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第27話 戦闘開始!
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萌美さんからのメールには次のように書かれていた。
『夜分遅くごめんね。今日は会議が長引いているから、家に帰れそうにないわ。明日、絶対私の指示に完全に従ってね。一つでも抜けてしまうと、マジでヤバイからね。
それと、大五郎さんは私の彼氏ってことにしてあるからよろしく。そうじゃないと異常もないのになんで足を運んでいるんだって思われるからね。じゃあねー』
僕たち二人は顔を見合わせた。
「ええ、嫌だよ〜」僕は両手で頭を抱えた。ションベン臭いガキの彼氏だなんて!
しずくさんは、隣で一瞬目を上にあげて、うなずいた。
「うん、そうするしかないよね」
サラッとしたものだ。当たり前だけど、完全に脈なし。はぁ。
時計を見た。まもなく明日が今日になる。僕はゴクリとつばを飲み込んだ。
「明日、がんばろうね」しずくさんが、僕の肩をたたいて、「おやすみ」と言って、二階に上がっていった。
僕は一人カフェに残り、祈った。
「明日、本当に何事もありませんように」と。
―大丈夫、この作戦だったらしずくさんを守ることが出来る。
僕は、そう言い聞かせて寝床に入ったが、眠ることができなかった。
翌日は、カフェを休みにして朝からリハーサルを開始した。
カフェ55のメンバーたちが歌うのは、なんと童謡だ。なぜ童謡なのか。理由は3つある。
1つは、楽譜がしっかりとあること、2つめは耳馴染みにいいこと、3つめは少しせこい話だが、著作権問題がないことだ。
伴奏はしずくさんのピアノオンリー。そんな状況でもカフェ55のメンバーたちは自分たちなりに振り付けを考えた。お客さんに楽しんでもらえるように一生懸命に取り組んでくれている。
本当は、詳しい事情を彼女たちにも話したほうがスムーズなのかもしれない。だが、しずくさんの素性を知る人が増えれば増えるほど、情報漏えいの危機が高まる。だから、彼女たちはカフェ55が結成された本当の理由を何も知らない。
萌美さんがやってきたのは、午前11時だった。
「ごめん、ごめん。会議が長引いちゃって」
走ってきたのか、ハアハアと息切れをしている。
そして、上半身ぐらいの大きさがあるボストンバッグから、あるものを出した。
「みんなこれをつけてみて」
「ええ〜、なにこれ〜」
それは、仮面舞踏会に出てくるような白い仮面マスクだった。
「せっかくメイクをしてきたのに」「なんでこんなものつけなきゃいけないの」
彼女たちは、ブーブー言っている。無理もない。
「あかりさんみたいに30歳過ぎの女性もいるから、みんなつけてもらわないとなんかチグハグになっちゃうでしょ」
「な、なんですって〜!」
――萌美さん、物議をかもすような言い方はやめてくれぇぇぇ!
「店長、萌美さん本当になんとかして。もうやる気なくなるわ」
あかりさんは、明らかに怒っている。
「あ、それは違うんだ」僕はフォローに入ることにした。
「君たちは、タレント性があるっていうか、オーラがあるっていうか、まあ輝いている。だから、ファンがたくさんできてしまうと思うんだ。もし正体がバレちゃうと、ファンが家まで押しかけてくる危険性もある。だから、仮面をつけるんだよ。萌美さん、誤解されるから悪い冗談はやめてね」
「え、私は本気…モガ」
僕は、萌美さんの口をおさえた。
この仮面は、監視カメラの生体反応をカットする布が使われている。まあ電磁波を遮断する素材というわけだ。
国防省の人間が監視カメラを持ってきた場合でもかわすための苦肉の策である。
「たしかに、それだったら仮面をつけておいた方がいいわね」「そうね」
どうやら、みんな納得してくれたようだ。
しずくさんも仮面を装着した。萌美さんがビデオカメラのふりをして、国防省の監視カメラで生体反応をカットできているのかをチェックする。
萌美さんは僕のほうを見て、指でオッケーの合図をした。
――ああ、これでなんとか全てつじつまがあってきた。
午後からは、鉛筆会議メンバーたちもポツポツとやってきた。音響を調整したり、テレビカメラを設置したり、コンピューターで生配信の準備をしたりと奔走した。
1年かけて、このアイドルグループのライブを作り上げているそういう設定にしなければいけないので、みんな本気だ。
午後6時30分。開場した。50名のお客がドッとカフェに押し寄せる。チケットは30万円、ドリンクの売上も含めて2,000万円近くの売上となった。21世紀風に言えば、20万円相当の売上だ。カフェ55のメンバーへの支払いも十分に出来る。
その中に、国防省コンピュータ部門の中田健がいた。萌美さんがカウンターの中にいる僕の目の前に彼を連れてきた。
「ダーリン、この人が同僚の中田さんよ」
そう言って、萌美さんがテーブルに手をおき、僕の耳元をチュッとくちづけした。
――何がダーリンじゃ。くそっ。
「どうも、中田さんはじめまして、カフェ店長の横山大五郎と申します」
僕と中田さんは名刺交換をした。
『国防省コンピュータ部門 中田健』
なんて勇ましく神々しいオーラの名刺……。
僕のお手製の名刺なんてこの名刺に比べたら鼻くそだ。
「今日はとても楽しみに来ましたよ。萌美さんがぜひ来て欲しいと言ってくれたので、お言葉に甘えて参りました」
「そうでしたか、わざわざこんな田舎までありがとうございます」
――うそつけ、監視しに来たくせに。
僕はヒクヒクとなりながらも、なんとか愛想笑いで乗り切った。
午後7時。黄色いスポットライトがついた。
仮面をつけたカフェ55のメンバーたちが暗闇から光に照らされ、現れた。
しずくさんもしっかり、仮面をつけている。
中田さんは、オペラグラスのようなもので、舞台をのぞきこんでいる。萌美さんの話いわく、あれこそが監視機能付きのカメラなのだそうだ。
ピアノに童謡を強引にダンスしながら歌うという、お粗末なライブだ。しかし、観客たちにはそんなことは関係なかった。しかし、唯一不満があった。
「仮面をとってー」と観客たちが叫ぶ声が聞こえる。そりゃ、仮面付きだとは思わないよな。
「私たちの心を見てほしいから、仮面ははずせないのです」と一生懸命あかりさんが説明をしている。年の功なのか、堂々としている。
「仮面をとらなくても、私たちのこと嫌いにならないでください」
「はーい」ファンたちは大きな声で叫ぶ。なんとか乗りきれそうだ。
ライブは思いのほか、大盛況だ。
――大丈夫。もう監視の目もくぐった。
安堵した、そのときのことだった。
しずくさんの仮面のゴムがはずれた。そして、しずくさんの顔がサッと現れてしまったのだ。
――ああ!!! めっちゃヤバイ!!!
『夜分遅くごめんね。今日は会議が長引いているから、家に帰れそうにないわ。明日、絶対私の指示に完全に従ってね。一つでも抜けてしまうと、マジでヤバイからね。
それと、大五郎さんは私の彼氏ってことにしてあるからよろしく。そうじゃないと異常もないのになんで足を運んでいるんだって思われるからね。じゃあねー』
僕たち二人は顔を見合わせた。
「ええ、嫌だよ〜」僕は両手で頭を抱えた。ションベン臭いガキの彼氏だなんて!
しずくさんは、隣で一瞬目を上にあげて、うなずいた。
「うん、そうするしかないよね」
サラッとしたものだ。当たり前だけど、完全に脈なし。はぁ。
時計を見た。まもなく明日が今日になる。僕はゴクリとつばを飲み込んだ。
「明日、がんばろうね」しずくさんが、僕の肩をたたいて、「おやすみ」と言って、二階に上がっていった。
僕は一人カフェに残り、祈った。
「明日、本当に何事もありませんように」と。
―大丈夫、この作戦だったらしずくさんを守ることが出来る。
僕は、そう言い聞かせて寝床に入ったが、眠ることができなかった。
翌日は、カフェを休みにして朝からリハーサルを開始した。
カフェ55のメンバーたちが歌うのは、なんと童謡だ。なぜ童謡なのか。理由は3つある。
1つは、楽譜がしっかりとあること、2つめは耳馴染みにいいこと、3つめは少しせこい話だが、著作権問題がないことだ。
伴奏はしずくさんのピアノオンリー。そんな状況でもカフェ55のメンバーたちは自分たちなりに振り付けを考えた。お客さんに楽しんでもらえるように一生懸命に取り組んでくれている。
本当は、詳しい事情を彼女たちにも話したほうがスムーズなのかもしれない。だが、しずくさんの素性を知る人が増えれば増えるほど、情報漏えいの危機が高まる。だから、彼女たちはカフェ55が結成された本当の理由を何も知らない。
萌美さんがやってきたのは、午前11時だった。
「ごめん、ごめん。会議が長引いちゃって」
走ってきたのか、ハアハアと息切れをしている。
そして、上半身ぐらいの大きさがあるボストンバッグから、あるものを出した。
「みんなこれをつけてみて」
「ええ〜、なにこれ〜」
それは、仮面舞踏会に出てくるような白い仮面マスクだった。
「せっかくメイクをしてきたのに」「なんでこんなものつけなきゃいけないの」
彼女たちは、ブーブー言っている。無理もない。
「あかりさんみたいに30歳過ぎの女性もいるから、みんなつけてもらわないとなんかチグハグになっちゃうでしょ」
「な、なんですって〜!」
――萌美さん、物議をかもすような言い方はやめてくれぇぇぇ!
「店長、萌美さん本当になんとかして。もうやる気なくなるわ」
あかりさんは、明らかに怒っている。
「あ、それは違うんだ」僕はフォローに入ることにした。
「君たちは、タレント性があるっていうか、オーラがあるっていうか、まあ輝いている。だから、ファンがたくさんできてしまうと思うんだ。もし正体がバレちゃうと、ファンが家まで押しかけてくる危険性もある。だから、仮面をつけるんだよ。萌美さん、誤解されるから悪い冗談はやめてね」
「え、私は本気…モガ」
僕は、萌美さんの口をおさえた。
この仮面は、監視カメラの生体反応をカットする布が使われている。まあ電磁波を遮断する素材というわけだ。
国防省の人間が監視カメラを持ってきた場合でもかわすための苦肉の策である。
「たしかに、それだったら仮面をつけておいた方がいいわね」「そうね」
どうやら、みんな納得してくれたようだ。
しずくさんも仮面を装着した。萌美さんがビデオカメラのふりをして、国防省の監視カメラで生体反応をカットできているのかをチェックする。
萌美さんは僕のほうを見て、指でオッケーの合図をした。
――ああ、これでなんとか全てつじつまがあってきた。
午後からは、鉛筆会議メンバーたちもポツポツとやってきた。音響を調整したり、テレビカメラを設置したり、コンピューターで生配信の準備をしたりと奔走した。
1年かけて、このアイドルグループのライブを作り上げているそういう設定にしなければいけないので、みんな本気だ。
午後6時30分。開場した。50名のお客がドッとカフェに押し寄せる。チケットは30万円、ドリンクの売上も含めて2,000万円近くの売上となった。21世紀風に言えば、20万円相当の売上だ。カフェ55のメンバーへの支払いも十分に出来る。
その中に、国防省コンピュータ部門の中田健がいた。萌美さんがカウンターの中にいる僕の目の前に彼を連れてきた。
「ダーリン、この人が同僚の中田さんよ」
そう言って、萌美さんがテーブルに手をおき、僕の耳元をチュッとくちづけした。
――何がダーリンじゃ。くそっ。
「どうも、中田さんはじめまして、カフェ店長の横山大五郎と申します」
僕と中田さんは名刺交換をした。
『国防省コンピュータ部門 中田健』
なんて勇ましく神々しいオーラの名刺……。
僕のお手製の名刺なんてこの名刺に比べたら鼻くそだ。
「今日はとても楽しみに来ましたよ。萌美さんがぜひ来て欲しいと言ってくれたので、お言葉に甘えて参りました」
「そうでしたか、わざわざこんな田舎までありがとうございます」
――うそつけ、監視しに来たくせに。
僕はヒクヒクとなりながらも、なんとか愛想笑いで乗り切った。
午後7時。黄色いスポットライトがついた。
仮面をつけたカフェ55のメンバーたちが暗闇から光に照らされ、現れた。
しずくさんもしっかり、仮面をつけている。
中田さんは、オペラグラスのようなもので、舞台をのぞきこんでいる。萌美さんの話いわく、あれこそが監視機能付きのカメラなのだそうだ。
ピアノに童謡を強引にダンスしながら歌うという、お粗末なライブだ。しかし、観客たちにはそんなことは関係なかった。しかし、唯一不満があった。
「仮面をとってー」と観客たちが叫ぶ声が聞こえる。そりゃ、仮面付きだとは思わないよな。
「私たちの心を見てほしいから、仮面ははずせないのです」と一生懸命あかりさんが説明をしている。年の功なのか、堂々としている。
「仮面をとらなくても、私たちのこと嫌いにならないでください」
「はーい」ファンたちは大きな声で叫ぶ。なんとか乗りきれそうだ。
ライブは思いのほか、大盛況だ。
――大丈夫。もう監視の目もくぐった。
安堵した、そのときのことだった。
しずくさんの仮面のゴムがはずれた。そして、しずくさんの顔がサッと現れてしまったのだ。
――ああ!!! めっちゃヤバイ!!!
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