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第二章 首を突っ込み過ぎた?

第9話 わぁい!男の娘だらけの格闘大会 次鋒戦

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「よっしゃ!何とか一勝目をもぎ取ったな!」

意気揚々なジュン、僕の方を見てニッコリ微笑む。

「流石アキラはん、作戦がバッチリ決まりましたな~!」

アイも褒めてくれる。

「いや、それもこれもすべてミナミの努力と根性のおかげさ!まさか試合中にトランスセクシャル化を会得するとは予想外だったよ!」

「ふぅん~、そんなにミナミの事買ってるんだ~」

イツキだ、顔の表情は笑ってるのだが、体からにじみ出るオーラは全く逆の物だ。

「アキラはミナミにはいつも優しいよな?初めて会った時だって、お姫様抱っこで家に連れ帰って傷の手当てしたり…!」

「まだそれを言うか!あれは仕方ないだろう?怪我人を放って置けるか!」

「じゃあベッドに連れ込んだのは?!」

「あれは!ミナミが勝手に…」

今日は随分と噛み付いて来るな~イツキ。

「さっきミナミとデートの約束してたよな?そんなにミナミがいいなら二人で付き合っちゃえよ!」

「なっ何だよそれ!イツキ最近変だぞ?ほかのヤツと仲良くしてるとやたら突っかかって来るよな!」

「そっそれは!その…」

急に歯切れが悪くなるイツキ、拳を握りしめプルプルと震えだす。

「……バカ!」

うつむきながら猛ダッシュで行ってしまった…
まずったな…試合前にイツキの機嫌を損ねたのは、後でそれとなくフォローを入れておこう。

「なっ中々やるわね!…でもいい気にならないで!次はこちらもそれ相応の戦力で行かせてもらうわ!」

先鋒戦に負けたのが余程悔しいらしい、赤ビキニが悪態を吐いてはいるが声がどもり気味だ。

「タツミ!次鋒で行って頂戴!」

「アイヤ!分かったアル!チアキの仇はとるアルよ!」

出た!僕が警戒している人物の一人。
お団子頭で真っ赤なスパンコールに金刺繍のチャイナドレス、ゲーム等に良くいる女性拳法使いの強キャラのイメージだ。
どうする?なるべくなら連勝で行きたい所だが、ここでイツキを出して負けるような事があればバラ組の勝利が怪しくなってくる。
よし!ここは…

「アイちゃん!次鋒行ってくれ!」

思わずちゃん付けで呼んでしまった!何だか色々と感覚が麻痺してきている。

「…ウチの出番でおますか~?」

相変わらずのんびりしてるな。
ジュン&アイの二人の実力は正直な所、殆ど把握できていない。
しかしアイはツインズハリケーンなる技を使った時、ジュンを物凄い勢いで振り回していた訳だから、相当な胆力があると見た!
個人技能がどうなのかは分からないがここは彼に賭けてみたい。

「自信は無いねんけどやるだけやってみますわ~!」

お尻にくい込んだブルマーを指で戻しながら実に頼りない返事をするアイ。
何か不安になってきた…

「ちょいと体を暖めたいネ、三分だけ時間よろしいアルか?」

チャイナのタツミが提案して来た。

「ほなウチも柔軟させてもらうわ~」

暖冬とはいえ公園内は結構な寒さだ、ウォーミングアップは必要だろう。
開脚状態で座り、片足ずつ交互に上体をぺったりとくっつける動作を繰り返すアイ。
体、柔らかいな~まるで女の子みたいだ。
その奥であのお団子チャイナことタツミが胸の前辺りで広げた左掌に右の拳を当て呼吸を整えている、よく香港のカンフー映画で見る挨拶の型だ。
程なくしてタツミは演武を始めた、時に優雅に、時に猛々しく流れる様な動きが美しい!スカートのスリットから露出するフトモモも美しい!だが男の娘だ!
拳や蹴りが放たれる度にボッ!とかババッ!とか空を切る音が聞こえる…あ、これヤバイやつだ!

「ほえ~!ものごっついな~あのお人は!」

アイも驚いている、にしても緊張感が無さすぎだろ!
素人の僕から見てもタツミは相当な手練れであるのは間違いない。
これはいよいよ覚悟しなければならないか…

三分が立った。

「両者はフィールド中央へ!」

宮野審判長の声が響く。
中央で対峙するアイとタツミ。

「ファイト!」

さあ!次鋒戦の開始だ!

ドーン!

僕の横を何かが飛んで行った…え?
その何かを確認する為に振り向くとそこにはうつ伏せに倒れているアイの姿があった!

「…ウチ…こんな出オチみたいな負け方いやや~」

そう言い残してガクッと気を失った…

「アイ~!しっかりしいや~!」

すぐにアイのもとに駆け寄るジュン。

「そこまで!次鋒戦勝者 ユリ組 椎名タツミ!」

審判長に右手を挙げられ勝ち名乗りを受けるタツミ。
…次元が違い過ぎる…何が起きたのかすら分からなかった…
カグラの話によるとタツミが開幕に放った肘打ちがアイのみぞおちにヒット!そのまま吹っ飛んだらしい…

「これで勝ち星は五分になったアルね!これならウォーミングアップは必要なかったアル!」

ふふん!と鼻で笑うチャイナのタツミ。

「そうよ!良くやったピョン!皆さんタツミに続きなさいピョン」

珍しく弟子を褒めるルナ、結果を出した者は賞賛するが失敗した者は切り捨てる、駄目な上司の典型だなあのウサギ!かるくイラッとする僕。
ごめんアイ!対戦相手が悪すぎた…あのチャイナ、多分敵の五人の中で一番か二番目に強いよ。

「あっはっはあ~!どう?これがユリ組の実力よ?思い知った?」

ぐぬぬ…

思い切り勝ち誇る赤ビキニ。

「この調子で一気に勝負を決めてしまうピョン!中堅はヒカル行くピョン!」

「分かりました、出ましょう…」

向うは完全にここで決めに来た!とうとうあの女騎士を投入して来たのだ。

「君らは気付いているか?自分たちが中堅戦で負けた時点でチームの負けが決定する事を…」

「ちょっと!言わなければ気付かなかったかもしれないのに…!」

何やら赤ビキニと女騎士が揉めている。
あれ?先に三勝が勝利条件だったはずだよな?

「私は騙し打ちが嫌いだ!さっきまでは我慢していたが言わせてもらおう!」

女騎士が語気を強めると赤ビキニはしぶしぶ押し黙る、リーダーシップを執っている赤ビキニではあるがこれで二人の力関係が想像できるってものだ。
断言しよう、この女騎士こそ一番の実力者だ!

「最初に先に三勝した方が勝ちと言ってあったが、今の君らの成績は一勝一敗、もし次に負けたとすると一勝二敗、選手が四人の時点で最高でも二勝二敗までしかならない」

「あ!そうだった!」

「五人目はどうなったんだよ?カグラ…様!考えがあるって言ってたよな?」

僕は慌ててカグラを問い詰める。

「もう手配はしてあるニャ!もう少しで準備できるニャ!」

忘れてはいなかったようだ…焦らせるぜ…

「なるべく早く連れて来ることだ…」

女騎士ヒカルは実に堂々としていた、へぇ…ユリ組にも紳士的って言っていいのか、淑女的って言っていいのか、フェアな奴が居るんだな。
取り敢えず今は中堅戦だな、ここは絶対に落とせない!

「イツキ!出てくれ!」

呼んでも返事が無い…てか居ない?まさか次鋒戦前から戻ってないのか?

「すまない!次に戦うはずの奴がどこかにいってしまったんだ!探すのに10分だけ時間をくれないか!」

ダメ元で申し出る、恐らくこの女騎士と互角に張り合えるのはウチのチームではイツキだけだ!
ジュンには悪いけどな…

「馬鹿じゃないの?そんなの許可する訳…」

「30分までなら待ってやる、…それまでに探し出せなければそこのジャージに戦ってもらう、それでいいな?」

赤ビキニを制してヒカルが言う。
この女騎士、案外いいヤツだ!

「ありがとう!恩に着るぜ!」

僕は言うが早いか、先程イツキが駆け出して行った方向に猛スピードで向かった。



「あら~アキラくん~どうしたの~そんなに慌てて~」

ややしばらくして母さんとすれ違う。
両手に持った風呂敷には恐らく弁当が入っているのだろう、しかし明らかに数が多い。

「さっき~カグラ様に試合をしてるって聞いて~お相手の方たちのお弁当も用意したの~」

我が母親ながら底抜けのお人好しである。
おっと!こうしてはいられない!イツキを探さなきゃ!

「そうだ!母さん!イツキ見なかった?」

「イツキちゃんなら~ついさっき見たわよ~声掛けたけど気付かなかったみたい~」

「どっち行ったか分かる?」

「この先の開けた所から右の方へ行ったわ~」

母さんは今自分が来た道を指差して言った。

「何かあったの~?イツキちゃん泣いてたみたいだったけど~」

「え?あのイツキが泣いていた?そんな…僕はそんなにイツキを傷つけたのか?あれ位の事で?」

狼狽えている僕に母さんは真剣な表情を向け、

「アキラ君!あなた男の娘心が分かってないわね?今までの出来事を母さんに話して御覧なさい!」

いつに無く強い口調で僕を問いただした。
男の娘心って…初めて聞きましたよ母さん…

タイムリミットの件もある、僕は出来るだけ簡潔に先程のイツキとの出来事を母さんに話した。

「あら~イツキちゃんたら~いつの間にかしっかり男の娘なのね~母さん嬉しいわ~」

「母さん!そんなのん気な事言ってる場合じゃ無いんだって!」

焦る僕。

「まあ聞きなさい~これはトランスアーツをやってる子が必ず通る道なのよ~」

「…と言うと?」

「あの子達が~アニマによって体が一時的に女性化するのは~あなたも知ってるわよね~?」

「ああ…それによって心にも少なからず女性化の影響を受けるのは以前イツキに聞いた」

「それよ~?今イツキちゃんの心の中は~友情と愛情が混ざり合った複雑な感情で一杯になっているの~あなたも小さいときに経験無い~?仲が良い友達が別の友達と自分抜きで楽しそうにしていて切なくなった事~」

「あるよ…要するに嫉妬って事だよね?幼稚園くらいの時って男の子同士でも普通に手を繋ぐし、
性別抜きに相手の事純粋に好きって言える、だから自分の好きな子が自分意外と仲良くするのが嫌なんだ」

「そうそう~イツキちゃんの場合~心の女性化によってそこに異性間に生じる【好き】が上乗せされているの~意中の男の子が~自分以外の男の娘と仲良くしてたら~それは悲しくなっちゃうでしょ~?」

「え?イツキが僕の事を異性として好きだって言うのかい?」

「ええ~きっとそうね~」

母さんは静かに頷いた。何となくそう言う素振りはあったけど、そう言う事だったのか…
何だろうこの胸の中に沸き起こる落ち着かない感覚は…

「そうか…母さんに相談できて良かった…さすが母さんはイツキ達男の娘の先輩だね」

「それを言うなら~人生の先輩でしょ~?」

ははっと二人して笑いあった。

「さあ~これを持ってイツキちゃんの所へ行ってお上げなさい~頑張るのよ~?」

母さんにハンカチとマフラーを手渡される。

「うん、分かった!ありがとう母さん…」

改めて僕はイツキを探し始めた。
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