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エピローグ
エピローグ①
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六月に入ってまもなく、優子さんは会社を退職してしまった。
退職の日、会社の前まで彼氏が迎えに来ていたそうで、アイドルみたいにイケメンだったと噂で聞いた。
年下イケメンかぁ……。
ZYXの三人を思い浮かべて、思わず「いいなぁ」と思ってしまった。
しかも言い寄られたのは優子さんのほうなわけだからすごい。
退職の理由は聞いてないけど、結婚するのかな。
優子さんほど能力の高い人が、愛する人のためだけに人生を捧げるのだとしたら、それはそれで虚しく感じてしまうけど、でもそれは私という他人の勝手すぎる感情だ。
“幸せにはいろんな形があるよ”
そう言って背中を押してくれた優子さんを、私も尊重したい。
ロールモデルだった人との交わりはあの一度きりで終わって、その後の道は完全に別々のものになってしまった。
けど、人の縁なんてきっとそんなものなんだろう。
それでもあの時優子さんと話せたことが、今の私の幸せに必要だったことは間違いないし、いなくなってしまう前に話ができて本当に運が良かったと思う。
もう私の前には誰もいない。
でも、不安はない。
ずっと望んでいて、でもきっとどこにも無いんだろうと思っていたものが、手に入ったから。
私は今、これまで生きてきた中で一番幸せだ。
ソフレをパートナーとして人生を歩むことを、誰にどう思われようとどうでもいい。
私たちの関係性の価値は私たちにしかわからないし、私と理雄先輩だけがわかっていればいい。
理雄先輩が過去の出来事を話してくれて嬉しかったし、私が手に入れた幸せは理雄先輩の辛い過去の延長線上にあるということも、同時に理解した。
だからこそ、先輩にも幸せでいてもらえるように、私は私のまま、私らしくいようと思う。
その理雄先輩は、この土日は絵のお仕事で不在。
私は一人でお留守番だ。
「ああー、週末に理雄先輩がいないと落ち着かないな」
自宅のベッドで一人目覚めた日曜の朝。
窓際のデスクチェアーに座って、マーガリンを塗ったトーストをかじりながら、椅子をぐるぐる左右に動かした。
「早く帰ってこないかな……」
そう無意識につぶやいて、いや、帰ってきたって添い寝の日はまた数日後なんだけど、と思い直す。
というか、「土日にいないから」って日をずらして、金曜の夜に泊まって昨日の朝別れてきたばかりだったりする。
それでも、休みの日に理雄先輩とゆっくり過ごす時間があるのが普通になりすぎていて、なんだか家族が旅行に行ってるみたいな……いるはずの人がいない、みたいな、そんな感覚になってしまっている。
“空気みたいっていうか。いるのが当たり前っていうか”
ずっと未知の世界だと思っていたあの感覚が、なんだか少しずつ、自分の中にも生まれているような気がする。
きっとそのうち、そうなるんだろう。
家族とも友達とも恋人とも違って、なんなら仕事仲間なのに、その人がいて当たり前、いない人生を考えられないという、不思議な関係性――に、私たちはなっていくんだろう。
いやー、最高だ。
ほんとにこんなに幸せでいいのかな?
退職の日、会社の前まで彼氏が迎えに来ていたそうで、アイドルみたいにイケメンだったと噂で聞いた。
年下イケメンかぁ……。
ZYXの三人を思い浮かべて、思わず「いいなぁ」と思ってしまった。
しかも言い寄られたのは優子さんのほうなわけだからすごい。
退職の理由は聞いてないけど、結婚するのかな。
優子さんほど能力の高い人が、愛する人のためだけに人生を捧げるのだとしたら、それはそれで虚しく感じてしまうけど、でもそれは私という他人の勝手すぎる感情だ。
“幸せにはいろんな形があるよ”
そう言って背中を押してくれた優子さんを、私も尊重したい。
ロールモデルだった人との交わりはあの一度きりで終わって、その後の道は完全に別々のものになってしまった。
けど、人の縁なんてきっとそんなものなんだろう。
それでもあの時優子さんと話せたことが、今の私の幸せに必要だったことは間違いないし、いなくなってしまう前に話ができて本当に運が良かったと思う。
もう私の前には誰もいない。
でも、不安はない。
ずっと望んでいて、でもきっとどこにも無いんだろうと思っていたものが、手に入ったから。
私は今、これまで生きてきた中で一番幸せだ。
ソフレをパートナーとして人生を歩むことを、誰にどう思われようとどうでもいい。
私たちの関係性の価値は私たちにしかわからないし、私と理雄先輩だけがわかっていればいい。
理雄先輩が過去の出来事を話してくれて嬉しかったし、私が手に入れた幸せは理雄先輩の辛い過去の延長線上にあるということも、同時に理解した。
だからこそ、先輩にも幸せでいてもらえるように、私は私のまま、私らしくいようと思う。
その理雄先輩は、この土日は絵のお仕事で不在。
私は一人でお留守番だ。
「ああー、週末に理雄先輩がいないと落ち着かないな」
自宅のベッドで一人目覚めた日曜の朝。
窓際のデスクチェアーに座って、マーガリンを塗ったトーストをかじりながら、椅子をぐるぐる左右に動かした。
「早く帰ってこないかな……」
そう無意識につぶやいて、いや、帰ってきたって添い寝の日はまた数日後なんだけど、と思い直す。
というか、「土日にいないから」って日をずらして、金曜の夜に泊まって昨日の朝別れてきたばかりだったりする。
それでも、休みの日に理雄先輩とゆっくり過ごす時間があるのが普通になりすぎていて、なんだか家族が旅行に行ってるみたいな……いるはずの人がいない、みたいな、そんな感覚になってしまっている。
“空気みたいっていうか。いるのが当たり前っていうか”
ずっと未知の世界だと思っていたあの感覚が、なんだか少しずつ、自分の中にも生まれているような気がする。
きっとそのうち、そうなるんだろう。
家族とも友達とも恋人とも違って、なんなら仕事仲間なのに、その人がいて当たり前、いない人生を考えられないという、不思議な関係性――に、私たちはなっていくんだろう。
いやー、最高だ。
ほんとにこんなに幸せでいいのかな?
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