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第8話 グロリア、大いに悩む
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あの決闘とキス騒ぎから五年…シャルロットとグロリアは十三歳、ハインツは十六歳になっていた。
決闘の次の日からシャルロットとハインツは早朝に城の中庭で武芸の稽古を一緒にするようになっていた。
ハインツは乗り気ではなかったが師匠が同じグラハムなのをいいことにシャルロットによって半ば強引に押し切られた形だ。
そして現在、実戦形式で練習試合を行っている所であった。
「ふっ…!!はっ…!!」
「はああああああっ!!」
大人顔負けの立ち回りを見せるシャルロットとハインツ。
目にも止まらぬ速さで剣と槍を打ち合い闘志の火花を散らす。
しかしその傍らで中庭の縁石に腰掛け、物憂げな顔でその様子を見守っている赤いミニスカートに白いオーバーニーソックスのメイド服の少女が居た…グロリアだ。
彼女は武芸の心得は全く無くこの稽古も見ているだけで参加はしていない。
元々大人しい性格なのもあり人を傷つける事を好まないのだ。
「はぁ…」
二人の試合を前にため息を一つ吐く…実はこのため息は二人の稽古が始まった時からほぼ等間隔で吐かれており、すでに何度目か分からない。
しかしグロリア自身も何でこんなにため息が出るのか分かり兼ねていた。
ただ、ため息が出る時は決まってシャルロットとハインツが二人で何かをしている時という共通点がある事だけは薄々気付いていた。
(何だろう…シャル様とお兄様が一緒に居るのを見ると何て言ったらいいのか分からないこの胸を締め付けられる様な感覚…)
不思議なのは三人一緒の時と、自分とどちらか一方が一緒にいる分にはこの胸の締め付けが起らない事だ。
だが結局のところそれ以上の事は分からないままだ。
五年前に二人がシャルロットのお付きになった当時と今とでは少し生活スタイルに変化があった。
最初の内はただ彼女の遊びに付き合っていただけだったが、二年が経った辺りからハインツはシャルロットと一緒に武芸の稽古、グロリアはシャルロット専属の侍女になるべく彼女の身の回りの世話をするように仰せつかっていたのだ。
だからグロリアは白いヘッドドレスに赤いメイド服といういで立ちなのだ。
ただ、侍女と言ってもまだ住み込みと言った本格的なものではなく、夜になれば自宅へ帰れるいわば通いの状態である。
この侍女になる事は父、サザーランド卿に命ぜられて始めた事なのだ…グロリア自身も自分に良くしてくれるシャルロットに仕える事はやぶさかではないのだが、本当にこのままで良いのかと考える事が多くなっていた。
「はい!!では二人共、今日はここまでにしておきましょう!!」
「はい…」
「…はぁはぁ…」
グラハムの合図で一斉に地面にへたり込む二人。
彼の指導はその柔らかな物腰とは正反対に厳しい事で有名で、王族であるシャルロット、伯爵の息子ハインツに対しても容赦がない。
そのせいもあって稽古が終わるといつも二人はしばらく倒れ込んだまま動けなくなってしまうのだ。
そこへタオルと水の入った容器を持ったグロリアが慌てて駆け寄りシャルロットたちに手渡す。
「…いつもありがとうグロリア…」
「サンキュー…助かるよ…」
受け取ったタオルで顔の汗をぬぐう。
ハインツに至っては水を頭の上からかけていた。
「ねえどうだった?今日の僕の剣は」
「俺に言わせればまだまだだな…何せ一撃一撃が軽すぎる…」
「ひっど~~い!!あれでも頑張ったんだよ!?」
シャルロットとハインツの武芸の実力は徐々に開き始めていた。
ハインツが年上で経験があるというのも原因の一つだが、まずは体格差が大きい。
シャルロットが勉学や公務を務めている時間にもハインツは筋トレなどの鍛錬を欠かさない…差がついて然るべきなのだ。
仮に今、二人が真剣勝負をしたとしても、もう五年前の決闘の時の様な番狂わせは起こらないだろう。
「…お前はこれ以上強くならなくていい…俺が強くなってお前を守ればいいだけの話だ…」
「えっ?ハインツ…それって…?」
「ばっ…!!馬鹿っ!!変な意味にとるんじゃね~ぞ!?これはお前の護衛として当然の事なんだからな!!」
ハインツは顔を真っ赤にして目を逸らす…その横顔を優しく見つめるシャルロット。
トクン…
(えっ…何…?)
グロリアの胸が締め付けられる。
「あっ…ハインツ、顔が汚れているよ」
手を伸ばし自分のタオルを使って彼の顔を拭おうとする。
「…いいって!!自分で拭くから…!!」
「遠慮する事無いじゃない…あっそれとも恥ずかしがってるの?」
嫌がって逃げるハインツを面白がってシャルロットが追いかける。
まるでカップルがじゃれ合っている様だ。
トクン…
(あっ…また…)
さっきより強い締め付けにグロリアは両手で胸を押さえる。
もうどうしていいか分からなくなり、二人に何も告げずよろよろと中庭を去っていった。
追いかけっこに夢中になっていたシャルロット達がグロリアがいない事に気付いたのは暫く経ってからであった。
「グロリア…あなた、それは嫉妬ね…」
「…嫉妬…?」
城の使用人や侍女の為の休憩室で、事情を話した先輩メイド、リサからそう言う答えが返って来た。
リサはグロリアより二つ上の十五歳、栗色の髪のポニーテールにそばかすだらけであか抜けないが愛嬌のある顔をしている。
平民出身でありながら王城に仕える事を許されるのは実に稀で、周りの使用人仲間もその理由は知らない。
性格は明るくうわさ話と恋の話に目が無い、いたって普通の少女だ。
彼女のメイド服は実にオーソドックスな紺色の物でスカートの丈も足首位まであり他のメイドも同様の物を着ている。
実はグロリアの赤いミニスカメイド服はシャルロットの趣味が多分に盛り込まれたオーダーメイドであった…完全に職権乱用である。
リサはグロリアにメイドの仕事の基礎を教えた人物で、人見知りがちなグロリアが城内で打ち解けている数少ない人物だ。
「きっとあなたは愛しのお兄さんをシャルロット姫様に取られそうになっているものだから無意識の内に姫様に嫉妬しているんじゃないのかしら?」
腕を組んでうんうんと何度も頷くリサ…自分の推測に余程自信があるらしい。
「う~~~ん…そうなのかな…」
確かに兄、ハインツは友達も無く引きこもりがちだった自分に付き合って色々と世話を焼いてくれた…しかし果たして自分はそこまで兄に固執していたのだろうか?
グロリアにはよく分からなかった…。
「私の見立てだとあれはさ…完全に姫様の方がハインツさんにゾッコンよね…
ハインツさんは奥手で押しに弱そうだからこのままだと簡単に落ちるわね…」
「えっ…?」
トクン…
またしてもグロリアの胸が高鳴る。
ただ二人がそういった関係になると聞かされただけでこうなのだ。
やはりリサの言う嫉妬の線はあながち間違ってはいない様だ。
「お兄さんを取られるのが嫌なら何か行動を起こした方がいいんじゃないかしら?」
「一体どうすれば…」
「それは簡単!!二人っきりにさせなければいいのよ!!」
ビシッとグロリアの顔の前に人差し指を向けるリサ。
「…なるほど」
リサにすっかり乗せられ段々とその気になって来たグロリアは早速行動に出る事にした。
「あの…グラハム様…」
「おや…?グロリアさん、あなたの方から話し掛けてくるなんて…一体どうしたのですか?」
シャルロット達に稽古をつけ終わり、帰ろうとしていたグラハムを呼び止めた。
暫し言いよどむグロリア。
「………私も…私も明日から朝の稽古に参加させて頂けないでしょうか…?」
「えっ…?」
予想だにしない彼女の申し出に戸惑うグラハム。
本当に自分はシャルロットに対して嫉妬しているのかどうかまだ確信は持てない…しかしこの胸の痛みが解消できるならただ行動あるのみ…悩める少女グロリアの自分探しが始まった。
決闘の次の日からシャルロットとハインツは早朝に城の中庭で武芸の稽古を一緒にするようになっていた。
ハインツは乗り気ではなかったが師匠が同じグラハムなのをいいことにシャルロットによって半ば強引に押し切られた形だ。
そして現在、実戦形式で練習試合を行っている所であった。
「ふっ…!!はっ…!!」
「はああああああっ!!」
大人顔負けの立ち回りを見せるシャルロットとハインツ。
目にも止まらぬ速さで剣と槍を打ち合い闘志の火花を散らす。
しかしその傍らで中庭の縁石に腰掛け、物憂げな顔でその様子を見守っている赤いミニスカートに白いオーバーニーソックスのメイド服の少女が居た…グロリアだ。
彼女は武芸の心得は全く無くこの稽古も見ているだけで参加はしていない。
元々大人しい性格なのもあり人を傷つける事を好まないのだ。
「はぁ…」
二人の試合を前にため息を一つ吐く…実はこのため息は二人の稽古が始まった時からほぼ等間隔で吐かれており、すでに何度目か分からない。
しかしグロリア自身も何でこんなにため息が出るのか分かり兼ねていた。
ただ、ため息が出る時は決まってシャルロットとハインツが二人で何かをしている時という共通点がある事だけは薄々気付いていた。
(何だろう…シャル様とお兄様が一緒に居るのを見ると何て言ったらいいのか分からないこの胸を締め付けられる様な感覚…)
不思議なのは三人一緒の時と、自分とどちらか一方が一緒にいる分にはこの胸の締め付けが起らない事だ。
だが結局のところそれ以上の事は分からないままだ。
五年前に二人がシャルロットのお付きになった当時と今とでは少し生活スタイルに変化があった。
最初の内はただ彼女の遊びに付き合っていただけだったが、二年が経った辺りからハインツはシャルロットと一緒に武芸の稽古、グロリアはシャルロット専属の侍女になるべく彼女の身の回りの世話をするように仰せつかっていたのだ。
だからグロリアは白いヘッドドレスに赤いメイド服といういで立ちなのだ。
ただ、侍女と言ってもまだ住み込みと言った本格的なものではなく、夜になれば自宅へ帰れるいわば通いの状態である。
この侍女になる事は父、サザーランド卿に命ぜられて始めた事なのだ…グロリア自身も自分に良くしてくれるシャルロットに仕える事はやぶさかではないのだが、本当にこのままで良いのかと考える事が多くなっていた。
「はい!!では二人共、今日はここまでにしておきましょう!!」
「はい…」
「…はぁはぁ…」
グラハムの合図で一斉に地面にへたり込む二人。
彼の指導はその柔らかな物腰とは正反対に厳しい事で有名で、王族であるシャルロット、伯爵の息子ハインツに対しても容赦がない。
そのせいもあって稽古が終わるといつも二人はしばらく倒れ込んだまま動けなくなってしまうのだ。
そこへタオルと水の入った容器を持ったグロリアが慌てて駆け寄りシャルロットたちに手渡す。
「…いつもありがとうグロリア…」
「サンキュー…助かるよ…」
受け取ったタオルで顔の汗をぬぐう。
ハインツに至っては水を頭の上からかけていた。
「ねえどうだった?今日の僕の剣は」
「俺に言わせればまだまだだな…何せ一撃一撃が軽すぎる…」
「ひっど~~い!!あれでも頑張ったんだよ!?」
シャルロットとハインツの武芸の実力は徐々に開き始めていた。
ハインツが年上で経験があるというのも原因の一つだが、まずは体格差が大きい。
シャルロットが勉学や公務を務めている時間にもハインツは筋トレなどの鍛錬を欠かさない…差がついて然るべきなのだ。
仮に今、二人が真剣勝負をしたとしても、もう五年前の決闘の時の様な番狂わせは起こらないだろう。
「…お前はこれ以上強くならなくていい…俺が強くなってお前を守ればいいだけの話だ…」
「えっ?ハインツ…それって…?」
「ばっ…!!馬鹿っ!!変な意味にとるんじゃね~ぞ!?これはお前の護衛として当然の事なんだからな!!」
ハインツは顔を真っ赤にして目を逸らす…その横顔を優しく見つめるシャルロット。
トクン…
(えっ…何…?)
グロリアの胸が締め付けられる。
「あっ…ハインツ、顔が汚れているよ」
手を伸ばし自分のタオルを使って彼の顔を拭おうとする。
「…いいって!!自分で拭くから…!!」
「遠慮する事無いじゃない…あっそれとも恥ずかしがってるの?」
嫌がって逃げるハインツを面白がってシャルロットが追いかける。
まるでカップルがじゃれ合っている様だ。
トクン…
(あっ…また…)
さっきより強い締め付けにグロリアは両手で胸を押さえる。
もうどうしていいか分からなくなり、二人に何も告げずよろよろと中庭を去っていった。
追いかけっこに夢中になっていたシャルロット達がグロリアがいない事に気付いたのは暫く経ってからであった。
「グロリア…あなた、それは嫉妬ね…」
「…嫉妬…?」
城の使用人や侍女の為の休憩室で、事情を話した先輩メイド、リサからそう言う答えが返って来た。
リサはグロリアより二つ上の十五歳、栗色の髪のポニーテールにそばかすだらけであか抜けないが愛嬌のある顔をしている。
平民出身でありながら王城に仕える事を許されるのは実に稀で、周りの使用人仲間もその理由は知らない。
性格は明るくうわさ話と恋の話に目が無い、いたって普通の少女だ。
彼女のメイド服は実にオーソドックスな紺色の物でスカートの丈も足首位まであり他のメイドも同様の物を着ている。
実はグロリアの赤いミニスカメイド服はシャルロットの趣味が多分に盛り込まれたオーダーメイドであった…完全に職権乱用である。
リサはグロリアにメイドの仕事の基礎を教えた人物で、人見知りがちなグロリアが城内で打ち解けている数少ない人物だ。
「きっとあなたは愛しのお兄さんをシャルロット姫様に取られそうになっているものだから無意識の内に姫様に嫉妬しているんじゃないのかしら?」
腕を組んでうんうんと何度も頷くリサ…自分の推測に余程自信があるらしい。
「う~~~ん…そうなのかな…」
確かに兄、ハインツは友達も無く引きこもりがちだった自分に付き合って色々と世話を焼いてくれた…しかし果たして自分はそこまで兄に固執していたのだろうか?
グロリアにはよく分からなかった…。
「私の見立てだとあれはさ…完全に姫様の方がハインツさんにゾッコンよね…
ハインツさんは奥手で押しに弱そうだからこのままだと簡単に落ちるわね…」
「えっ…?」
トクン…
またしてもグロリアの胸が高鳴る。
ただ二人がそういった関係になると聞かされただけでこうなのだ。
やはりリサの言う嫉妬の線はあながち間違ってはいない様だ。
「お兄さんを取られるのが嫌なら何か行動を起こした方がいいんじゃないかしら?」
「一体どうすれば…」
「それは簡単!!二人っきりにさせなければいいのよ!!」
ビシッとグロリアの顔の前に人差し指を向けるリサ。
「…なるほど」
リサにすっかり乗せられ段々とその気になって来たグロリアは早速行動に出る事にした。
「あの…グラハム様…」
「おや…?グロリアさん、あなたの方から話し掛けてくるなんて…一体どうしたのですか?」
シャルロット達に稽古をつけ終わり、帰ろうとしていたグラハムを呼び止めた。
暫し言いよどむグロリア。
「………私も…私も明日から朝の稽古に参加させて頂けないでしょうか…?」
「えっ…?」
予想だにしない彼女の申し出に戸惑うグラハム。
本当に自分はシャルロットに対して嫉妬しているのかどうかまだ確信は持てない…しかしこの胸の痛みが解消できるならただ行動あるのみ…悩める少女グロリアの自分探しが始まった。
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