがあった。
『まさか……大気圏に引っ張り込むつもりか!?』
『その通りよ、一緒に灼熱の旅路を愉しみましょう』
引く力が一気に強くなる、惑星ガイアの重力に捕まってしまった様だ。
『まずいぞ、このまま大気圏に突入したら破損した部位から熱が入り込んでモニカが焼け死んでしまう!!』
『そもそもこのレヴォリューダーは単体で大気圏に突入するようには設計されていないわ、燃え尽きてしまうわよ!!』
『それって私達もヤバくない?』
『落ち着けみんな!!』
超AI達もパニックを起こし始めていた。
徐々に上昇していく気ない温度……このままでは確実に誰も助からない。
万事休す……ミズキ達はこの難局をどう乗り切るのか。
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